111-59 幕間:聞いた話
ある夜。
蝋燭の明かりと、暖炉に照らされたテーブルに掛ける白髪白髭の老人に向かって、妙齢の女性が呆れたように問い掛けた。
「まだ信じられないんですか?」
その問い掛けを受けた学院長は黙り込んだままだった。
小さく溜息を吐いたマリューが続ける。
「レジストもされなかったんでしょ? きちんと測れたんでしょ? 後ろめたいことがある人が、そんな無防備なはずがないでしょうに……」
「……しかし、な……」
ようやく口を開いた学院長は、苦々しく呟いた。
「全く……」
やれやれ、とマリューが手を広げて首を振る。
学院長は軽く頭を押さえた。
「確かに見たよ。そして…… あの魔力だ。それでいて不死者となれば、やはり勘繰ってしまうものよ」
そのまま学院長は額を手のひらで支える。そして溜息まじりに唸った。
「あの子は言っていた通り、意図せず異世界からやって来た哀れな子ですよ」
マリューが呟いた。
それを聞いた学院長は眉間に皺を寄せたまま、顔を上げる。
「……疑問だったのじゃが、なぜそうも簡単にそんな話を信じられる?」
マリューは天井を見た。
「うーん。なんかそう思うんですよね。強いて言えば…… 勘?」
いたずらっぽく笑ったマリューのその言葉を聞いて、学院長は息を吐きながら、豪奢な椅子の背もたれに寄りかかる。
そして、あまり面白くなさそうに呟いた。
「相変わらずじゃが、よくそのふわりとした根拠を信じられる……」
「ふふふ。そんなふわりとしたものでも、勘に頼っちゃういい加減さは不死者に必要な素養ですよ?」
学院長は押し黙る。
マリューは踵を返すと扉のノブに手を掛けて、少し振り返った。
「まぁ、まだ信じられないというのなら考えはあります。……ただ、時間は貰いますよ。あの子に嫌われたくないのでね」
そう言い残してマリューは退室した。
学院長は黙ったまま、椅子に座って目を瞑っていた。




