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412-52 数打ちゃ当たる?

 お昼過ぎにハルベイさんのところへ行って、納品や仕入れのついでに、ヤヨイちゃんをここで働かせてあげてくれないか、と言う話をしてみた。

 まぁ突然の話だし、ヤヨイちゃんは肉体的には子供だし、さらに中身的には不死の魔法使いだし、はい良いですよ、とはならない可能性は十分に考えられた。実際、すぐにOKを貰うことはできなかった。

 でもなんとなく、断られないような気がしていた。

 なので、渋るハルベイさんに、そこをどうにか、と重ね重ねお願いをして、結果的にはお試しという形でヤヨイちゃんを雇ってもらえることになった。

 さすがに、無理を言ってしまったな、とあとから反省することにはなったけれど、それはそれ。

 ヤヨイちゃんは、もうずっと暇しているし、いつから働いてもらっても大丈夫と言うハルベイさんの言葉に甘えて、ヤヨイちゃんには早々に翌日──教会での授業帰りから働いてもらうことで話を進める。

 帰宅してから本人にも説明をして、了解も得られた。

 そして翌日はヤヨイちゃんの授業帰りのタイミングに合わせて改めてわたしもハルベイさんの元へ出向き、双方の橋渡しだけしておいた。


「じゃあ、無理はしないようにね、ヤヨイちゃん」

「おう」


 やることを見つけられたからか、口もとが緩み気味なヤヨイちゃん。

 わたしはそんなヤヨイちゃんをハルベイさんに預けて、自分も薬作りの仕事をするべく、一旦小山の上の調薬棟に帰った。


 そして大体4、5時間後、夕方。

 ヤヨイちゃんがこれから働き続けられるかどうかとか、ハルベイさんから話を聞いておきたかったこともあって、わたしはひとり小山を下りてお店へ向かう。

 ヤヨイちゃんからは家でいくらでも話を聞けるけれど、さすがにそれに比べればハルベイさんに話を聞けるタイミングは限られちゃうからね、と思いながら店内を通り抜け、店員さんに断り裏に入った。


「こんばんはー。ヤヨイちゃん、迎えに来て──えぇ!?」


 目に入ってきた光景に、思わず驚きの声を上げてしまった。

 ヤヨイちゃんが長椅子で伸びていたのだ。

 そのすぐ隣に立つハルベイさんが、苦っぽく笑う。


「あぁ、こんばんは、ノノカ様」

「こ、こんばんは、ハルベイさん。んっと、これは……」

「えぇ、まぁ……。やはり、オータ様はお身体も小さいですから、大人と同じようには、なかなか」


 気を使いながら説明してくれたハルベイさんによれば、要は、ヤヨイちゃんの体力が足りなかった、ということだった。

 読み書きが苦手なものだから、ひとまず商品の整理とかの力仕事を任せられたらしいのだけれど、1時間と経たずに動けなくなってしまったとのこと。張り切り過ぎていたのも原因だろう、とは言ってくれるけれど……。


「すみません……迷惑を……」


 うつ伏せのまま、か細い声でしおらしく謝罪を口にするヤヨイちゃん。

 これは……、と思いつつ、ハルベイさんと共に部屋の隅へ移動する。

 ヤヨイちゃんには聞こえないように配慮しながら、恐る恐るといった感じで──まぁ結果は察していたけれど──これからのことを話し合った。

 そして、数分後──

 順当に、ヤヨイちゃんがハルベイさんのお店で働く、という話は流れることになったのである。


 その夜。

 夕ごはんを食べて、お風呂にも入って、少し元気を取り戻したヤヨイちゃんは頭を抱えて呻いていた。


「無念……」

「まぁ、仕方ないよ……。気を取り直していこう?」


 お白湯を出しつつ、そう慰めるけれど、でも……。

 気を取り直していくと言っても、ちょっと難しい話に思えた。

 今回のことで、ヤヨイちゃんには見た目通りの──かなり控えめな体力しかないことが分かったことになる。それも、多少荷物の持ち運びをして1時間も持たなかったのなら、結構なものだ。

 正直、そんなヤヨイちゃんにできる仕事がすぐに見つかるとは思えなかった。


「んー……。もうちょっと大きくなったら、もう少し仕事もしやすくなるのかな……」


 ふと、そんなことを呟いてしまう。

 すると、そばにいたマリューがわたしの肩を叩いて顔を寄せてきたので、わたしも耳を傾けた。


「……この前も話したけど、不死の魔法使いの年格好は、基本的にその人にとって一番落ち着く見た目で、割と固定的なものだから」

「ん……? ……あ、そう言えばそんな話もしたっけ……」


 不死化の魔法を成功させた魔法使いは、その人にとって一番落ち着く、馴染みある年格好に変化していって、その見た目のまま長い時を生きていく。

 ヤヨイちゃんは少し特殊な成り行きとはいえ、1年半以上前に初めて見せたその小学校低学年くらいの姿が、今に至るまで全く変わった様子がないところを見るに、ヤヨイちゃんにとっての一番落ち着く姿というのは今のその姿なわけで。

