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鹿羽高校 暴乱帝阿部  作者: 松雲
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3-10話

 鹿羽高校の文化祭は部活単位でも出店ができるが、それをやっているのは体育館を使用する演劇部や吹奏楽部がメインであり普通の部活が出店することはまずない。学年の違う生徒たちで何かをやるというのは想像以上に大変なことなのだ。

 唯一の救いは部活棟の方に調理実習室があり、料理店は部室棟メインとなるため集客が見込めることだ。

「さて……出し物、どうしましょうか」

 上質な皮のソファにボランティア部の面々は腰を下ろしながらうーん……と一斉に唸りだした。

 一部、例外を除いて。

「はいはい! レナに良い考えがあるよー!」

 こんな重い沈黙が流れてもレナは一切の空気を読まずに手を挙げてくれる。

「はい、レナちゃん」

「レナとお客さんが一対一で殴り合いするよ。それで、勝った方が賞金もらうよ!」

 レナは言いながらビュッ! と風を切る音が聞こえる正拳突きを放つ。将吾には突きだした拳が消えたように見えた。

「レナの実力を考えると公然としたカツアゲだよね」

「っていうか、そんな物騒な出し物に誰が来てくれるんだよ。色々と問題があるから却下な」

「言い案だったのによ……」

 レナは唇を突きだして俯いて足をバタつかせた。

 その様を見て、だみ声を響かせながら笑うパペット人形が一つ。とうか、ヴラッドだった。

「バカだなおまえら! もっと効率よく稼ぐ方法があるだろうが」

「……ものすごく不安だけど、一応聞こう」

 ヴラッドはそのだみ声に似合わず河合らしく両手で口を押さえて咳払いをすると背を逸らして話し始めた。

「あのな。こんだけ女がいて、怖いって評判の男がいるならやることは一つだろ」

「と、言うと?」

「まずな、来た客を女共で接客するんだよ。男の隣に座って、楽しくお喋りをする。で、いざ会計になると怖い男がジュース一杯三万円って書いてある領収書をだな……」

「ぼったくりバーじゃねえか!」

 将吾は言い終わる前にヴラッドを叩いていた。

「なんだよ! おめえのツラで出来ることなんか他にねえだろ! それとも着ぐるみでも着てみるか? それなら怖がられずに済むぜ」

「ヴラッド、それじゃあ将吾が領収書を出しても誰も怖がらないじゃないか」

「なんで引き続きぼったくるつもりなんだよ!? 彩乃もなんか言ってやれ!」

 将吾が彩乃の方を見ると、彩乃は真剣な表情で一点を見つめていた。

「ど、どうした? 血ぃ吐きそうなのか?」

「吐きませんよ。私だって年中吐血してるわけじゃないんですからね」

 いや、あの頻度は年中吐血してるだろ、と将吾は口を挟みそうになったが彩乃が続けて何かを喋りそうだったので黙ることにした。

「あのですね。さっきのヴラッドくんのアイデア、いいなあ、と思ったんですよ」

「ぼったくりバーが!?」

「そこじゃないですよ。着ぐるみ……仮装をいいなあって言ったんです」

「仮装……ですか?」

 怯えたような目つきで瑠璃は彩乃の顔を見つめた。

「ほら、私たち噂とはいえ怖がられてるじゃないですか。それを逆手にとって怖い格好をして脅かせば怖がられて人気も出るし、運が良ければこれをきっかけにクラスの人たちと仲良くできるかなって……」

「おお~……」

 将吾は感嘆の声をあげた。

 聞いて、頭の中で反芻すればするほど彩乃の意見は魅力的で上手くいきそうな気がしてくる。

「それなら、お化け屋敷か? 怖ければ怖いほど評判になるんじゃないか?」

「あ! いいですね! それでいきましょう」

「甘い!」

 盛り上がる二人に冷水をかけるようにココの声が熱を冷ましていく。

「な、なんだよ……なにが甘いんだよ」

「全部だよ。そもそも、お化け屋敷なんて基本的に暗い場所でやるんだから、それに加えて仮装して驚かしたら将吾じゃなくてもいいでしょ。仮に将吾の顔に気づいて怖がらせたら失神する人が出るよ」

「うぐ……」

 失礼極まりない言い分だが、前半は確かに同感だ。暗い場所で怖い格好をしていれば自分がやらなくてもたいがいの人は驚くにきまっている。

「それにほら、怖い噂が流れてるから怖がられてるだけで、それを知らない人からしたら女子はなかなかの綺麗どころだからね?」

 そう言ってココは彩乃やレナたちを抱きしめると自分の顔の近くにやって将吾を見つめた。

「噂も見た目も怖いのは将吾、君だけだ」

「ぐぐっ!」

 心に言葉のナイフがグサグサ突き刺さっていくが何一つ反論する余地がない。

 確かに性格や内包しているものはかなり癖のある面々ではあるが、噂を知らない相手に黙って接していれば四人とも十分男を魅了するだけの器量は備わっている。

 そして将吾は改めて自分は家柄や自らの素行ではなく、単純に見た目だけで他人に悪い噂を立てられている存在なのだと認識を改めた。

「じゃ、じゃあ……どうするんだよ」

 半死半生で将吾が訊ねると、ココはふむ、とあごに手を当てた。

「まあ、要するに将吾も私たちも見た目だけを活かしつつ、噂も払拭できるようなそんな店が良いんだよね」

「そんな都合の良い店があるか!」

「でも、それを考えることが今一番大事なことですよ。諦めずに考えましょう!」

 彩乃の言い分にも一理ある。ココのいった二つのことをクリア出来なければ、そもそも売上一位を獲得するなんてことは不可能だ。

 と、

「あ、あの……すみません。ちょっといいですか?」

 おずおずと手を挙げたのは、瑠璃だった。

「おー、ルリもアイデアがあるかよ?」

「は、はい……! あ、でででも……その前に、将吾先輩……一つ、約束してくれますか?」

「ん?」

「あの……私が今から提案することで……怒ったり乱暴したりしないって……約束できますか?」

 尻すぼみに小さくなる瑠璃の声は、将吾を少しだけ不安にさせた。

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