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恋は盲目

作者:誇高悠登
「さて……。今日はお前の番だったよな。しっかりと調べてきたか?」

「勿論。今月のお題は――恋愛系だったよね?」

 僕がいつもの場所――山の上にある神社に入ると、不二は既にそこにいた。無礼にも賽銭箱の上に座っていた。寂れた神社にいる神に頼む人間はいないだろうが、それでも賽銭箱は本殿の前に備え付けられている。
 だれもこんな場所にお参りはしないだろうが。
 僕はこの場所で不二以外の人間を見たことがない。
そんな賽銭箱の脇にある石段が僕と不二のたまり場だった。
 『山』と言ってもそこまで高い標高ではない。
高校生の僕達で5分登れば辿り着ける。
 僕はカバンを下しながら、不二の言葉に答えた。

「ああ。ま、期待はしてないけどな」

「え? なんで……」

「だって、お前絶対彼女とかできたことないじゃん。そんな奴が選んだ『恋愛名言』なんて、大したことないに決まってるだろ?」

「は、は? べ、別に僕だって彼女出来たことあるし?」

「小学生とかはなしだぜ? 彼女ってカウントしていいのは中三からだ」

「なにそれ! 恋愛に年は関係ないっていうだろ?」

「ばーか。恋愛はそうかもしれないけど、恋愛ごっことなれば話は別だろ?」

「……」

 小学生の恋はあくまでも「おままごと」であると、不二は言いたいようだ。

「あれ? もしかして、『恋愛に年は関係ない』っていうのが、今日調べてきた名言だったの?」

「違うよ……」

「本当かなー?」

「本当!」

 そんな話をしながらも、不二は僕に200mℓの紙パックを渡す。
 オレンジジュースだった。
 近くのスーパーで50円ほどで売ってる安いジュース。これを飲みながらダラダラと30分から一時間、『名言』について話すのが僕たちの暇つぶしだった。
 初めて三か月しか経っていないが、もう何年も不二とこうして話している気がするのは、互いに気を許している証拠だろう。ま、不二がどう思っているの、僕には分からないんだけどね。もしかしたら、裏で話の内容を、誰かに話して笑い話にしているのかも知れない。
 チラリと不二の横顔を見る。
 何度見てもイケメンである。
 流行の塩顔だ。いや、もしかしたら、もう流行っていないのかも知れない。そう言った情報に僕は疎い。僕からすれば塩顔も醤油顔もソース顔も、どれも大差ないように思える。
 何故なら僕は、調味料は使わない派だからだ。
 ドレッシングだって使わない。
 その昔――はっきりとは覚えていないが、恐らく小学一年生の頃だったと思う。何かのテレビ番組で、調味料には体に悪い物質が大量に配合されているということを、お笑い芸人が『ネタ』としてやっていた。僕はそれを見て、『ネタ』とも知らずに信じ込み、見事に禁煙ならぬ、禁調味料に成功したのだった。
 以降、何となしに何もつけずに素材の味のみで食らっている。
 ま、既に掛けられて出される場合もあるけど、ただ、避けてるだけなので、普通に食べれる。たまに食べると美味しく感じるくらいだ。自分でかけたのではなく、かけられているからしょうがないと言い訳をして食べるからこそ、余計美味しいのだ。禁を破った味は格別だった。

(……僕の調味料情報はいいんだよ)

 今は、不二がイケメンだ。ということを伝えたい。イケメンと言っても、はっとする感じではない。『よく見ると二枚目』だ。よく見ると二枚目ってなんだと僕は自分でも思うが、本当にそうなのだから仕方ない。ぱっと見は黒縁メガネをかけているからか、どこにでもいる優等生だ。しかし、よくよく見てみると、一重ですっきりとした目立ち。真っ直ぐ通った鼻。少し厚めの唇。美しいEライン。

「なるほど……」

 眼鏡によってその特徴が半分隠れているから、バランスが悪くなるのかと僕は納得する。

「いや、なに、人の顔を見てるんだよ。早く、調べてきた名言を教えろって」

「あ、ごめん。見惚れてた」

「……まさか、お前、俺のこと好きなのか?」

「残念ながら。僕、自意識過剰な人って嫌いなんだよね……」

「同性であることが理由じゃないのか……」

「勿論。そういう人もいるんだから、それを理由にしたら、人として問題有だよね」

「お前……良い奴か! それじゃあ、彼女も出来ないわな」

「え、なんで?」

 いい人なら皆から好かれる気がするのだけれど。
 しかし、不二は僕を否定した。

「そう言う人間が一番、相手にされないんだよ」

「そうかな……」

「ああ。俺が女だったら、お前は絶対選ばないね」

「まあ、選ばれたくもないけど」

「そこはショック受けろよ」

「別にねぇ。例え不二が女だったとしても、こうして喋ることができたらそれでいいから」

 不二との関係は不思議なものだ。
 同じ高校で同じクラス。
 放課後こうして会って話すというのに、教室では殆ど口を利かない。僕たちの高校は二年生からクラス替えがないという、良く分からない制度を取っている。高校生にもなれば頻繁にクラス環境を変えなくてもいいと考えているのだろう。環境になれる時間よりも勉強に優先しろと言う学校の方針尚かも知れない。
 僕はクラスではほとんどしゃべらない。
 教室の隅で読書しているタイプ。
 不二は眼鏡キャラにも関わらずに人当たりがいいからか、クラスの上位グループにいた。

