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210-53 古戦場

 翌朝は、薄明のうちから支度を始めた。

 わたしたち三人と、トルベイさんを始め、調査隊の人たちから十人ほどが二台の馬車に分乗して、日の出とともにキャンプを発つ。

 わたしたちが乗り込んだのは幌もない荷馬車だったから、いつにも増して乗り心地は良くない。

 それに、少しの起伏のある荒野に吹く早朝の風はかなり冷たいみたいで、《ウォーム(加温)》が掛かっていても、直接風に当たると頬が冷たかった。

 同乗する調査隊の人たちも、しっかり防寒はしているようだけれど寒そうだ。

 その様子を見ながら、皆にも《ウォーム(加温)》を掛けるべきかちょっと悩んでいたら、その答えが出る前にマリューが話し始めた。


「夜の話の続きなんだけどね」

「ん? うん」

「──〝始祖〟様が、今、何処にいるのか、気にならない?」

「え? …………あ、そっか……」


〝始祖〟様という、神様のような存在が人を作って、導いていた、という昔話。


 昨夜その話を聞かされて、まぁ、わたし自身いろいろと不思議な体験をしてきたものだから、その話も、そんなものなんだろうなぁ、と思うことにしたつもり、だったのだけれど。

 でもさすがに、前世の常識とはあまりにもかけ離れている昔話だったから、無意識のうちに話半分に聞いてしまっていたのか、あんまり深くは考えられていなかったらしい。

 つまり、昨夜聞いた〝創造の伝承〟が本当にあったことなら、人を作り、国を興すように人を導いた〝始祖〟たる不死の魔法使い様も実在して、今もこの世界の何処かにいることになる。

 そのことにまでは、思い至っていなかった。


「えっと、じゃあ、その〝始祖〟様は…… ここからずっと西の地──国? に、今もいる──いらっしゃるの……?」


 昨夜の話を思い返してそう訊くと、マリューはちょっと悲しそうに微笑んで、首を横に振る。


「……振っておいてなんだけどね、実はもう、いないんだ。ずっと昔に居なくなっちゃったってさ。……あ、でも、亡くなったわけではなくて、姿を隠された、と言うか、人の目には映らなくなられた、と言うか……」


 (わだち)も微かな荒野を進む馬車にしっかりつかまりながら、わたしは言葉を聞いて、マリューは言葉を続ける。


「十四国が興ったあとも、〝始祖〟様は始まりの地のある西の中つ国に留まっておられたんだけど、各国が安定し始めると、『西の中つ国だけが〝始祖〟様を戴きつづけるのは不公平だ』みたいな声が上がり始めてね。のちに〝始祖〟様の座所を各国で順繰りに受け持つことになったんだけど…… その順番や期間に関する各国の意見は、遂に一致しなかったらしくてね。結局、〝始祖〟様を巡って国家間で戦争が起こって、それに心を痛めた〝始祖〟様は、姿を隠してしまわれたんだって」

「……その戦争の跡が、目的地の古戦場?」

「ふふふ。残念ながら、それは違うかな。今の話はもう1500年以上前の話でね。今となってはその時の戦跡なんてろくに残ってないんだよ」


 マリューは一瞬だけにやりと笑ってそう言ったけれど、その笑みはすっと引いて、またもの悲しい表情になってしまった。


「〝始祖〟様が姿を隠される直前の──最後にね、戦火の広がりつつある都に現れた〝始祖〟様は、その手の一振りで戦火の全てを払われたあと、こう言い残したって伝わってるんだ。『汝ら、己がために自らで考え、己がために自らで決め、己がために自らで行動せよ』ってね。……この言葉の真意は、何をするにも〝始祖〟様の意向を伺っていた人というものに対して、人自身のために、人自身が主体性を持って自決することを促された、と普通は解釈されてるんだけど、さ……」

