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鹿羽高校 暴乱帝阿部  作者: 松雲
23/36

3-11話

「な、なんだよ……なんで提案するくらいで俺が怒る可能性が生まれるんだよ」

「だだって、て、提案した後に……怒られたくないし……。あ! すみませんすみません! 私みたいな社会のゴミが対等なつもりで約束なんて言い出して! ゆ、許してくださいぃぃ……!」

 まだこちらは何も言っていないのだが、すでに瑠璃は追いつめられたように涙目になっている。

「将吾、女の子にそんな台詞を強要させて楽しいの?」

「なんで俺が強要した形になってんだよ!? 瑠璃もいいから言ってみろよ。俺は絶対に怒らないから!」

「は、はい……それじゃあ、提案させていただきます……」

 瑠璃はソファに座り直すと、何回か深呼吸して言った。

「め、メイド喫茶は……どうですか?」

 この提案に、全員がピンときていないのか互いに不思議そうな顔をして瑠璃を見つめている。

「ええっと……それのどこが俺を怒らせる提案なんだ?」

「ええ!? だって、メイド喫茶ですよ? いいんですか?」

「いや、まあ……単純におまえたちは似合いそうだけど……俺は蚊帳の外だな。まあ、裏方でもすればそれはそれで……」

「あ! えっと! 違うんです! ……その……あの」

 瑠璃は言いづらそうに俯いてもじもじと膝を見つめて、

「――将吾先輩もメイド服を着ればいいかな……って」

 その言葉に四人の脳内は自動的にあるものを思い浮かべさせた。

 フリルのついたゴシックスタイルのメイド服。

 それを着るのは右目の大きな傷を初めとして顔中に無数の傷をつけた身長約二メートルの男。

 その男がスカートの端を摘んで、恭しく頭を下げながら言うのだ。

「お帰りなさいませ。ご主人様☆」

 と、

 ココとレナはほぼ同時に吹き出して、ソファにもんどり打って大笑いを始めた。

「や、やばい! やばいよ瑠璃! それ滅茶苦茶面白いよ!」

「いたいいたい! お腹痛いよー! 腹筋取れるよー!」

 二人は涙を流しながらもはや苦しそうに顔を赤くしてお腹を抱えていた。一方で将吾の方は、自分の変態的な姿を想像して怒る以前に具合が悪くなった。

「いや、面白いって思う奴もいるかもしれないけど。気持ち悪いと思う奴もいるってそれ……。なあ彩乃?」

「そ、そふっ、そうですよ。おふふふ二人とも笑いすひっ! ですって!」

「おまえも笑ってるのかよ!」

 将吾が目を剥くと、彩乃は将吾の顔を見つめて大爆笑コンビの輪に入って大笑いをはじめ、コンビからトリオに昇格した。

「……ふぅ……か、顔の筋肉が切れそう……よし、じゃあメイド喫茶に決定!」

「待て待て待て! 異議あり!」

 ココが勢いに任せて決定しそうになるのを将吾は慌てて止めに入った。

「なんで? 面白いし怖いし言うことないでしょ?」

「気持ち悪さも入ってるだろ! そんな怪物みたいな奴がいる店に誰が入りたがるんだ! 俺なら絶対に入らないぞ! とにかく俺は絶対に嫌だ!」

「怪物……」

 ポツリと彩乃が呟いて、

「将吾くん! それでふっ!?」

 勢いよく立ち上がって血を噴き出した。

「あああああ! 興奮しすぎだ! ちょっと落ち着け!」

 将吾はテーブルに飛び散った血を雑巾で拭いていき、彩乃もハンカチで口元を押さえる。

「ごめんなさい……さっき笑ったダメージで気管が……。で、でも良い考えが浮かんだんです」

「お、今度は将吾に何着せるの? ナースかな? レースクイーンかな?」

「なんで女装が前提になってんだよ!? ……で、良い考えってのは?」

「あのですね。怪物喫茶、というのはどうでしょうか?」

 彩乃の提案に全員がすぐには内容を飲み込めずにいた。

「怪物……喫茶?」

「はい。将吾くんにはすっごく怖い仮装をしてもらって、私たちはそこまで怖くない仮装をします。そうすればココちゃんの言うように互いの見た目は損なわないし、怖い噂も利用しつつ周りの評価も変わるな……って」

