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304-52 無理を通して道理を作る

 わたしは、自分でも分からないこの状況をどう説明したものかと思い悩んで唇を噛んだ。

 初めから順番にあったことを説明していけばいいのだろうか?

 でも、どこまで言うべきなのか、どこまで言っていいのか、どこまで言ってはいけないのかを、すっかり混乱した頭ではちゃんと判断できる自信が全くない。

 ただ幸いなことと言っていいのか、セデーライさんの視線はどちらかと言うとわたしよりもマリューの方に比率多めに向いているから、ひとまずわたしは下手なことは言わずにマリューにお任せできるかな、と思えた。

 そしてそんな状況を見回したマリューが、一瞬だけ思案して、困ったように肩をすくめてから話し出す。


「ご無沙汰しております、セデーライ准尉。この状況についてなのですが…… いやぁ、ちょっとした事故、でしてね?」

「事故?」

「えぇ。……私は今朝方にそこのサクラに会いにきたのですが、その時に貴方と魔法部隊の来訪を聞いたものですから、これは良い機会だと思いまして、攻撃魔法について少し詳しく教えていたんですが…… この子が、ね」


 とそこで、マリューが足下の太田のおばあちゃん(女の子)を指す。


「いやぁ、全く。この子ったら私でも本当にびっくりするほど、それこそ文字通りに才能に溢れていたようでして──まぁ、それを見抜けなかった私の落ち度ではあるのですが──かるーく攻撃魔法の原理を説明してあげていたら、おもしろがっていたずらをして、魔力を暴走させてしまったんですよ。それでこの通りちょっと伸びちゃってるんですが…… いやぁ、決して攻撃魔法を使ってしまったわけではないのですがね? ちょっと派手に暴走させてしまったものですから、その圧力でサクラの家が吹き飛んでしまったのです」


 なんだか、いつになくマリューの説明がわざとらしい物言いだった。

 最初はただ単純にそのことを不思議に思っていたのだけれど、半ばに来てようやくわたしは、絶対に無許可では使ってはいけない攻撃魔法を、太田のおばあちゃん(女の子)が使ったとされてしまう状況にあることに思い至ったのである。

 あいにくわたしには、さっき太田のおばあちゃん(女の子)が攻撃魔法を使ったのかは分からなかったのだけれど、使っていようといまいと、もし攻撃魔法を使った、と判断されてしまったときは──確か、その場で首をはねられることもある、とマリューが以前言っていたような……


「あわ、あわわわ……!」


 太田のおばあちゃん(女の子)が、いまこの場で殺されてしまうかもしれないことをようやく理解して、わたしは思わず震え上がった。

 そんな風に内心で取り乱すわたしのこととは関係なく、マリューの言葉は続く。


「セデーライ准尉にはご心配をお掛けしてしまったようで、申し訳ありません。しかしながら幸いにして誰にも怪我はありませんでしたし、この子も私からきつく叱り付けておきます。……あとの事は私が責任を持って片付けておきますので、お任せいただけませんか?」


 なんて、マリューは平然とした顔で話を終わらせに掛かっていた。

 でも相手は軍人さんだし、そうあっさり納得してくれるとも思えなくてひやひやする。

 現にセデーライさんは眉間にシワを寄せて、マリューとわたしを交互に見てきた。

 わたしは何も説明できないし、マリューの邪魔をするわけにはいかないと思って、出来るだけ平静を装った──つもりだったけれど、思いっきり目を泳がせてしまった気がする……

 わたしの首筋を変な汗が伝う間、セデーライさんは腕を組んで無言で何事かを考えている。

 マリューの足元に転がったままの太田のおばあちゃん(女の子)の微かな呻き声だけが聞こえてくる中で、セデーライさんの言葉を待つ。

 そして、ついにセデーライさんが腕を解いた。

 果たしてどんな言葉が出てくるのか、戦々恐々としながらセデーライさんの口が開くのを待っていたら、セデーライさんが破顔した。


「あぁ、これは。えぇ、えぇ、なるほど、そちらのお嬢さんやノノカ様に魔法のご教授をされていらっしゃった、と! しかし、なかなかに災難があったようではありますが…… いついかなる時でも、トタッセン先生は後進の育成にご熱心なのですね!」


 とてもにこやかで、ふわっとした感じで──ちょっと拍子抜けしてしまった。

 そ、それでいいの……? と、むしろちょっとばかり不安になるくらい、セデーライさんの反応は素直で分かりやすくて、逆にわたしの方がちょっと勘繰りすぎだったのかも?

