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107-53 建材の入手先

 昼間はすっかり汗ばむ陽気になって、朝夕の肌寒さもほとんど気にならなくなってきていた。

 正直に言ってしまうと、まだこちらの暦はよく分かっていないのだけれど、さすがにこれが暑さのピークということはないだろう。まだまだ、これから日差しはきつくなってくるのだろうなぁ、とわたしは空を見上げて思った。…………屋根の穴越しに。


 こちらに来てから、もう六週間ほどが経っている。

 来てすぐ、自分が死んで、別の世界に来てしまったのであろうと察してから一週間は泣き潰してしまったので、都合、この家で暮らし始めてからは五週間くらいだろうか。

 最初は廃屋同然だったこの家も──今も廃屋でないとは言い切れないけれど──こつこつと手直ししてきて、大分住めるようになって来ている。

 それでも…… 屋根の穴は、未だに手つかずのままだった。


 修理するための工具はある。

 窓も作れたし、簡単なDIYの範疇でなんとかなるとも思う。

 ただ、いかんせん、穴が地味に大きかった。

 一畳とは言わないけれど、半畳では足りないくらいには大きい。そして、それを塞ぐだけの資材がない。

 窓を作った時の資材は、二台あったベッドの片方を解体してやりくりしたけれど、屋根の穴を塞げるだけの資材は、もう余っていなかった。

 かと言って、もう解体できる家具もない。壁は土壁だからつかえないにしても、床は板なので、剥がして屋根板にするという手も、あるにはあるけれど……


「そこまで切迫はしてないよね。……少なくとも、今はまだ」


 今は夏だ。熱が逃げて寒い、ということもない。野獣なども、屋根まで登ってくるのはいないだろう、と思っている。

 今気になるのは、せいぜい雨のことくらいだけれど、幸いにして穴が空いているのは玄関の土間の上だ。実際、何度か雨には振られているけれど、特に問題には思わなかった。


「とりあえず保留でいいかな。直すにしても板買ってこないといけないけれど、魔法の入門書買っちゃって、お金もないし……」


 事実上、今は借金を背負っている身なので、お金を使うのは本当に必要最低限ギリギリに抑えたい。

 むしろ、何か仕事を見つけて、稼がないといけない。正直、薬草採集だけでは足りない。


「村の人に変に気を使わせたらいけないと思って敬遠してたけれど、お仕事探すべきかなぁ……」


 不死の魔法使いさまと言われているだけで、どうにもみんな改まろうとする。身分を隠せれば楽だったのだけれど、大きくはない村だからか、もうみんなわたしのことを把握してしまっているらしかった。


「んん…… とりあえず、買い物いこ……」


 そこまで急ぐ話でもない。

 当面は、機会があったら、ということにしようと思いつつ、わたしはパンを買いに山を降りる準備を始めた。



 別にこそこそとするわけでもないけれど、なんとなく人目を避けつつ、村の中を歩いていた。

 パンを買うだけだったので、早々に買い物は済ませて、後はもう帰るだけだ。でも、なんとなくもったいない気がして、ちょっと脇道に逸れながら帰ってみる。主だった商店の場所なんかは、クライアさんに教わったので大体把握しているけれど、それ以外となるとまだ馴染みがない。こうしてたまに探検がてら散策するのは、ささやかながら楽しかった。


 そうして、疎でもなく、密とも言えないくらいに立ち並んだ建物の間を縫って歩いていたところ、不意に怒鳴り声が聞こえてきて、肩が跳ねた。

 声が聞こえた路地の方を覗き込んでみると、髭を生やしたゴツい体格のおじさんが椅子に座っていて、おじさんに比べれば少し細い若いお兄さんが、柱と屋根だけしか残っていないぼろぼろの家の前で話をしているようだった。


「いつまでたっても来やしねぇと思ってたら、腹下したってどういうこったよだらしねぇ!」

「いやぁ、なんか、昨夜ちょっと悪いもん食った気がするとかなんとか言ってましたがね……」

「バカじゃねぇのか!?」

「いや、まぁ、バカだとは思いますがね……」


 喧嘩かと思ったのだけれど、どうも怒りの矛先はその場にいない人に向いているようだった。

 なんなら止めに入った方がいいかとも思っていたのだけれど、これなら大丈夫そうだ。


「今日中に骨組みの解体までやらにゃならねぇってのに、どうすんだこの野郎!」

「いや、オイラじゃなくてあのバカに言って…… あ、いや、すんません……」


 どうも、話を聞いている感じ、建物の解体工事をするのに、誰かひとりお腹を壊して来られなかったらしい。

 それを聞いていて、わたしはちょっと思うところがあった。


「仕方ねぇ。ここは俺が……いてててて!」

「ああ、おやっさん、そんな足で無理したら二度と立てなくなっちまいますって! 医者の先生には安静にしてろって言われてんのに……」

「うるせぇ! 弟子の不始末の尻拭いは師匠の務めだろうが! ……んだが、くそ、不甲斐ねぇ」

「…………あのぅ、わたしでよければ、お手伝いさせていただけませんか……?」


 突然声をかけられた二人は、まず目を丸くしながらこちらを見た。そしてそれがわたしだと気づいたのか、さらに目を剥いて驚いていた。


「ノノカ様じゃないっすか! こんなところで──」

「ばっきゃろう! 馴れ馴れしいぞ! すんません、不死の魔法使いさま、弟子が失礼を……」

「い、いえいえ! いいですよ、名前で。不死の魔法使いさま、って長いですし、そう呼ばれる方が恥ずかしいので……」


 したたかに頭を打ち据えて下げさせる師匠のおじさんをなだめて、改めて、わたしはさっきの話を繰り返す。


「それで、その、お困りのようですけれど、もしよければ、わたしにお仕事のお手伝いさせていただけませんか?」


 それを聞いた二人は、驚いた、と言うより、呆然とした風で少しの間言葉を失ってしまった。それでも、先に我に帰った師匠のおじさんが慌てて首を振った。


「何を仰いますか! お気持ちはありがてぇですが、危ねぇですし、いっちゃあなんですが、力仕事ですし、不死の魔法使いさまのその細腕じゃあ……」

「大丈夫です! これでも農家の娘なんで、力仕事には自信がありますから! ……駄目ですかね?」

「な、なんと…… んだが、しかし……」

「……ノノカ様、なんでまた、そんなに気にかけてくれるんですかね……?」


 ぼそりとお弟子さんが訊ねてきた。

 そう、それが一番の要点で、伝えておきたかったことだ。

 とは言え、それはちょっと後ろめたさもある申し出だったので、わたしは伏し目がちに白状する。


「実は、家の修理に、少し建材が欲しくてですね…… お手伝いするので、解体で出た木材とかを少しいただけないかな、と……」

「は、はあ…… まぁ少しでしたら工面できるったぁできますが」

「でしたら、ぜひ……!」


 ずい、と顔を寄せて頼み込む。なお渋い顔で困惑していた師匠のおじさんだったけれども、ついに根負けしてくれて、何とかお手伝いをさせてもらえることになった。



1節が長くなってしまいそうだったので2つに分けましたので、気持ち短めでした。

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