3-9話
「勝負……ですか?」
「そう、勝負。これから二週間後に文化祭があるよね? それの売り上げで一位を獲得すれば部活動は継続。それ以外の順位なら廃部。どうかな?」
ココが主導権を握り、話がどんどん進んでいくのを見守っていると瑠璃が将吾の袖を引っ張ってきた。
「あ、あの……文化祭って普通、秋とかにやるものじゃ……」
「うちは新入生のレクリエーションと三年生の受験の妨げにならないようにって理由で文化祭は夏休み前にやるんだよ」
将吾は手早く説明を終えると二人の動向を見守るべく視線を戻すと、
「私はそれで構いません」
銀子が了承し、
「私もそれでいいです」
彩乃もココの提案に乗った。
「それじゃあ、今日は解散でいいね? そろそろ教室戻らないと遅刻するよ?」
言われて時計を見るとホームルームの予鈴が鳴り始めた。
「そうですね。ちょうど結論も出ましたし、ここまでにしましょう。ボランティア部の健闘をお祈りします」
銀子は一礼して、さっさと生徒会室を後にした。
ドアが閉まる音と同時に、
「……むぁ……。……おはよ~」
レナが寝ぼけた目を擦りながら大あくびをかました。
「おまえは……」
呆れ半分、怒り半分で将吾は寝ぼけた目を擦っているレナを見つめる。何か言ってやりたかったが気疲れがすごくてうなだれることしかできなかった。
「こ、ココ先輩……投票で一位にならなきゃ廃部なんて……あんな約束して大丈夫なんですか?」
青ざめた表情で瑠璃が訊ねるが、
「まあ、なんとかなるんじゃない?」
あっけらかんとした様子でココが答えて瑠璃の顔の青色がさらに深くなっていく。
「そ、そんなぁ……! も、もし廃部になったら、きっと私はまた一人になって、い、今まで無視されてるだけだったけど、先輩と一緒にいて調子に乗ってると思われて……クラスの全員から袋叩きにされちゃいます!」
「まあまあ、そん時はオレ様が守ってやるよ」
「催涙スプレーでも使う? あげようか?」
「なんでそんなの持ってんだよ……」
将吾が眉根を寄せていると、ココはケラケラ笑ってみせた。
「まあ、冗談はおいといて。投票一位は方便だよ。仮に二位や三位になったとしても設立から数日でその実績は凄いものだし、おいそれとは廃部って言葉を口にはしづらいでしょ? そうなったら後は言葉のごり押しで廃部も謹慎もなんとかするよ」
「そ、そうですよね。……よかったですぅ」
瑠璃が涙目になりながらホッとため息をつくと、
「それじゃあダメです」
ピシャリと会話を遮ったのは彩乃だった。
彩乃は、まだ銀子と話していた時の硬い表情のままイスに座り続けていた。
「ココちゃんがなんとかするっていうのを信じてないわけじゃないけど、それじゃあダメです。銀子ちゃんを、キャン! と鳴かせないと気が済みません」
「おいおい。なにもそこまでムキにならなくても……」
「将吾くんは悔しくなかったんですか? 私は、憤死しそうです。怒りを電力に換えられるなら学校のトイレの電気を二ヶ月は照らせそうです」
凄さのレベルは分からないが険しい表情の彩乃を見ればとりあえず怒っているのが本当だというくらいは将吾にも理解できる。
(ああ、そうか)
将吾はそこでようやく理解する。
この部活は彩乃の心そのものなのだ。
誤解されて、それを必死になって解消しようとする。この部活はそのために作られたのだ。それを廃部にするということは銀子にその意図はなくとも一生誤解されたままでいろと言われるに等しいことだ。だから、彩乃はここまで怒っているのだ。
「まあまあ、そんなに怒っても一文にもならないんだから、そのへんでクールダウンしなよ」
ココにポンと肩を叩かれて彩乃は深く息を吐いた。
「ごめんなさい……私一人のことだったら諦めもついたかもしれませんけど、みんなにも影響が出ると思ったら、頭に血が上っちゃって」
その言葉に将吾はココと顔を見合わせて、二人揃って大笑いを始めた。
まさか自分たちのことまで考えて怒っているとは思っていなかったのだ。
彩乃は笑う二人を見て気恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら抗議した。
「な、なんで笑うんですか! 別に変なこと言ってないですよね?」
「ごめんごめん、彩乃が部長で良かったと思ったら笑いが止まらなくなっちゃった」
ココは指で目のはしに溜まった涙を拭き取ると、ホームルームのチャイムが鳴り出した。
「そ、そろそろ教室にいかないと先生が来ちゃいます……。遅れたら、また何か言われるかも、です」
「おお! じゃあ、急がないとマズいよー!」
「それじゃあ文化祭の話は放課後ということで、ひとまず解散」
彩乃が部長らしくその場を締めると、レナが一目散に飛び出し、後を追うようにして瑠璃が駆けだした。
「若い子は元気だねぇ。それじゃあお二人さん、後でね」
ジジ臭いことを言いながらココはいつもの笑顔を貼り付けて部屋を出ていく。
「俺たちも行くか」
「ですね」
将吾に続いて彩乃も席を立ち、二人並んで早足で教室に向かう。
「文化祭、がんばりましょうね」
「ああ、絶対に一位を取るぞ。……」
そこまで言って将吾は言葉を飲む。
「……なんか言いよどみませんでしたか?」
「なんでもない」
「ホントですか? 顔が赤いですよ?」
「なんでもないって!」
彩乃はくりくりした目で将吾の顔を見上げ、将吾は顔を逸らして歩く速度を速めた。
自分たちのために怒ってくれた彩乃の気持ちを無駄にしない。
そんな言葉が浮かんだのだが、恥ずかしくなって言葉が喉に引っかかったのだ。
改めて言うには色々と恥ずかしい台詞だ。
「なにか隠してますね?」
「だから本当になんでもないんだって!」
「気になって血を吐くかもしれませんよ?」
「なんだよその脅し文句!?」
将吾は長身を活かした大股の早足で教室まで急ぐ。
その間も背中から彩乃の追撃は止まらなかったが、将吾は真っ赤になっていく顔で振り向くことも出来ず、そのまま別れるまで背中からの呼びかけにジッと耐えることになった。