 ……あ、でもセデーライさんの背後に控えている部隊員さんたちも、なんだか微妙な表情をしていらっしゃる。マリューは何も疑問に思った風でもなく微笑んでいるけれど……


「いえいえ、それほどのことではありませんよ」

「ははは、ご謙遜を。いやはや最初はことかと危ぶみましたが、トタッセン先生もいらっしゃったとなれば何も心配などありませんでしたね!」


 ちょっと違和感はあるのだけれど、なんだか本当に大した追及もなく話が終わりそうな流れになってきた。


「私を褒めても何も出ませんよ? ……あぁ、ですがせっかくの機会ですし、皆さんがこちらに逗留(とうりゅう)されているうちに久しぶりの魔法の講義でも如何ですか? この辺りなら、多少は実践的な手解きもできそうですから」

「おぉ、それは願ってもない! 是非ともお願いしたいところではありますが──その前に、こちらの片付けをお手伝いさせていただいた方がよろしいでしょうかね?」

「ふふ…… いえ、お気遣いは頂戴しますが、元はと言えば私の監督不行届きが招いたことでもありますので、これ以上のご迷惑はかけられません。あとの事は是非私にお任せください。……あぁ、ですが、そう、厚かましいとは思うのですが、お願いできるのであれば、ミフロの人たちにサクラの家が吹き飛んだのは私の教え子が魔法に失敗してしまったからで、サクラたちに怪我などはないことを伝えていただけると助かります」


 もうすっかり、攻撃魔法とか、家が吹き飛んだ原因とかの話は済んだ感じになっている。

 そして話の最後にマリューのお願いを聞いたセデーライさんは、ちょっと大仰な仕草で顎に手を当てて唸った。


「ふむ、なるほど…… 民を安心させ、無用な混乱を治めるのも我々軍人の役目であり、これを機にそれを隊員たちに学ばせよ、と。そして引いては、常に柔軟に、臨機応変に立ち回れる士官たれよというご指南…… しかと受け止めましょう!」


 すごく真剣な顔で何やらつぶやいてからビシッとした姿勢で一礼をしたセデーライさんを見て、マリューが肩をすくめてちょっと困ったように笑う。


「……相変わらずセデーライ准尉は目端の利く方で感服します」

「ははは、恐れ入ります」


 セデーライさんがいたずらっぽく笑った。

 それからすぐに身を翻したセデーライさんが、いつのまにかその向こうで整列していた隊員さんたちに今聞いたこと、決めたことを簡単にまとめて説明する。

 異変はマリューの教え子による事故だった、ということとか、村民が不安を覚えているかもしれないので、この場はマリューに任せて自分たちは村民への事情の説明とわたしたちの無事を伝えて回ることとか、そして民の安寧を守ることが我々の使命であることを知るようにとか……

 話が終わって、気持ちのいい返事が聞こえたあと、再びこちらに向き直ったセデーライさんはにこやかである。


「それでは我々は村に降り村民に事情を説明してまいります」


 そう言って、マリューに一礼をする。セデーライさんの背後に整列した隊員さんたちもそれに続いてから、顔を上げるなり反転して後ろの方の人たちからこの小山を降り始めた。


「ありがとうございます、セデーライ准尉。講義の詳しい話については明日の昼頃にでもそちらに伺うので、そちらで詰めましょう」

「ははは、承知しました」


 マリューの言葉にセデーライさんがにこりと笑って返す。

 そしてそれから、セデーライさんはわたしの方に振り向いた。


「ノノカ様、差し出がましいことかとは思いますが、我々はできる範囲でノノカ様のお力になりますので、何かありましたらどうぞお気兼ねなくご相談ください」


 そう言ってまた、ちょっと満足げな感じでにこりと微笑んだ。

 まさか最後の最後で声を掛けられるだなんで思っていなかったわたしは、不意の出来事で何も気の利いたことも言えずに、ただ、ありがとうございます…… とつぶやくので精一杯だったけれど。

 隊列の後方から順にこの小山を降り、最後にセデーライさんもそれに続いて小山を降りて行って、我が家の吹き飛んだ小山の上に、やっと静けさが戻ってきたようだった。



この不死までの回顧録、今日で最初の投稿からちょうど1周年です、やったー!

でもまだ全然話が進んでいない! 少しペースを上げることを意識しつつ、これからも書き続けて参りますので、今後とも皆様ぜひともお付き合いくださいませ!

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