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304-53 エイラは眉を顰めた

 隊列の後方から順にこの小山を降り、最後にセデーライさんもそれに続いて小山を降りて行って、我が家の吹き飛んだ小山の上に、やっと静けさが戻ってきたようだった。

 そしてセデーライさんの姿が完全に見えなくなるのを見届けたマリューが、また太田のおばあちゃん(女の子)のそばでしゃがみ込んで、ちょっといたずらっぽく笑う。


「さぁ、良かったねぇお嬢ちゃん? あの隊長さんがこの私に任せてくれてなかったら、最悪、あなたこの場で斬り捨てられてたかもよ?」

「……ん? あっ、やっぱりけっこうまずい状況だったの!?」


 しれっとマリューが言った内容を理解して、わたしは思わず叫ぶ。

 まぁ確かに、思っていたより随分とすんなり話が収まったな、とは思っていたけれども……


「そうね。まぁ、私に任せておけば間違いない、と打算的に考えたのかもしれないけど、それでもかなりこちらに気を遣って全面的に任せてくれたね」


 わたしにはよく分からなかったけれど、いまさっきのマリューとセデーライさんのやり取りには言葉に依らない駆け引きとかがあったのかもしれない。

 知り合いが目の前で斬り捨てられるなんて嫌だったし、対応してくれたマリューにも、応じてくれていたセデーライさんにも、ありがとう、の気持ちである……

 少し話を逸らせてしまったけれど、わたしが安堵したところでマリューはまた太田のおばあちゃん(女の子)の方に向き直って、にっこりと笑った。


「で、あなたは確かヤヨイ・なんとかって名乗ってたかな? とりあえずヤヨイちゃんって呼ばせてもらうけど、ヤヨイちゃんはここでなにをしてたのかな?」

「……あ、あば、ばば……」


 問い掛けられた太田のおばあちゃん(女の子)は、うつ伏せのまま、まだたまにびくびくと痙攣していてマリューの質問にも答えられない様子だった。

 それを認めたマリューが不可思議そうに首を捻る。


「……まだ喋れないし動けないほどに痺れてるの? レジストは…… と言うか、抵抗力自体が弱すぎるのかな? ……仕方ない。ねぇ、サクラ、悪いけど先にサクラから話聞かせてもらってもいいかな?」

「ん、うん」


 直接話を聞くのは難しいと思ったらしいマリューが、首を捻ってわたしの方に声を掛けてきた。

 ただし、そうは言いつつマリューは太田のおばあちゃん(女の子)の傍でしゃがんだままで、こちらに寄ってくる様子はない。

 対するわたしはわたしで、エイラちゃんにがっちり両肩をホールドされたままマリューの方に近づくことが許されない感じなもので、なんだか微妙な距離感のままに話が進む。


「じゃあまず…… さっき家を吹き飛ばしたのはこの子で間違いない?」

「ん、た、多分…… わたしは何もしてなかったし……」

「ふむ。それと、さっきこの子ニホンゴを話してたように聞こえたんだけど、この子ってサクラの前からの知り合い? この子が何者なのか知ってたら教えて欲しいんだけど」

「あー……、うん、えっとね──」


 なにから話せばいいものか、少し考える。

 別にマリューやエイラちゃんに隠し事をするつもりはないので、分かっていることは全て話してしまうのだけれど、あんまり話が煩雑になると自分でもなにを言っているのか混乱しそうだから、ちょっと時間を掛けて簡単に整理してから口を開いた。


