309-71 小編:収穫祭とエイラちゃん
9月の下旬、ミフロの収穫祭でのこと。
8月の終わりはエイラちゃんとわたしと風邪をひいて寝込んでしまって追い込みは不調だったけれど、さすがにそれが響いて納税できないというほどかつかつの生活をしているわけでもなく、無事に今年も納税を終えられた9月も下旬。
この頃にはミフロではささやかなお祭りが行われる。
お祭りと言っても、教会の横の広場に村の皆で食事や飲み物を持ち寄って飲み食いするだけで、好きな人は歌や踊りもするけれど、お祭りの一環として企画されているものはなく、純粋に村人総出の立食パーティーと言った感じのものだ。当然、花火みたいなものもない。
その年の実りを祝いつつ、来たる長い冬の前に英気を養うような意味もある収穫祭であり、また主宰というわけではないのだけれど大自然を信仰対象としている万物教会が絡んでいることもあって、いまさらだとは思いながら、教会との関係が微妙らしい不死の魔法使いのわたしとしては、あんまり堂々と参加するのもちょっと気が引けて、今年も端っこの方でこっそり参加させてもらっていた。
……まぁ、村のみんなが入れ替わり立ち替わりで挨拶に来てくれるから、目立っていないということは全然ないのだけれども。
しばらくして、ようやく挨拶に来てくれる人が落ち着いた。
クライアさんやハルベイさんと言った、よくよく付き合いのある人たちから始まった挨拶は、ほとんどが一言二言言葉を交わすだけの簡単なものだったけれど、200人近くと連続での挨拶はさすがにちょっと疲れてしまった。
ふぅ、と一息ついて椅子代わりの丸太に腰掛ける。
時間は太陽が少し西へ傾き始めた頃。
結局まだ何も口にできていないので、ちょっと休憩したら少し食べ物をもらいに行こうかな、と思いながら談笑するミフロの人たちを見渡してみる。
前世で見知ったお祭りのような喧騒はないけれど、普段のミフロからすれば賑わい、わいのわいのと楽しげな雰囲気が溢れていて、わたしもなんだかほくほくとしてくる。
と、そうしてミフロの人たちを眺めていたら、少し離れたところにエイラちゃんの帽子が見えた。
どうやら村の子らと会話しているみたい。
相手はエイラちゃんより2、3は年上に見える男女のふたり。確かあのふたりはひとつ違いの幼馴染みで、女の子の方が最近16歳になって成人したから結婚した、という話を聞いた気がする。
そんなことを思い出しながらそちらをじっと見ていたら、エイラちゃんがわたしのその視線に気がついた。ふたりに断って、こちらに戻ってくる。
そばまできたエイラちゃんに、隣に座るように促しつつ──
「──別にわたしのことは気にせずに、お友だちとお話ししてても良かったのに」
「……いえ、お構いなく。それに昔から彼女らの顔は知っていますが、友達ではありません」
「ん? あんまり付き合いはなかったの?」
少し投げやりな感もあるエイラちゃんの返答を聞いて、首を傾げた。
確かエイラちゃんもあのふたりも、だいぶ前からこのミフロに住んでいたと思ったのだけれど。
「付き合い……。……再誕者のアルビノと言うと、不気味だったのでしょう。気味悪がって誰も近づこうとしませんでしたので」
「え……そんな、エイラちゃん良い子なのに……」
「……良い子、かは分かりかねますが……。サクラ様にお仕えさせていただくようになるまでは、わたくしに話し掛けようとする人はほとんどいませんでした。……お仕えさせていただくようになってからは、多少話しかけられることも増えましたが、気味が悪いと思われるならば別にあえてその認識を変えていただこうとは思いません」
「そんな……、それは良くないよ!」
つい思わず声が大きくなってしまった。
いつの間にか少し表情が険しくなっていたエイラちゃんは、険しさはそのままに、ちょっと不思議そうな表情も加わっていた。
「なんて言うのかな……。友達は得難いものだよ、エイラちゃん。それも年が近くて旧知ならなおさら……。きっかけがあったなら、誤解は解いておくべきだよ。お互いのことを正しく知って、その上で距離を置くことになるなら仕方ないけれど……。でも、今あえて距離を置くようなことはしないで欲しいな……」
「……そうでしょうか。……サクラ様がそう仰るなら」
エイラちゃんの表情が和らいだ気がした。
「うんうん。……エイラちゃんはしっかり者だし、きっと年上の子とも仲良くなれると思うよ」
嬉しくなったわたしが何気なくそんな言葉をかける。
──と、なぜかエイラちゃんがきょとんと首を傾げた。
「……年上……? 先のふたりのことでしたら、あまり歳は変わらなかったはずです」
「んぇ?」
少しの間があった。
「あの子たちって、16歳とかだったよね?」
「……そのはずです」
「……エイラちゃんって、今いくつ……?」
「……? 16ですが……」
「えっ!? あっ……、てっきり12、3歳くらいだと……」
びっくりするわたし。そのわたしの様子を見たエイラちゃんは、あぁ、となんだか納得したような様子だった。
「……再誕者は寿命が長い分、成長が遅いと聞いたことがあります」
「へぇ……そうだったんだ……。あ、エイラちゃんと暮らすようになってから1年以上経ってるし、今16歳ってことはいつの間にか成人してたんだね……おめでとう……」
「……ありがとうございます」
すっかり勘違いし続けていたことに気がついて、ちょっと呆け気味になってしまったわたしと、特に何を気にする様子でもないエイラちゃん。
三年目の収穫祭は、エイラちゃんについてひとつ正しく知れた日になったのだった。
本編はまだ掛かります…




