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鹿羽高校 暴乱帝阿部  作者: 松雲
34/36

4-7話

「そういえば、レナはどうした?」

「そ、それが……さっきから見当たらなくて……」

「あの五人組を追っかけていってから、それっきりだね」

「レナ……怪我とかさせてなければいいけど」

 将吾の脳裏には肋骨の間に指がめり込む瞬間がフラッシュバックして五人の安否が先に気になってしまう。

「おおーい! ショーゴー! ショーゴー!」

 遠くから聞こえてくるのはレナの声だった。

「おお、こっちだ……こっ……ち」

 将吾は呼び声に答えるためにマットの上に立ってレナを見つめて言葉を失う。

 ついでに周りの人たちも口をあんぐり開けていた。

 そんなリアクションにもなるだろう。なにせ小学生と見間違えるほど小柄なレナが、手の平にまるでピザの箱を乗せるようにして、あの五人組を平積みにして持ってきたのだ。

「スーパーマンかお前は……」

 見たままの感想を口にしながら将吾が呆然と見つめていると、レナは五人を乱暴に降ろした。

「ショーゴ。こいつらが火事の犯人よ! こいつらから一番火の匂いがするよ」

 火の匂いと言われても将吾にはピンとこないし、それに同意してくれるのはレナの親くらいだろう。

 将吾が難しい顔をしていると、五人は立ち上がってぎゃーぎゃー騒ぎ始めた。

「なんで俺たちが犯人なんだよ! 俺たちはあの辺に近づいてすらいねえぞ!」

「そうだ! だいたい、あの部室の辺りで火事があったんだから、お前らの方が怪しいじゃねえか!」

 男子たちは将吾たちを指さしてさらにわめく。

「お前ら、喫茶店やってたんだよな? ガスを適当に管理してたせいで火事になったんじゃないのか?」

「むしろ自分からガスを爆発させたんじゃないのか? お前の今日までの素行を考えたらその方が自然だろ? 屍の龍は伊達じゃねえってか?」

 将吾の不本意な二つ名を口にすると、その名前は周囲にいた人々にも伝播していった。

「屍の龍って……あのヤクザ百人殺しか?」

「顔の傷は全部喧嘩でつけったってのも噂じゃなかったんだな」

「確かにあの顔なら放火してもおかしくないな」

 無責任な野次馬たちの言葉が将吾の耳にも入ってくる。

 将吾は周りを見た。

 自分に突き刺さる視線には見覚えがある。檻の獣を見るような好奇と、同情と、自業自得だと言うような冷たい視線。

(ああ……またか)

 将吾はどこか遠くの景色のように自分を見つめる人々の顔を見回した。

 結局、こうなるのか。今回は上手くできたと思ったのに……昔とは違うと実感できたのに。それでも、まだ誤解されるのか。

 全身に力が入らなくなり、冷たくなった手がだらりと下がる。

 すでに火事からの脱出で心身ともに疲れ切った将吾にはもうこの状況を打開しようとする気力はなかった。

 が、

「い……いい加減にしてくださいっ!」

 突如、彩乃が上げた大声に周りの人間は声を発するのを止め、将吾の目に消えていた光が灯る。

「あなたたちは、なにを見てたんですか!? 将吾くんは自分が死ぬかもしれないのに人を助けに火の中に入っていったんですよ!? それなのに、ただ見た目が怖いだけでもう犯人扱いなんておかしいと思わないんですか! 根拠も無いのに、その人が黙ってるのをいいことにあること無いこと言って恥ずかしくないんですか!」

 全部言い終わった彩乃は唇を噛みしめて肩を震わせながら声を発さずに涙を流して震えた。

 突然のことで誰もが面を食らっていたが彩乃の言葉は将吾を犯人と決めつけていた人間を黙らせるには十分な効果を発揮した。

 将吾は彩乃の肩に手を置いた。

 手は、いつの間にか温かさを取り戻していた。

「もういいよ彩乃。お前や部の奴らが分かってくれてるなら、それでいいよ」

「よくないですよ……! あんなに頑張った人が悪く言われるなんて、間違ってるじゃないですか」

「まったくもってその通りだね。犯人はハッキリさせないとこっちだって気が収まらないんだから」

 ブロンドの髪を掻き上げながら、ココはスタスタと早歩きで男子たちの方へと近づいた。

「つまり、君たちの言い分はこうだ。私たちこそがその出火を招いた犯人だと」

「そうだよ! お前ら意外に誰がいるんだ!」

「ふぅん……。私たちが下の階にいたとき、君たちは階段を駆け下りてきた。……それより前に火災が発生しているなら、私たちに犯行は無理。……それは君たちが一番よく知ってるんじゃないのかな?」

