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106-64 DIYガール

 帰宅して、荷物を片付けて、その足で、近くに水場がないか散策へと出かける。

 クライアさんにはなんの注意もされていないけれど、もしかしたら、クマとかの危ない動物がいるかも知れないし、昨夜は、オオカミっぽい鳴き声もしていたので、道具置き場にあった錆びた鉈と金槌も携えていく。

 危険な生き物のものだったかは分からないけれど、昨夜は何かの生き物の気配もしていたし、備えておくことに越したことはない。


 開けた山の上の草はらにある、家の正面側。

 木々に覆われた、少しばかりここより小高い山の方に向かって歩を進め、森の前までやってきた。

 いざ、森の中を行かん、と気合いを入れる。

 鉈を金槌で、コツンコツン、と叩きながら、獣道すらない森に分け入って、ほんの三十秒弱。


「……あった」


 それは、あっさりと見つかった。

 落ち葉に埋もれていて、ちょっと分かりづらかったけれど、進行方向の真正面にあって気づけたそれは、まさしく湧き水といった水源と、僅かな水の流れ道だった。

 水際にしゃがんで、覗き込んでみる。

 沈んだ落ち葉を押しのけるようにして、水底から無数に澄んだ水が湧き出ていた。深さも五センチくらいで、広さも一坪もないけれど、水源としては充分だ。

 ちょっと掬ってみようと手を浸ける。


「つめたっ」


 湧き水は、ひんやりと冷たかった。

 少し掬って、飲んでみる。

 これといって、味も、臭いもない、良い意味でただの水だった。


「これなら飲み水としても使えそう。よかったー、こんなに近くに水源があって」


 家の近くには、山の上なこともあって、井戸なんて望むべくもなかったし、クライアさんの家の近くに井戸は見かけたけれど、毎度山を上り下りするのは大変そうだったので、近くに水源があったのは助かった。


「また余裕ができたら、ここまでの道もちょっと綺麗にしよう」


 目印が必要なほども入ってきていないくらい、森に入ってすぐのところだ。少し下ったくらいで、家との高低差もほとんどない。


「運が良かった」


 ちょっと頬が緩んで、ホクホクしながら来た道を引き返す。

 森を抜けると、ちょっと離れたところに家が見える。

 遠目に見ると、玄関の上の屋根が落ちていること以外、あまり問題もなさそうな佇まいをしているけれど、実際のところは、色々と手を入れなければならない、我が家だ。

 ちょっと立ち止まって、腕を組んで、少し、そんな我が家を眺めてみる。


「次は、お家のお手入れかな。……住めるようにしないと」


 家だけに留まらず、手を入れたいところはたくさんあるけれど、自分はなんでもできる超人ではないので、できることから少しずつ、だ。

 少しばかり軽くなった足取りで、まずはどこから手を付けようか、などと考えながら、我が家へと帰った。



 帰宅して、まずは一度、水を汲みに水源へ戻った。

 土間にあった鍋に水を入れて戻り、少し早い気はしたけれど、先に腹拵えをしておく。

 硬いパンと少しのしょっぱいチーズ、あとは干し肉っぽい茶色い何かをいただく。水がある分、朝よりだいぶ食べやすくなった気がした。

 それから、道具置き場に回って、とりあえず使えそうな道具を一通り集めて、軒先に並べてみる。

 鋸、金鑢、大小の金槌、大小の鑿、数十本の釘っぽい金属の針、砥石っぽい四角い石と、あとは一メートルくらいの物差し。

 ざっと見て、使い方がすぐ分かったものでは、こんな感じのものだった。


「それにしても、金物はすごく錆びてるなぁ」


 使えないほどではないけれど、鋸なんかは、切った木材の切断面が錆で汚れそうなので、薪の欠片でこすって錆を取っておく。

 ついでに、鑿もざっくり錆をこすり落とす。


「……よし。あとは、ちょっと刃先も研いでおこうかな」


 これくらいなら、と水甕から掬った雨水で鑿の刃を研ぐ。

 包丁ですらシャープナーで研いだことくらいしかなくて、砥石の使い方が合っているのかは、よくわからなかったけれど、何度か擦っている内に綺麗な銀色に輝き始めた刃先を見るだけで、ちょっと嬉しかった。


「よし、道具の準備はこれで良いかな。じゃあ、まずは……窓からかなー」


 最初に、ガラ空きの窓から手をつける。

 これを塞ぐなりなんなりしないと、夜に安心して眠れない。

 塞ぐと言うと屋根もなのだけれど、屋根に登って入って来られるようなのは限られるだろうし、なにより屋根の穴を塞げるだけの資材がないので後回しにする。

 ちなみに、窓を塞ぐのには、ベッドを解体した木材を使う。二台も使わないからね。

 寝室でざっくり解体して、パーツを外に運び出してから、窓の寸法を測って、適当に切る。

 最初はちょっと手間取ったけれど、徐々に慣れながら、必要な板は切り出せた。次はその板を、窓のサイズに合わせて、何枚か釘でくっつけて一枚の大きな板にする。最後に、隅の二箇所に小さく切った木片を打ち付けて、これで良し。