「……〝始祖〟様は、人のことを甘やかしちゃってて、このままじゃいけない、と思ったのかな?」

「うーん。そうかもね」


 そこで一度会話は途切れて、しばらくは車輪の回る音だけが聞こえていた。

 そうして馬車がふたつほど緩やかな丘を越えると、視界が開けて、それなりに広い山に挟まれた平地に出た。

 荷台の傾きが気にならなくなって少し落ち着いていると、ちょうど目の向いた先、ちょっと離れたところに丸い窪みのようなものが見えた。

 わたしはそれを、池か何かかな、と思いつつ、何気なく辺りを見回してみると──同じような窪みが、他にいくつもあることに気がついた。

 大きさは、ちょっと離れているから分かりにくいけれど、だいたい5メートルとか、大きいものだと10メートルを超えそうなものもあるように思う。

 形はだいたいどれも真ん丸で、少し水が溜まっているように見えるものが多い。だから見た目には分からないけれど、縁から水面までの傾斜からして、深くても1メートルちょっとくらいの深さの窪みが多いように見えた。


 そんな点在する窪みをあちらこちらと見ていたら、いつの間にやら、馬車が窪みのひとつから5メートルくらいの近くにさしかかっていた。

 近くで見ても遠目に見ていたものと変わりはない。

 池、にしては平地のあちこちにある、人が掘ったような丸い窪みに、これはなんなんだろう、と首を傾げていると、マリューが再び話し始めた。


「この辺りが、話してた古戦場…… 200年前の戦争の跡だよ」

「え、200年も前……」


 マリューの言葉を聞いて、改めて周囲を見回してみた。

 変な窪み以外、これといって目につくものはないけれど、200年も経っていれば、目に見える痕跡なんてほとんど消えてしまうんだろうか。


「そこら中にある丸い穴だけど、それが全部、攻撃魔法の爆発でできたクレーターなんだよ」

「え、ええっ!? こ、攻撃魔法って……」


 そういえば、以前魔法について教えてもらったときに、そういうのがある、と教えてもらった気がする。

 わたしには無縁だと思っていたから、そのあたりの記憶は結構あいまいだけれど……

 それにしても、ざっと見ただけでも数十個はある窪みが、全部魔法でできたクレーター……?


「この200年前の戦跡は、世界中にあるんだ。当時世界規模で起こった大戦の痕跡だよ」

「世界中に……? じゃあ、当時はその、十四国、が互いに争ってたの?」

「ううん。違うよ」


 クレーターの点在する平原を見つめていたマリューが、一瞬顔を伏せて、そして再び顔を上げた時には、その横顔は少し険しくなっていた。


「むしろ、当時十四国のほとんどは互いに協力して、ひとつの明確な敵に対して戦ってたんだよ」

「敵、っていうのは……」

「〝魔王〟」

「……えっ!?」


 思いもよらない単語が出てきて、驚いた。

 いや、でも、ニホン語的な〝魔王〟とはちょっとニュアンスが違うのだ。

 訳語を当てるなら、間違いなく〝魔王〟なんだけれど、もっと正確に言うなら──


「より正確に言うなら、〝魔法使いの王〟を名乗った大馬鹿者と、それを信奉していた仲間たちだよ」


 マリューの表情が、今度は苦々しげなものになっていく。

 そして、揺れる馬車から平原を見つめたまま、当時のことをざっくり説明してくれた。


「事の発端は、今から200年と少し前。ここからずっと西の大陸にある西の中つ国で、ヤーマス・ダルサルっていう当時で最古参の不死の魔法使いが〝魔王〟を名乗って、多くの配下と共にその国を乗っ取った」


「その主張は、不死者こそ、そうでない者たちの上に立ち、それを支配すべき選ばれし存在である、ってもので、他の十三国にも自らの支配下に入って隷属(れいぞく)するように、一方的に通達してきた。そして世界中に散らばっていた不死の魔法使いに対しても、自らに臣従して支配者の一端になるように通知してきた」


「もちろん、私を含めて、大半の不死の魔法使いはそんなの取り合わなかったよ。だってそれは、私たちみたいに人の枠から少し外れた存在が、多くの人の行く末を決めてしまう──〝始祖〟様の言葉に真っ向から反する行いだったから。まぁ、そいつはそいつの解釈をしてたみたいだったけど」