「お前が今言ったことが本当だって証拠がねえだろ! 俺たちは火事が起きたときにはさっさと下まで逃げてたんだ。おまえたちになんか会ってねえぞ!」

 明らかに嘘をついているが、確かにあの五人と下で出くわした証拠など何もない。

 将吾が心配そうにココを見つめているが、ココは相変わらず余裕の笑みを崩さない。

「へえ、火事を見てからすぐに逃げたんだ……それにしては、随分と服が汚れてるね?」

 ココは五人の服を指さすと、確かに五人の服はあちこち焼け焦げたような跡が残っている。火事が起きてすぐに逃げ出したのなら、こんなにあちこち焼けているわけがない。将吾の服の方がまだ綺麗と言えた。

「まあ、火事になってすぐに逃げ出したのは本当だろうね。実際に下で出くわしてるわけだし。それなら、どうしてここまで服が汚れているのか……これは、君たちが出火元にいた可能性を示している」

 理路整然と語るココの口調は立て板に水といった調子で淀みなく、周囲の人間の耳を傾けさせる。五人もココのペースに飲まれたのか口を閉ざして黙り込んでしまった。

「つまりこうだ。君たちは先日のコンビニでの一件を根に持ち、我々の部室に火を付けた。だが、ボヤ程度で済まそうと思っていた火は周囲の装飾に引火していき、それを消そうとして上のシャツを脱いでもみ消そうとしたが、火は強まる一方になり無責任にも自分たちの我が身可愛さに幼い子供が火の海に取り残される事などまったく考慮せずに逃げ出した……と」

 事件のあらましを仮定しながらも、五人への非難の言葉は忘れない。笑顔ではあるが、ココの笑みからはハッキリと怒気が感じられた。

 しかし、疑惑の眼差しが将吾から五人に向けられると、五人は口をそろえて反論した。

「ふざけるな! なんで早く逃げただけで犯人にならなきゃいけないんだよ!」

「そうだ! 服の汚れがなんだってんだよ!」

「俺たちはてめえらの部室になんて一歩たちとも入っちゃいねえよ!」

 五人が声を荒げて喚き散らす中、ココは手の平を見せて五人を制止させた。

「今……部室には入っていないって、言った? それは本当かな?」

「ほ、本当だよ! なあ!」

 声に促されるように四人はうんうんと頷いて見せた。

「へえ、そう。……ふぅん?」

 意味ありげに口元に微笑を湛えながら、ココは男子生徒の周囲を回りながら服を舐めるように見つめ続けると、

「これは……なにかな?」

 ココは男子の肩にくっついていた燃えカスをつまみ取り、笑みをさらに深くした。

「これが何か分かるかな? これは、私の両親が経営している会社のマークが入ったタグだ」

「今はそんなの関係ないだろうが!」

「……一体どうして、君たちにこの燃えかけたタグがくっついているのかな? ――このタグは、私たちの部室にしか無いんだよ」

 周りがどよめき始めると男子五人も互いに顔を見合わせ始める。

「そ……そんなバカな話あるか! 売られてる商品のタグだってなら、俺たちの誰かが買ったもののタグかもしれねえじゃねえか!」

「それはありえないんだよ。なにしろ、両親の会社は女性下着の専門店だ。君たちには用の無い場所だろう? 仮に君たちが女装趣味があったとしても、下着のタグはここまで大きくない。これはこの世界でまだあの部室にしか存在していなかった家具についていたタグなんだよ」

 ココは淡々とした口調で徐々に男子たちを追いつめていき、顔から血の気を奪っていく。

「これが指し示す事はただ一つ。君たちは部室に入っているにも関わらずその事実を隠蔽した。なぜか、それは君たちがこの出火の犯人であるからだ。反論があればどうぞ」

 ココが恭しく頭を下げると、男子たちは力つきたように両膝をついた。

 それが言葉よりも重い、肯定の印だった。

「それじゃあ、後は警察の人にお任せしましょう」

 ココが声をかけると、消防隊より遅れて現れた警察官たちが男子たちを連行していった。

「ありがとよココ。また濡れ衣着ないで済んだ」

「いいよ。レナが犯人捕まえてきて、瑠璃は逃げる人の誘導をして、彩乃は将吾を助けたのに私だけ何も活躍できなかったから少し張り切っただけ」

 そう言うココの表情はいつものように笑みを浮かべていた。

「ショーゴはえらいよ! 二人も人を助けるなんてとってもえらいよ!」

 レナは声を張り上げながら大きな拍手を送ってくる。将吾がレナが偉いを言い間違えずに言えていることに少し感動していると、レナの周囲でも拍手が上がり、将吾たちの周りを拍手の雨が包んだ。

「……」

「どうしたんですか? 将吾くん」

「……俺、困ってる人助けても、まず怖がられたり逃げられたりしてたからさ。……こうやって感謝されるのって……いいもんだな」

 将吾は拍手の音を聞き入るように目を瞑る。

 この反応が通常のことと分かっていても、今はそれが嬉しかった。

 避難誘導をしていた先生が拍手の雨を止めるまでのほんの少しの間、将吾は目を瞑り続けた。

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