 これを窓の数の分だけ作る。

 そうしてできた板を、窓にはめていく。大きすぎたら、金鑢で削って調節する。

 窓枠にはめる時は、木片をつけた側を上にして、木片を貫通させるようにして、左右の窓枠に釘で打ち付ける。少し縦に長めに作ってあるので、下側は外にはみ出させて内側には入らないようにすれば、外側にだけ開くすべり出し窓の完成だ。

 とりあえず、窓に板を取り付けたことで、野生動物が飛び込んでくるという可能性はだいぶ減っただろう、と思う。

 当然、板を釘二本で取り付けただけなので、外からでも簡単に持ち上げて開けられるし、施錠もできないので、防犯能力は皆無だけれども、動物が開けるにはちょっと難しいだろうから、ひとまずはこれで良し。


「できたぁ…… 疲れた……」


 そうして全ての窓に板を取り付け終わった時には、もう夕方になっていた。



 じきに来る夜に備えて、次は薪の着火に挑戦する。

 屋根の穴から入ってくる光で、まだ明るい内に火をつけられないと、また今夜も寒さに震える夜を過ごすことになってしまう。

 こちらの季節はちょっと把握していないけれど、朝夕は結構冷えるのだ。

 火打石と火口を持って、火打金を打ち付けて火花を散らす。


 カチ、カチ、カチ。


「……む、もう一回」


 カチ、カチ、カチ。

 ふー、ふー……


「着いた!」


 ほんの小さな火種を、すかさず解体したベッドから回収した亜麻布に移す。優しく息を吹いて、火が出たら、次は同じくベッドから回収した藁に移して、かまどに置き、少しずつ薪を入れていく。

 そして、ついにかまどに火が入った。


「やったー! 暖かい……」


 まだこの時間はそれほど寒くはないけれど、火を見ていると心が暖かくなってくるようだった。


「これで、とりあえず、今日やることは終わったぁ…… 疲れた……」


 土間に足を投げ出して、板間にひっくり返って、ふぅ、と一息つく。

 ちょっと背中がじゃりじゃりする。掃除もしないといけない。


「裸足になりたいけれど、ささくれが刺さりそうだから、無理かなぁ」


 せめて、スリッパ代わりになるものが欲しい。


 ──草履の要領で、サンダルみたいなものを編めないかな。授業で草履編んだの、小学生の時だからほとんど覚えてないけれど……


 仰向けで、天井の穴から空を見上げる。

 日没時の空は、もうすっかり深い紫色になっていた。

 ぼーっと暗くなりゆく空を見つめる。かまどの火で足下が暖かくて心地良い。


 ──あぁ、こんなに動いたの、久しぶりな、気がする……


 感覚的には、ほんの二、三日前まで、実家の仕事を手伝って、あくせく働いていた気分なのだけれど、実際には一週間以上経っているわけだし、すっかりなまっていたの、かも、しれない。

 朝起きて身支度をして、パートさんたちと一緒に収穫を手伝って、注文票通りに野菜を仕分けて、配達も手伝って。

 午後は畑の手入れをして、事務作業を手伝って、ちょっとお金のことも教わって……

 夜になったら、翌日の準備をして…… それから、受験の……模試の勉強を、して……


 ──あぁ、寝る前に、勉強、しないと……


 うつら、うつら、と、意識が微睡に落ちていく。


 ──あ、でも……


 ──もう、受験勉強、する意味も……


「あああぁ!!」


 飛び起きた。

 また鼓動が跳ね回っている。


「あ、あ、悪夢だわ…… 落ち着こう……」


 すっかり暗くなった部屋を手で探って、水の残った鍋を引っ掴む。コップは……あった気はするけれど、ちょっと探せないので、鍋から水を直飲みする。

 呼吸を落ち着けて、かまどに薪を追加する。


「今は、まだちょっと、寝たくないな……」


 ごそごそと荷物をあさり、クライアさんに貰った本草図鑑を持ってくる。

 かまどからの明かりなので、ちょっと体勢が難しいけれど、うまいこと工夫して、図鑑を頭からざっくり読んでいく。

 イラストで示された見た目に、簡単な見分け方、用途、効能や、分布や生育時期、などなど……

 一度読んだだけで完璧に覚えるなんてできないけれど、明日、森に出て実際に植物を見た時に、それが図鑑に載っていたかどうかが思い出せるくらいには、頭に叩き込んでいく。

 一度鼓動が落ち着いてからは、もうすぐに眠気との戦いになってしまったけれど、なんとか耐えて読み進める。

 そうして一通り読み切った頃には、屋根の穴から二つの月がこちらを覗いていた。

 本を閉じ、傍にそっと安置したところで、板間でそのまま、睡魔に屈服してしまった。



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