 そんな話を聞いていたら、馬車が止まってびっくりした。

 振り返ってみると、大きなドーム状の、ちょうどモンゴルのゲルみたいな格好をしたテントが張ってあるそばだった。周りにも二、三の小さめな(といっても、わたしたちが寝るのに使ったテントよりは大きい)テントもある。

 トルベイさんが差し出してくれた手を取って、わたしとマリューが馬車を降り、わたしがエイラちゃんの手を取って皆が馬車を降りると、わたしたちはトルベイさんの案内で大きなテントに向かう。

 そうして歩いている間に、マリューが話の続きを始めた。


「当然、反発した十三国と魔王は戦争になって、それは今では〝魔大戦〟って呼ばれてる。……戦争になることは魔王も想定してたみたいで、配下の不死の魔法使いを中心に据えた軍隊を動員してきたんだけど…… 対する十三国は、当時、大規模な兵力なんて持ってなかったし、組織化された、強力な攻撃魔法を扱える不死の魔法使いのいる魔王軍には押される一方でね……」


 テントに入ると、中には水を満々に湛えた丸い窪みがあった。

 窪みには〝井〟型に板が渡されていて、その中央には滑車から水中に一本のロープが下ろされている。


「単純な兵の数でも、不死の魔法使いの数でも、当然十三国の方が上回ってはいたんだけど、組織化された攻撃特化の不死の魔法使いに一般兵では太刀打ちが困難で、かと言って十三国側の不死の魔法使いなんてあんまり協調性のない人が多かったから、十分対抗できるまで体制を整えるのにかなり時間が掛かっちゃったんだよね……」


 迷わず進むトルベイさんとマリューについて行って、水上に渡された板におっかなびくり乗る。

 板といっても角材も合わせられた丈夫そうなものなんだけれど、結構怖い。

 振り返ったら、エイラちゃんは涼しい顔でついて来ていたけれど、心なしか板がたわんでいるような気がして、わたしはちょっと及び腰だった。


「トタッセン先生、よろしいですかね?」

「うん。喋ってるけど気にせず上げちゃって」

「承知しました。……よし、上げろ!」


 トルベイさんの号令で、テントの端の陸地で調査員さんのひとりがクランクを回し始めると、ギリギリ、という音とともにゆっくりと水中に垂らされたロープが巻き取られ始めた。

 マリューはその様子を見ながら、また話を再開する。


「それでも魔大戦も後半になると、十三国側も大分盛り返してきてね。いくつかの国では反魔王組の不死の魔法使いを中心に据えた抵抗軍が組織されて、この国でもそういう軍が反撃と防衛を行ったんだよ。……でも押され始めた魔王軍は、不死の魔法使いやそれに準ずる能力を持った少数精鋭の部隊を各国に派遣してゲリラ攻撃を仕掛けてくるようになって、十三国側もそれに対抗した結果、ここみたいな僻地に戦跡がたくさん残ることになったんだ」


 ロープは少しずつ巻き上げられていき、水中から結び目が現れた。

 続いてロープは四本に分かれて、濁った水面を四方に離れていく。


「大軍同士の衝突でなくても、そうした僻地での小さな衝突でも、当然死傷者や──行方不明者は出た。それは一般兵や魔法使いに限らず、もちろん不死の魔法使いも。……今回私が呼ばれた理由と、サクラに見せたいって言ってた〝遺物〟って言うのはね──」


 ついに引き上げられたのは、長細い板と、その上に横たわった、布にくるまれた人間大の何か。


「失礼します」


 と言ってトルベイさんが端の布を少しめくると、そこにあったのは、真っ白で少し傷ついた、若い男性の顔だった。


「──〝彼〟のことなんだよね」


 それはまるで死体のようだったけれど、そうではなくて、彼は200年前の魔大戦で戦って、今なお眠る不死の魔法使いだった。



ちょっと世界観の説明っぽい話が続いていて、そういうのをあまり好まない人には申し訳ないです。でも私は好きです。


追伸。メインクエまだ終わってないので、元の投稿ペースにはまだ戻れそうにないです…

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