「──マリューは、わたしが前世で死んだときのこと──近くのおばあちゃんの家が火事になってて、そこにわたしが助けに飛び込んだ、って言ってた話は覚えてる?」

「え? あぁ、うん、もちろん。確かそのおばあちゃんの家で意識がなくなる直前に、魔法陣らしきものと、魔法の発動らしき光を見たとか言ってたっけね」

「うん、そう。それで……、んと、その子が言うには、その子が、そのとき傍にいたおばあちゃん、らしい……」

「…………はい?」


 マリューが一瞬固まって、それから足元の地面に伸びたままの太田のおばあちゃん(女の子)を見た。

 そしてわたしを見る。

 わたしが反応に困っていたら、マリューはまた足元に目を移して、そのまま少しの沈黙の後──また首を捻りながら、改めてわたしの方に目を向けた。


「……この子も、サクラの故郷と同じ異世界からやって来た、と? ……て言うか、おばあちゃんって聞いてたけど、このちまこい子が、本当に?」


 さすがのマリューも珍しく眉間にシワを寄せて大きな疑問符を浮かべたような表情になっている。

 わたしが言うのもなんだけれど、その気持ちはとてもよく分かる。


「わたしも信じられないと言うか、よく分からないよ。見た目からして全然違うし…… でも、確かわたしはマリューにだっておばあちゃんの名前は言ってなかったはずなのに、その子は知ってたし、ニホンゴもすごく流暢で、故郷の訛りまで出てたし、まだ他にも…… この世界ではわたししか知らないはずの、まだ誰にも言ってないことも知ってるみたいだったから、きっと嘘じゃない、と思う……」


 わたしの話を聞いたマリューが顎に手を当て目を閉じて、本格的に考え込み始めた。

 そうして何度目かの沈黙を経て再び目を開けたマリューは、立ち上がって太田のおばあちゃん(女の子)を見下ろしてつぶやく。


「本当に件のおばあちゃんだとすると…… 別の世界から意図してやって来る謎魔法に加えて、身体の見た目を変える魔法や、未知の言語を違和感なく習得させる魔法に、さらに現状不可能とされている他者の不死化魔法まで行使したかもしれない、と……? そんな超々高難度と思しき魔法を、同時に、この子ひとりで扱った……?」


 ぼそぼそとなにやら小難しいことを言いながら太田のおばあちゃん(女の子)を見下ろすマリューの顔は、驚きというよりは得体の知れない不可思議なものを見るようなものになっていた。

 でもちょっとだけ、わたしの気のせいかも知れないけれど楽しそうでもある。


「うーん、ただ、そんなに高度な魔法が扱えるような魔道士の割には、魔法抵抗力が絶望的に弱いような…… あぁ、でも、そう言えばサクラも最初は全くと言っていいほど抵抗力なかったし、それが異世界人の特徴だったりするのか……?」


 また顎に手を当てて、独り言をつぶやきながら物思いにふけるマリュー。

 その視線の先にいる太田のおばあちゃん(女の子)は、いまだに黙ったままたまにびくりと痙攣していて、動けないらしい。


「…………あぁ、そう言えばサクラ、この子はこっちの言葉は喋ってた?」


 打ち上げられて瀕死の魚のような動きをしている太田のおばあちゃん(女の子)をちょっとはらはらしながら見ていたら、そう訊ねられた。


「あー、えっと、うん。最初はこっちの言葉で喋ってたよ」

「ふむ。となると、もしかして……」


 わたしの答えを聞いてなにかに考え至った様子のマリューが、またおもむろに太田のおばあちゃん(女の子)の傍にしゃがみ込む。

 そして懐からナイフを抜き出すと、淀みない手付きでその刃先を太田のおばあちゃん(女の子)の腕に突き刺した!


「へぁ!?」


 突然の出来事にびっくりして飛び上がった。

 刺された太田のおばあちゃん(女の子)も呻き声を上げて、一際大きくびくっと跳ね上がる。

 唐突にそんな凶行?に及んだマリューは淡々とした様子でなんらかの魔法を囁くように詠唱し、いまナイフを突き立てた傷口に片手を当てて、目を閉じ集中している。

 ……およそ一分後。


「……傷の治りが早い。この子、不死の魔法使いになってるかもね」

「え、ん、そうなの……?」

「うん、多分ね。となるとやっぱり、この子からも話聞かないといけないんだけど、そうだな…… ねぇ、サクラ。調薬棟の地下室、借りてもいいかな?」


 マリューが真剣な顔でわたしにそう訊ねた。



眉を顰めたのはヤヨイも不死の魔法使いかもしれないと聞いたあたり。

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