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304-56 穏やかな生活へ

 新しい家の設計と言うか間取りは、あれよあれよと言う間に決まっていって、その日のうちに大体のところが決まってしまった。

 一応形の上ではマリューの別荘と言うことにはなるのだけれど、実際に使うのはわたしとエイラちゃんだから、家の作りは基本的にわたしたちの意向に沿って作ってくれることになった。

 まぁ、わたし自身は気後れしてあまり口は出せなかったのだけれど、マリューの聞き取りにエイラちゃんが、わたしが以前、新しい家を建てるならどんな家が良いか話していた時のことをほとんどそのまま伝えてくれていたので、実質わたしの意見が全面的に採用された家になりそうである。

 相談を受けてくれたフゲール親方さんも、前からわたしが家を建て替えるときには、と言及していただけあってすごくノリノリで、すぐにでも始めたいと言ってくれた。とは言え急な話だし、他の仕事に差し支えがない程度に……とはお願いしておいたけれど。

 そんな感じのとんとん拍子で、突然現れたヤヨイちゃんに家を吹き飛ばされると言う事件は、マリューのお陰で現実味を感じる前に解決の方向へと向かい出していた。

 ただし、そうは言っても新しい家の完成までは、ざっと三ヶ月くらいは掛かるらしく、となるとその間、わたしとエイラちゃんはどこで寝泊りをするべきか、と言う問題が出てくる。さすがに調薬棟の狭い書斎に二人で何ヶ月も寝る訳にはいかない。

 西の山の向こうに日が沈んでしまった薄暮のミフロで、わたしはそのことを思い、悩む。


「頼れるならクライアさんのところだけれど、ふたりして何ヶ月もは、さすがに悪いし……」

「……あぁ、もしかして仮住まいのこと? それならクライアさんの家は今、確かウェデル君も帰郷してたと思うから、しばらくは厳しいんじゃないかな」

「あー、確かに、それもそうだね……。じゃあ、どうしよう……」


 言われてみれば、せっかく家族が揃っているところに邪魔をするのは忍びない。


「無難に部屋なり家なりを借りるしかないんじゃない?」

「そうなるかなぁ……」

「ミフロだと、その手の話は誰に相談するの?」

「んー……、空き家とかは村長さんが把握してるかも……」


 と言う話の流れで、わたしたちはそのまま村長さんの家へ向かうことにした。

 村長さん宅のノッカーを叩くと、程なくして白髪混じりの村長さん本人が扉を開けてくれた。


「こんな時間にすみません。山の上のノノカです」

「おぉ、ノノカ様! お宅が吹き飛んだと聞いておりましたが……」

「あぁ、それは……、誰も怪我はしてませんし、どうかご心配なく」

「そうでしたか。いえ、軍隊の方から伺ってはいたのですが、なによりです。……そしてそちらは、使用人の方と……」


 困ったような顔から笑顔になった後、わたしの背後に並んだふたりを見てまた少し困ったような顔になる村長さん。

 それに対して、わたしが反応するよりも早くマリューが応じた。


「お初にお目に掛かります、ミフロの村長殿。私は王都の魔法学校で教師をしている、マリュー・トタッセンと申します」

「おぉあなたがかのトタッセン先生でしたか! お会いできて光栄です。ささ、立ち話という訳には参りませんゆえ、どうぞ中へ……」


 招かれるままに、ひとまず上がらせてもらう。

 夕食の支度をしていた奥さんに、どうかそのまま支度を続けてくれるように頭を下げてから、さっそく本題の、新しい家ができるまで借りられるような空き家がないかと訊ねてみたのだけれど。


「うーむ。家は常に不足気味ですからな……」


 村長さんは唸って考え込んでしまった。

 仮住まいが用意できないとなると、致し方ないので少しの間は調薬棟の書斎で寝るしかないかな……と思ったら、村長さんが何かを思い出したようで、ぽん、と手を叩いた。


「そう言えば、もう古くなって解体する予定の建物が村の外れにありましたな……」

「本当ですか! ……そちらは、しばらく借りることはできますか?」

「ううむ、そうですな……。しかしあれは簡易な作りで、もうかなり古くなっておったかと思うので、ノノカ様をあれに住まわせると言うのは──」

「あくまで仮住まいですし、古いというのは全く気にしませんよ! 吹き飛んでしまった家もかなりボロボロでしたしね……。お願いできませんか?」


 テーブルに寄って少し見上げるようになりながら、唸る村長さんを見つめる。

 村長さんは腕を組み、あご髭をさすり、困り顔でこちらを見て、頷いた。


「……分かりました。ラドル……大工のフゲールには解体は待つように伝えますゆえ、お使いください」

「良かった。ありがとうございます!」


 なんとか仮住まいも借りられることになったので急かして悪いとは思いつつ、今夜からその空き家を使わせてもらうことにした。

 それを聞いた村長さんは、さすがにその空き家もそれなりに放置されていてまずは片したいから今夜はうちに泊まっていかないか、と言ってくれたのだけれど、ご迷惑になりますから、とお断りして──実際奥さんも複雑そうな顔をしていたし──空き家の場所だけを聞き出してわたしたちはそそくさと向かう。

