ミミという少女②
翌日、モヤモヤしていると、食堂で、ミミと会った。
さすがに、もう泣いてはいないが、落ち込んだ沈んだ表情のままだ。
悲しみが癒えたわけではなく、もう悲しむ体力も気力も尽きた、という感じだ。
さすがに無神経・・無邪気な男子達も、このミミに話しかけたりは出来ないし、女子達も、敬遠気味だ。
普段なら、俺だって、そちら側だ。
だが、やはり放ってはおけない。
勝手に、仲間意識、いや、シンパシーとでもいうのか?あるいは単なる同情かも。
ん?同病相哀れむかな?・・・まぁ、何でも良い。
兎に角、放っておけないのだ。
ミミの目の前に食事を載せたトレーを置く。そして、俺も前に座る。
一瞬、ピクリと反応したが、俺に視線は向けない。
『表示』
名前 ミミ(4)
種属 犬人属(0)
職業 --(--)
スキル 成長遅延(5)
成長遅延かぁ・・・気になったので、
『→スキル表示』
成長遅延(レベル5 --/--)
経験値の欄がこれって事は固定ということだ。
いや、それよりも、俺は思わずスプーンを落とし、口に入れていた物を噴出しそうになった。
『→スキル表示』
成長遅延(レベル5 --/--)
武器成長(レベル5 --/--)
二刀流
片手剣成長(レベル3 --/--)
その下にも、スキルが続いていた。
武器成長のレベル5という事は、一回の行動で+5回・・・つまり六回行動したとカウントされる。
片手剣成長のレベル2だと+2回だ。
そして・・・このスキルは、重ねが有効だ。つまりミミは、一回、片手剣で攻撃すると、八回行動した事になるのだ。
もし、俺が、このスキルを持っていたら、今頃、武器レベルは90オーバー!?
え、なにそれ、ズルイ!!
・・・いや、そういえばそうだったな・・・・
ダンジョン・マスター・クロニクルでは、悪い設定には、必ず救済措置がセットであった。
それをあえて利用して、究極の特化型を俺も、作ったりしていた。
・・・もとい、必ずではない。勇者の救済措置は未だに発見、出来ていない。まぁ、勇者が悪い設定か?というのがそもそもの疑問だが。
「ミミ、ずるい・・・」
思わず心の声を口にしてしまった
俺の言葉に、ミミの耳がピクリと動く。
あ、やば・・・怒るかな?
「・・・」
視線を上げ、ミミが俺の事をじっと見る。
「リン君も、捨てられたの?」
俺の場合は捨てられた・・・というのとは違うな。国のルールに従って、ここにいるだけだ。
さて、どう答えたものか・・・嘘はばれたら後が怖いし・・・
俺は、散々考えて・・・
「これ、見て・・・」
指先で『→スキル表示』とテーブルに書く。
あ、これじゃ見難いか。もう一度、今度はコップの飲み物で指先を濡らして書く。
「??」
「これを思い浮かべて・・・で、俺を見て・・・」
微妙な表情をしているミミ。
が、俺の真剣な表情に気付いて、やってくれる。
そして・・・
「・・ユーシャ・・・・」
ポツリと呟くミミ。
「ね、酷いでしょ?」
この世界の住人なら、例え、子供でも「勇者は役立たず」というのを知っている。
「でもね・・・今度は・・・ミミ、自分を『視て』ごらん・・・」
今度は、すんなりと指示に従ってくれる。
ミミの目には、自分のスキルが見えている事だろう。
「ね・・・ミミの方が良いでしょ?」
「・・・ホントだ・・・私、強くなれるんだね・・・弱くないんだね・・・」
ん?捨てられたということよりも、弱いこと、強くなれないことを悲しんでたの?
まぁ、この世界ではダンジョンでの強さ、というのが絶対的な基準であるのは否定しないけど・・・
可愛い顔して、実は戦闘狂??
「ミミは・・・強くなりたいの?」
少し心配になって、確認してみる。
「うん・・・ミミね、魔物を沢山倒したいの!!いっぱいいっぱい、ヤりたいの!」
狩猟犬か何かの血を引いているのかもしれない・・・・スキルに狂戦士ってのは、なかったよな?
ニコニコしているミミを俺は複雑な心境で見つめるのであった。