 そしてマリューの見解では、多分成長することもないだろう、的なことを言っていたことを思い出した。

 その上で、改めてヤヨイちゃんを見ていると……。

 ちょっぴり、可哀想、と思ってしまった。

 その直後、どうやらわたしたちのやり取りを聞いていたらしいヤヨイちゃんが吠えた。


「おいこら、憐むな! 喧嘩売っとんのか!?」


 眉を吊り上げ、拳を振り上げる。

 でも椅子には座ったままで、声の張りも弱めな気がした。

 とりあえず謝ってから、話を戻してこれからのことを考えてみる。

 ……とは言え、いろいろ難しそうなのは変わらない。


「やっぱり、今のままじゃ仕事をするのは厳しそうだし……。となると無難なのは、やっぱりわたしの……」


 と言いつつ、ちらりとエイラちゃんの方を見る。

 案の定、と言うべきか、エイラちゃんは眉を(ひそ)めてすごく複雑そうな表情をしていたものだから、わたしはそのあとの言葉を続けることを諦めた。

 どうしてもエイラちゃんは、ヤヨイちゃんのことが信用ならないみたい。

 まぁ出会いが出会いだったから、仕方ないところはあると思うけれど……。

 ヤヨイちゃんのことは気になるけれど、かと言ってエイラちゃんの不安を無視するなんてできない。さて、どうしたものか……、と唸っていると、ヤヨイちゃんが先に口を開いた。


「どこでもええから、他に仕事させてくれるところを紹介しとくれ」

「んぇ。でも……」

「ええから!」


 さっきより覇気のある叫び声だった。

 でも、そうは言ってもヤヨイちゃんの体力でできる仕事は限られてしまう。

 何か何かと首を傾けて……。


「……あぁ、機織りとか。服とかを作っているおばさんがいるんだけれど」

「機織りはあまり興味がないのう」

「んん……」


 どこでもええから、って言ってたのに……。

 読み書きが苦手でデスクワークみたいなのが難しい以上──そもそもこの村でデスクワークなんてほとんどないと思うけれど──機織りは体力のことを考えると、かなり良い思いつきだと思ったのに……。

 また改めてヤヨイちゃんが働けそうなところを考える。

 頭の中のミフロを全部見ていくみたいな感じで思い返して、次に思いついたのは村に一軒だけある食堂なのだけれども、確かあそこは最近姪御さんを2人雇ったとかなんとか言っていた気がするから、人手は足りているだろう。

 あとは教会──は、歴史的にわだかまりのある不死の魔法使い的につらそう。

 となると他には、パン屋さんとか肉屋さん、材木屋さん、金物屋さん、大工の親方さんのところ……。それこそ、もう肉体労働系の仕事しか思い出せない。


「もう思い当たるところと言ったら、どこもそれなりに力仕事で体力が必要そうなところばっかりなんだけれど……」

「ぐぬぅ……」


 頭を抱えたヤヨイちゃんがため息まじりに唸った。

 その隣では、いつの間にやら我関せずという雰囲気になっていたマリューが、お白湯を飲んで一息ついている。おまけにエイラちゃんにおかわりまでお願いしている。

 とりあえず、わたしも座って一服でもしておこうかな、と思いかけたところで、ヤヨイちゃんがこちらを見た。


「しゃあない……とにかくイケオジの──あいや、頼り甲斐のある、おじさまのいるところには片っ端から頼んでみとくれ!」

「えぇぇ! だ、大丈夫なの……?」


 大丈夫じゃないよね……? と心の中で呟いた。正直、嫌な予感しかしないし、なんでおじさま限定?

 エイラちゃんは呆れた表情をしているし、マリューは笑ってしまっている。

 贔屓(ひいき)目に見ても肯定的とは言いがたい、わたしたち3人のそんな反応を見てもなお、ヤヨイちゃんはそんな総当たりの意思を崩さなかった。

 頑なにその主張を続けるヤヨイちゃんに根負けして、結果的には渋々ながら、わたしは首を縦に振る。

 わたしが首肯するや否や、一日でも早い方が良いとせっつくものだから、翌日からヤヨイちゃんも一緒に、少しでも可能性がありそうなところは片っ端からお願いして、やっていけそうなところを見つけることになってしまったのである。

 もうその時点でうまくいかない気はしていた。


 そして結論を言ってしまうと、案の定、全滅した。



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