 なお鍵はあるけれど開けっぱなしだそうなので、明日にもフゲール親方さんから受け取ってきてくれるらしい。

 どんな家なのかな、なんてぽつぽつ喋りながら、暗くなってきた道を歩き、説明された村の南西の外れにある空き家に到着。暗いのであまり見えないけれど、外観は吹き飛んだ家よりまだ家っぽく見えた。

 聞いていた通り無施錠の扉を開けて入ると、マリューが《ライト(照明)》を灯してくれた。


「おぉ……」


 村長さんはかなり傷んでいるように言っていたけれど、見た感じさほど傷んでいるわけではなく、普通にワンルームの家、と言う感じだった。

 さすがに村の中心の方の新しい家より簡素な作りだし、村の子供達が侵入して遊んだのか、枝とか石とかが散乱してはいるけれど気になるほどではない。

 と言うか──


「前の家より家らしい……」

「まぁ、確かにね」

「……」


 マリューが同意して、エイラちゃんは押し黙っていた。

 その後は今日のうちにできることもないので、エイラちゃんが拾い集めてくれた無事だった保存食を三人で適当に食べて早々に寝ることにした。

 寝床もないので、《ウォーム(加温)》だけ掛けて部屋の片隅の床で……。


「マリューまでここで寝ることになっちゃってごめんね……」

「ふふ、気にしない気にしない」


 ◇


 板間に直接寝たあとはさすがに身体が痛んだけれど、マリューが治癒魔法を掛けてくれたお陰ですぐに動けるようになったので、その日は朝からマリューも一緒になって寝床の用意と山の上の瓦礫から無事な家財の回収と仮住まいへの運び込み、あとはハルベイさんのお店なんかで必要なものの買い込みなどに駆け回った。

 ついでに、その途中で一度調薬棟に寄って地下に放置したままのヤヨイちゃんの様子を見にいったのだけれど、当然のように意識がないまま椅子の上で伸びていたので、とりあえず毛布で包んで床に寝かせてあげた。

 ……身体に触れた時にかなり冷たくなっていてちょっと怖くなったのだけれど、一緒にいたマリュー曰く問題ないそうなので……問題ないのだと思う。

 さらにその次の日は、マリューと一緒にずっと先延ばしにしていた魔法部隊の訓練の見学に行くことになった。

 セデーライさんからは何度となく誘われていたとは言え、わたしはマリューのように魔法を教えられるわけでもないから、せめてもと食べ物を差し入れとして買い込んで向かうことにする。

 ちなみにその買い物の時に、マリューにちょっといろいろと心配されてお金を渡されたのはまた別の話……

 そしてやって来た訓練の見学では──大半の時間でエイラちゃんに耳を塞がれていた。

 訓練、と言うかマリューが急遽魔法の講義とやらをすることになったので、座学とたまに実践をする授業を見ている感じだったのだけれど、わたしがなまじ魔法の飲み込みが良すぎるものだから、下手に攻撃魔法を覚えてしまわないようにマリューの指示で、エイラちゃんがほとんどずっとわたしの耳を塞ぐことになったのである。

 わたし自身も、知らぬが仏という言葉があったように、間違っても魔法の詠唱が聞こえないようにエイラちゃんの手にさらに自分の手を覆いかぶせて完全遮音していたのだけれど、ちらちらと舞台の隊員さんたちが戸惑ったようにこちらを見てくるのでなかなか恥ずかしかった……


 そして、家が吹き飛んで三日目、マリューが帰途についた。

 出立にあたって毛布で全身──顔までぐるぐる巻きにされたヤヨイちゃんを、他の荷物と同じ感じで馬車に放り込むマリューに軽く戸惑いつつ、エイラちゃんと一緒に準備を手伝う。


「本当はもっとゆっくりしてたかったんだけどねぇ。なんかばたばたすることになってごめんよ。でもまた家──別荘が完成した頃に見に来るつもりだから、その時はひたすらのんびりさせてもらうね」

「うん、分かった」

「じゃあまたね、サクラ。手紙頂戴よ? エイラちゃんも、サクラの面倒をよろしくね?」

「お任せください」

「……ん?」


 別れの挨拶もそこそこに、出発した馬車を見送る。

 ……最近は、春になって仕事を頑張ろうとこそしていたものの、基本的には季節の移ろいに合わせるように、ゆったりとした日々を過ごしていた。

 けれど、ここ数日は本当に……随分濃い数日だったな、と思う。

 なんだか、忙しない夢を見ていたような、実感の薄い気分だった。

 でも夢ではないのだから、また落ち着いた穏やかな生活に戻るためにしばらく頑張らないといけない。


「……よし、帰ろうか」

「……はい」


 馬車が森の向こうに見えなくなった頃、わたしは少し気合いを入れて歩き出した。



話の締め時を見誤ってしまってすごく駆け足になってしまった……

でも、これくらいの駆け足の方が良いのかな、とも思ったり。

悩ましい……

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