「……好き! 抱き着いていいか」

 だから、こんな冗談も平然と言える。僕だったら友達だろうが、人の体温を感じること自体が不快なので、自分から進んで抱き着きたいとは思わない。

「……気持ち悪いんで『名言』いきます」

 いつまでもこうして話していてもしょうがないと、本来の目的である『名言』を言う。いや、本来の目的は、こうして時間を潰すことであるので、何をしゃべっていても同じなのだけれど、まあ、それはそれということで置いて置こう。それも棚の上にね。
 僕はスマホのロックを解除して、今朝、調べたばかり言葉を開く。スクリーンショットで取っていたので、アルバムを開けばすぐに見つかる。僕のスマホに写真なんて入っていないからね。当然、一番容量が少なくて安いスマホを使っている。
 そのスマホに唯一保存された画像こそが『名言』だ。
 僕は画面に移された言葉を読み上げる。

「『恋は盲目』――シェイクスピア」

「なんだよ、それ。そんなのさっき言った『恋愛に年齢は関係ない』っていう、韻を踏みまくりの言葉と同じような意味じゃないか?」

 不二はラップ口調で言う。
 それを言ったら、僕からしたら、名言なんて上からモノを言う発言にしか聞こえないのだから、同じ意味と言うのは禁止であろう。

「そうなんだけど、僕はこれを題に上げて、問いたいことがあったんだ」

「なんだ?」

「『恋は盲目』。だから、恋に限っては『目には目を』が通用しないと僕は注釈したいわけだ」

「目つながりの『名言』をプラスしたのか……。名言っていうか、法典だけどな。まあ、確かに、相手と同じことをしても嬉しくない。手探りで探すことに意味があるってことか……。そのことを知っているとは、さては、お前……、本当は恋愛のプロか?」

「一応、少女漫画も嗜んでおりますので」

 僕は紳士のように礼をした。

「漫画の知識かい!」

「は? 少女漫画を馬鹿にしないで貰えません? ほんと、あれ、男子でも楽しめるから! 大体、少年漫画を女性が好きでもなにも言われないのに、なんで少女漫画を男が好きだといけないわけ!? 女子だって大海賊時代じゃん」

 僕は恐らく現代で最も有名であろう少年漫画の名前を出す。この漫画のロゴやらイラストを車に張り付けている女性はたくさんいる。
 それが許されて、男子は許せないなど、どこが平等だと僕は言いたい。

「……それは、単に知名度の問題だ」

「知名度で態度が変わっていいんですか?! 良くないでしょう!」

「なんで急に熱くなってるんだよ……。いや、そうじゃなくて、知らない物はどうあがいても知らないだろ。自分から何かを探すっていうのは思いのほか大切なんだよ」

 それこそお前の言う、「恋は盲目、故に目には目をは使うべからず」ってことと一緒だな。と綺麗に纏めた。
 同じことをするのではない、自分から求めていくのだと。
むむ。
頭がいい。
こういう切り返しをされると、僕は言葉に困ってしまう。アドリブに弱いのだ。だから、不二以外のクラスメイトに話しかけられても、「は、えっと、その……」と言葉を詰まらせてしまう。
人見知りは機転が利かない。

「目つながりの名言だと、『目には目をでは、盲目になるって言葉もあるよな」

「あ、それは調べなくても僕も知ってる」

「ははは。同じ盲目でも、恋が入るだけで大分、雰囲気変わるよな」

「それは、僕たちがそう言う流れで話してたからじゃないの?」

「まあ、いいんだよ。とにかく、『恋は盲目』で見えなくなった世界は、きっと、それはそれで素敵だってことさ」

 復讐ではなく恋で誰もが世界を見れなくなれば最高だと不二は笑った。

「……あっそ」

 僕はそっと顔を背けた。
 そう言って不二の横顔は、やはり格好良かった。
 なるほど。
 言葉を扱う人間も大事なのだな。
 僕が同じ言葉を言っても、変質者かストーカーで終わってしまう。そうならない様に、精々、視界にだけは気を付けよう。
 僕はそう誓うのだった。

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