「おおー、なんだか分からないけど凄そうだよー」

 まず第一声をあげたのはレナだった。

 しかし、ココの要求にも応えているし、メイド喫茶よりかは新鮮味もある。

 なんだか、上手くいきそう。

 全員が、彩乃の言葉にそんな雰囲気を感じ取っていた。

 約一名を除いて。

「あ、あの……喫茶店ってことは……料理を作るんですよね? ……な、何を作れば。それに、怖い噂を利用したら、そもそも人が来なくなる可能性が……」

 瑠璃が全員の顔を見渡して不安げな声を出すと、

「てめえ! ようやく話がまとまりだしたのに水差すんじゃねえよ!」

「あううぅぅ……ごめんなさいぃぃぃ……!」

 ヴラッドが瑠璃の頬を引っ張った。

 そんな瑠璃の不安を解消するのは、口から先に生まれた女、ココだった。

「それなら心配はしなくていいでしょ。怖い怖いって言われてる人たちがノリノリで仮装してたら、少なくともそのときだけは害を与えるつもりじゃないのは向こうも気づくよ。そうなったら、そこから一気に誤解を解けばいいし、それが出来なくとも、きっとそこまで怖い人じゃないって再評価されるんじゃないかな? どっちに転んでも私たちからすれば美味しいってわけ。どう? 少しは落ち着いた?」

 理屈で相手を納得させる技術でいえばココはまさに天才なんじゃないかと将吾は思った。聞いていたこっちまで無理矢理不安が解消させられてしまった。

 しかし、それでも食らいつくのは無駄な不安と無駄な気苦労を生み出す女、瑠璃だった。

「でで、でも……肝心な料理は? わ、私、料理は……自信が無いです……。ココ先輩は料理できるんですか……?」

「……」

 ココが笑顔のままフリーズする。それが全てを物語っていた。

「別に料理できるかどうかは関係ないだろ。レトルトを温めて鍋で保温しとけばいいんだから」

「甘い! 家で食えるものにわざわざ高い金払って食いにくるバカがどこにいる!? 出すからには今日しか食べられないっていう付加価値を存分に活かす料理を作らないと」

 無言で料理できない宣言をしたわりに難しい注文をつけてくるココを呆れたように見つめていると、彩乃がパン! と手を叩いた。

「それなら、これから家で料理を作りませんか? で、誰が一番美味しいか決めましょう。材料は私が買いますから」

「買うって……大丈夫なのか?」

「どうせ今日は買い物して帰るつもりでしたから。皆で簡単なもの一品作るくらいの材料なら買っても問題ないですよ。安心してください」

「おー! レナ料理作るよ! 美味しいの作れるよ! ルリも作るよ!」

「う、うん……自信ないけど……頑張る」

「それじゃあ早速買い物に行きましょう。家からなら近いスーパーがあるんです」

 方向性が決まったのが嬉しいのか彩乃はニコニコしながら先行して部室を出て、ココたちも後に続き将吾も習うように立ち上がった。

 と、

「あ、あの……将吾先輩……」

「ん?」

 瑠璃が背中から声をかけてきた。

「その、ほ、本当に彩乃先輩のお家にお邪魔しても……大丈夫なんですか?」

「ああ……そういえば今買い物して料理作ってたら家の人に迷惑かかるか」

「バッカ! 違うっつーの! おまえ、彩乃の家がどんな家なのか知らないのか?」

 ヴラッドが手をバタつかせていると、将吾もようやくそのことを思い出す。

 当人からそんな雰囲気を微塵も感じないから忘れていたが、彩乃の親はいわゆる組長と呼ばれる方で、その家ということは極道の家ということだ。

 頭の中で嫌な想像がフラッシュバックして顔が真っ青になっていく。

「ま、まあまあ、彩乃も普通に家に誘ってるわけだし全然問題ないんじゃないか? うん。き、気にし過ぎだって……」

「足が震えてなけりゃ、その説得でも気持ちが楽になるんだけどなぁ……」

 ヴラッドにため息を吐かれてこちらの気分も沈み出す。

それでも、ここに留まっているわけにはいかない。

「……行くか」

「……はい」

 将吾と瑠璃は重たい足を引きずるようにして先を行く三人の背中を追っていった。

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