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鹿羽高校 暴乱帝阿部  作者: 松雲
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3-1話

 ボランティア部の初日は清掃(彩乃の血も含む)で丸々潰れてしまい、実質的な活動は次の日ということになった。

 放課後が来るまでの間、将吾はとにかく憂鬱だった。

「なあ、九頭竜がボランティア部を作ったって話本当か?」

「違ぇよ、暴乱帝亜部だよ」

「それ何する部活だ?」

「知らねえよ。でも、すでに問題児になってる一年を何人もスカウトしてるって話だ。……いよいよ本格的にこの学校を牛耳るつもりなんじゃねえか……」

 話し声がでかいのか、それとも将吾の耳が地獄耳なのかは分からないが、ともかく話が聞こえてくるのは事実だし、問題児を集めているのも事実ではある。

 帰りのホームルームまでそんな噂を延々と耳に入れていれば誰だって憂鬱にはなる。ただでさえ鋭い目つきが表情を暗くすることでいっそう鋭さを増していた。

 ホームルームが終わり、将吾は誰よりも早く教室から出ると、

「それじゃあ行きましょう?」

 当たり前のように教室のように待っている彩乃が出迎えてくれた。

「ココは?」

「ココちゃんのクラスはホームルーム終わるの早いですから、もう部室にいますよ」

「羨ましい話だな。俺もさっさとホームルーム終わって欲しいよ。ずっと噂が聞こえてきて針のむしろだ」

「私もほとんど同じです」

 彩乃は笑顔で返してくる。――見れば口の端に血の跡がついていた。

「……お前も大変だな」

「お互い様ですよ」

 そんな雑談をしながら将吾と彩乃は部室前までたどり着くと、なにやら中からレナの楽しそうな騒ぎ声が聞こえる。

「なんだ?」

 将吾が怪訝な顔をしてドアを開けて、すぐに閉めた。

 しばらくレナの騒ぐ声を聞きながら、隣で同じように固まっている彩乃を見た。

「……見たか?」

「はい……。で、でも部室はここであってますよ?」

「だよな……」

 将吾はもう一度確認するように今度はゆっくりとドアを開けた。

 将吾と彩乃が不思議に思うのも無理はない。

 部室は、あまりにも昨日と様変わりしすぎていた。

 床には柔らかそうなワインレッドの絨毯。乱雑に並んでいた机とイスは綺麗さっぱり無くなっており、代わりに置いてあるのは黒皮の個人ソファが五つ、アンティーク調のローテーブルを挟んで向かい合っていた。

 そのソファの一つでレナはきゃっきゃっ言いながら跳ね回っている。

「なんだこりゃ……」

 将吾はそう言うので精一杯だった。

 二人が呆然としていると、当たり前のようにソファにもたれて読書をしていたココがこちらに気づき、本をテーブルに置いてやってきた。

「やあ、それじゃあボランティア部本格始動ってことでいいね?」

「待て待て待て! この部屋の代わりようはなんだ? 誰がこんなこと……」

「もちろん私だよ」

 なんてことないようにココが言った。

「どうせ使うならさ、過ごしやすいようにしようと思って。あ、ちなみにここにあるの全部うちの商品だから」

 そう言ってココはソファに歩み寄ると、真新しいタグに書かれたブラッドウォーターランジェリーの文字を見せた。

「下着で上手くいったから、今度は家具に手を伸ばすって言ってるんだ。で、ここにあるのはその試作品。使用感とかのアンケートを書くって条件とタグでアピールさせることを条件にタダで譲ってもらった。あ、校長にはすでに許可をもらってるから心配しないで」

 まくし立てられるようにココは説明を終わらせた。二人の中にあるのはココが本物の金持ちなんだな。という衝撃だけが残った。

「おお! ショーゴ! このソファすっごいフカフカだよ!」

「こんな良いものに腰掛けてたら、そのうち何か悪いことが起こるかも……はうぅぅ……」

 瑠璃はソファで体育座りしながらぶつぶつと何かを呟いている。だがソファから下りないところを見ると気に入ってはいるようだ。

「ま、まあ……せっかくココちゃんが用意してくれたんですから使わないわけにはいきませんよね」

「お、おう……そうだな」

 将吾と彩乃は互いを納得させあうように頷いた。

「それじゃあ、今日は何をするのかな?」

 ココが訊ねてくる。

「今日はですね、校外清掃をしようと思います」

 彩乃は答える。

「校外で私たちが自発的に掃除している姿を見れば、周りの評価も少しは変わると思うんです」

「なるほど、いいんじゃないかな。私はそれでいいよ、将吾はどう思う?」

「そうだな……」

 将吾はポケットからタロットカードを一枚出した。

 戦車のカードだった。反射的に渋い顔になる。

「……今日は別のことをした方がいいかもな」

「どうしてですか?」

「今日は思わぬトラブルとか、突発的な失敗が起きるって出てるんだよ。今日、外で何かをやるのは気が進まないな」

「ショーゴの占いはどれくらい当たるよ?」

 三人の会話にレナが入り、後ろから遅れて瑠璃も続いてきた。

「まあ、占いだから当たり外れはあるけど……三割ってところか?」

 将吾は頼りなさげに答えた。そもそも悪いことが起きたときは絶対になにもしていないし、良いことが起きると出た時も何も起きないなどということは珍しくない。三割というのはあくまでも感覚的なものだ。

 それを聞いたヴラッドが大笑いを始める。

「ギャハハハハ! 確率三割の占いに振り回されてたら人生まともに生きていけねえっつーの! そうそう悪いことなんて起きるかよ!」

「だ、ダメだよヴラッド……今日はその三割が当たるかもしれないのに……」

「今日はその三割が当たらない日かもしれないだろ! 何が起きるか分からない人生で先のことウジウジ悩んでどーすんだよ! とにかく行動あるのみだ!」

「ふえええええ……」

 ヴラッドは両手で瑠璃の頬を引っ張り、瑠璃は情けない声を上げて泣きそうになっている。泣くくらいならやめればいいのにと将吾は思ったが、その思考もレナの説得で途切れることになる。

「そーだよ! ひょっとしたら良いことがあるかもしれないよ!」

「まあ……戦車のカードは悪い意味ばっかりじゃないからな……」

 将吾は不安そうに戦車のカードを見つめると、ふぅ、と息を吐いてそれをポケットに戻した。

「かなり気は進まないけど、今は悩むより行動ってのは正しいかもな。校外清掃、やってみるか」

 将吾の言葉に彩乃は目をキラキラさせて笑みを浮かべた。

「それじゃあ、さっそく準備しましょう。先生に言えば掃除道具も一式借りられるはずですから」

「おー! レッツゴーだよー!」

「お、置いていかないでください~!」

 彩乃に続いてレナと瑠璃が早足で部室を出ていく。

 将吾はココに肩を叩かれて振り返った。

「まだ不安って顔をしてるね」

「まあな。俺にとってジンクスってのは絶対なんだよ」

 将吾は言いながら右目の大きな傷を指で撫でる。

「でも、俺のジンクスで周りまで巻き込むわけにはいかないだろ。俺にだけ不運が来ても、他の連中には幸運が訪れるかもだしな」

「なるほど……それじゃあ、行こうか。誰が不幸になるかを検証しに」

「校外清掃だろ!?」

 アハハ、と笑いながらココは彩乃たちを追いかけるために歩き出す。将吾は眉をしかめながらそれに続いた。

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