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鹿羽高校 暴乱帝阿部  作者: 松雲
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1-2話

 狙い目は昼休みか放課後だろう。

 将吾は一人、自分の作戦実行のタイミングを計っていた。

 都合よく占いやオカルトの話をする人間はそうそういるものではない。タイミングを逃せば次の機会はいつになるか分からないのだ。

(もし女子が相手でも、無理矢理話題に入ってしまおう。女子の方がこの手の話は好きだろうから、食いついてくれるだろう)

 そんなことも考えながら将吾は心の中で、来い……来い……と念仏のように繰り返しながらギラギラした眼光を教室の周囲に向けていた。

 そのあまりにも常軌を逸した眼力のせいで、将吾のいる教室はやけに静かだった。

 そのせいか、会話もろくに弾む様子がなく時間だけがいたずらに過ぎていき、あっという間に昼休みが昼休みがきてしまった。

 トイレの手荒い場で手を洗いながら将吾は気合を入れ直すように自分の顔を睨みつけた。

(……まあ、今日がダメそうなら明日も頑張ればいいんだ)

 手を洗うために曲げていた背中を伸ばして、将吾は手を拭きながらカバンを持ち帰るために教室に戻る。

 と、

「いやいや! ホントなんだって! マジであれ本物だって!」

「おまえ、やらせとガチの区別もつかねえのかよ」

「テレビの占いなんて最初から台本があるに決まってるだろ。純粋かよ」

 自分の教室から男子の話し声が聞こえてきた。

 その会話の内容に、将吾の口端は裂けんばかりに上がっていった。怒りを通り越して笑みが出たわけではない、喜んでいるのだ。

(今日は本当にいい日だな。やっぱり、朝の親切が効いたのか……)

 教室の中で発生している会話に将吾はそんな結論をつけた。

 そうでなければ、その手の話を期待していた自分の前でこんな会話が発生するわけないと信じ込んでいた。

「……よし」

 将吾は早くなる心臓の鼓動を押さえようと深呼吸を繰り返して、引き戸に手をかけて、そのまま開け放った。

 バン!

 けたたましい音とともに引き戸が開く。

 緊張で手に余計な力が入ってしまったのだ。

 だが、そんなことは中で楽しく談笑していた男子三人に伝わるはずもない。

 戦慄。

 ただただ、教室に乱入してきた将吾の動きにクラス全体が恐怖で目が離せなくなっていた。

 そして将吾の方も緊張で三人の動向など気にしている余裕はない。

 顔は緊張で険しくなり、ともすればそれは怒っているようにも見えたし実際三人の胸中も、

(怒ってる……)

(殺される……)

(終わった……)

 と大体自分の死を悟りだしていた。

 将吾は自分のカバンからタロットカードを取り出すと、ぎこちない足取りで三人に向かう。

(ま、まずは笑顔だ……これで向こうに友好的だって安心感を与えよう)

 三人の前で止まると、将吾は一度咳払いをして、

「今、占いの話してたよな? 実は俺占いができるんだけど……やってみないか?」

 そう言って将吾は――笑った。

 ギイイィィ……と緊張で強ばった顔面の筋肉を必死に動かして、白い歯を口から覗かせた。

 三人は恐怖で今にも泣きそうになっていたが、幸か不幸か、彼らは全員西日で逆光におり将吾からは上手く表情を見て取ることはできなかった。

「よ、喜んで。……なあ?」

 一人がそう言うと、ほかの二人も釣られるように何度も頷いた。

「そうか……じゃあ始めよう」

 将吾は三人と対面するように椅子に腰かける。

 カバンからタロットカードを出すと、大アルカナのカードを選り分けてシャッフルしていく。

「さ、一枚とってくれ。それで運勢を見る」

 将吾はなるべく二十二枚のカードを取りやすいように広げながら机の上に置くと、一人がおずおずとカードを一枚指で引っ張った。

 将吾は残りのカードをまとめると、引っ張られたカードを開示する。

 死神。

 大アルカナで十三番目に位置する死神のカードがそこにはあった。

 将吾は一瞬、十三というカードに身体をビクッとさせるが一度深呼吸をして、カードの意味を読み取っていく。

「まず、死神のカードっていうのは死の暗示だと誤解されている部分があるけど、それは誤解で死神は再生や再出発を意味することもある。君が今やっていることは新しい展開をみせてくると――」

 将吾は真面目に占いをしていたが、三人からすればそれどころではない。

 そして、それを見ているクラスメートもそれどころではない。

 次は自分たちの方に来るかも。

 脳裏でそんな考えがよぎった順から静かに教室から消えていく。

「……っと、まあこんなところか。あ、これはあくまでも占いだから信じすぎないようにな。……次はどっちがやる?」

「い、いや! 俺……僕たちは大丈夫だから! な?」

「あ……うんうん! 参考になったよ。どうもありがとう……俺たち、もう行くから」

「……? そうか?」

 将吾は訝しむように三人を見つめていると、三人はダッシュで教室を抜け出した。

「……あれ?」

 将吾は周囲を見る。

 教室に人がいなくなっていた。

(え……怖い。なにこれ)

 教室の外から聞こえる声が届くだけで、教室は完全な静寂に包まれていた。

「ま、まあとにかく、これで少しはいい方に俺の噂もうごいてくれるんじゃないかな……とりあえず、教室出よ」

 将吾は恐怖で独り言を言いながら弁当箱を持って、そそくさと教室を出た。

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