2-1話
「ボランティア部の申請したら、すぐに使える部室があるからそこを使いなさいって言ってくれたよ」
昼休み、クラスの違う彩乃が将吾を訪ねてくると、開口一番にそんなことを言ってきた。
将吾の記憶では確か部員の申請には五人以上の人数と、顧問になる先生が必要だった気がする。
「……顧問の先生って誰がやることになったんだ?」
「いないよ? 他校と試合とかあるわけじゃない自治活動なら必要ないって」
「ふぅん……」
将吾は納得していないような面持ちで顔の傷に触れた。
(たぶん、問題起きたときの責任逃れだろうな……)
将吾はすぐに先生たちの意図に察しがついた。
二年生で問題視されているツートップがコンビを組んで部活動をしたいなんて正面から否定はできなかったし、かといって近い将来問題が起きそうな部活の顧問なんか誰もやりたくはない。
(ま、下手に誤解されて当初の目的がグズグズになるよりかはマシか……)
将吾はとりあえず、この事態を前向きに捉えることにした。
目的はあくまでも自分や彩乃のイメージの改善である。それを主眼に活動するには外野は邪魔だと結論付けた。
「で、その肝心の部活はどこにあるんだ?」
「うん、今それを見せようと思ってきのですよ」
彩乃は得意げな笑みをみせて、将吾は立ち上がった。
将吾は彩乃の後をついていく。
鹿羽高校の校舎は教室棟と部室棟の二つの校舎があり渡り廊下で繋がっている。
二人も教室棟から部室棟へと渡っていく。部室棟は実習室を兼ねている部屋も多い。将吾も来るの事態は初めてではないが、教室棟を離れると無音が支配する部室棟はまるで別世界のように思えた。
「こっちですよ」
彩乃はウキウキした口調で言いながら将吾を先導していく。
階段を上って最上階の四階にたどり着くと、そのまま迷うことなくスタスタと歩いていく。
向かった先は廊下の突当りにある教室だった。
なんてことないただの教室。中も乱雑に並べられた机と椅子にはうっすらとホコリがつもり、黒板もチョークであちこち白く汚れていた。
「汚っ!?」
「しょ、しょうがないじゃないですか! ここしか無かったんですよ! お掃除すれば問題ないですよ」
「もしかして、昼休み使って掃除しようって話か?」
「それは放課後にしましょう。今は他にするべきことがあります」
そう言って、彩乃はスカートのポケットから紙を一枚取り出して、
「ちゃららーん」
なぜか若干悲しいオノマトペを口にしながら将吾に見せてきた。
紙には、人の名前らしきものと学年とクラスが細かく明記されていた。
「なんだこれ?」
「スカウトリストですよ。ここに書かれている人を部活に誘うのです」
「……なんで?」
「あれ、知らないんですか? 部活動は五人ほどメンバーがいないと創設できないんですよ?」
彩乃は将吾の無知を笑うように口の端を上げてみせた。
「……」
知らないならそれでいいと思って指摘しなかったらこのざまである。
将吾はちょっとだけイラッとしたのか、無表情のまま彩乃の頬をつまんで引っ張った。
「あううう……! ごめんなさい~! 離してください~……!」
将吾が彩乃から手を離すと彩乃は頬を押さえた。
「うう……乱暴されました」
「誤解されるような言い方をするな! あと、なんだその変な絡み方は」
「だって、あるじゃないですか……友達同士のノリみたいなの……私、友達いなかったから、こういうの憧れてたんです」
それを聞いた将吾は急激に頭が冷えていき、渋い顔をして頬を掻いた。
「それは……悪かった。俺も、ああいうのは初めてだったから……」
「いいんです、むしろ私もそうしてほしいと思ってましたから……乱暴にしてくれて、ありがとうございます」
「だからこれ誤解招くって! 人いなかったからよかったけど!」
将吾は吼えながら話を元に戻す。
「顧問もいないような部活なら部員も律儀に集める必要ないだろ?」
「まあ、そうかもしれませんけど、別にルールに従うのが目的じゃないんですよ」
「……っていうと?」
「噂を聞いたんです。私たちみたいに悪い噂だったんですけど、ひょっとしたらその人たちも誤解されてるかもしれないなって」
「だから、部活に誘って一緒にイメージ回復しようって?」
「人が多い方が目立つかなって」
「なるほど……とりあえずやってみよう」
将吾は彩乃から紙を受け取ると、とりあえず一番上の名前に目を走らせた。
邪答院瑠璃。
将吾は眉間にシワを寄せた。
「……読めない」
「名字は〝けいとういん〟ですよ。名前は〝るり〟」
「すごい名前だな」
「私たちも人のこと言えないですけどね」
「……とりあえず、行ってみるか。場所は一年二組か」
将吾は彩乃に紙を返すと、急ぎ足で一年の教室に向かった。




