後編です。
はい? 「ざまぁ」ですか? 知らない子ですね(眼鏡くいっ)
彼氏を抱えて王国の王都まで飛んで戻ってきました。
大通りに無事、着地します。
「あっ、アレだ!」
「今日もやるのかな?」
「いいや、もうやった後だってよ」
「なんだ残念。でも、もうやらないってこともないだろ」
ひそひそと声が聴こえます。
さっと見ると、さっと顔を逸らされるのですが。
人垣も、なんだか遠巻きにできています。
「それにしても今日の――」
「ああ……あれは」
やっぱり、ひそひそと噂されているみたいです。
しゅんと尻尾を下げてしまいます。
やはり私が魔人族……魔物だから歓迎されていないのでしょうか?
数多の魔物を率いる魔王――父上が治める魔国と、人間の各国が講和条約を結んでから、はや半世紀。
かつての血で血を洗った時代は遠い過去となりました。
特に魔人族と人間とでは、種の融和も進んでいます。
魔国でも人間とのハーフやクォーターを見かけるようになってきました。
なかには魔人族じゃない魔族に求婚する人間もいましたね。うちの国では合法です。
ともあれ、そうした潮流に乗った王家同士の婚姻……予定。
祝福されるはずだったのです。
本当は小さなころの口約束でした。初恋でした。
でも成人を控えて、正式に王家を通じて申し込みが来たのです。
ふたつ返事で受けました。
なのに! 障害が! 次々と!!
父上――魔王が面白がって、我が娘ならば約束で縛るより己の魅力で勝ち取れ奪い取れとか!!!
彼氏――王子に色仕掛けをする者がいても無罪むしろ推奨、とか抜かしやがって!!!
あのバトルジャンキー外見詐欺ショタが!!
娘の縁談にちょっかい出してる暇があるなら、己の後添えでも探してろ!!
しかも彼氏の父王までが意気投合して、それを人間側にも適応、なんて決めおって!!!
おかげで婚約が有名無実です……。
でも負けません。私は決して屈しませんよ……?
あと半年。
結婚までの期日、彼氏の貞操は――この私が守り抜く。
人間にも、魔人族にも、断じてヤらせはしない!
と固い決心をして、尻尾を立てました。
でも……目に入った人々、特に若い女性を見ると、ため息をついてしまいそうです。
可愛らしく、華奢で、色とりどりの薄衣を着て……。
はい、羨ましいです。
どうしても私では鱗が引っかかってしまいますから。布地を厳選しないといけないんですよね。
それに既製服じゃサイズがないですし。採寸してオーダーメイドになっちゃいます。
なにより翼と尻尾が収まるデザインじゃないと、着れもしないんですよ!
服屋さんの飾り窓を見て、これ買っちゃおう、とか無理なんですよね……。
あ、誤解しないでくださいね?
私はちゃんと自分の鱗に誇りを持っています!
今日だってデートに向けて全身キラキラに磨いてたんですから。無駄にならなくてよかったです。
それにしても……ひらひらの服、可愛いなあ。
私のこの普段着――胸当てと腰布なんて、無骨な軽鎧ですもんね。
被っている面積は小さいですけど、物理と魔法の両ダメージを軽減してくれるんです。
でも、あの破廉恥な女勇者みたいに腕に抱きついても、固くて痛いだけでしょうね。
武具としては最高級なんですけど。
人間の国ではまだまだ一般には出回らない逸品ですよ。
……そのせいでしょうか?
先ほどから妙に胸やら腰やらに視線を感じるのは。
首を傾げていたら、急に彼氏に手を引っぱられました。
どんどん歩いていきます。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね、人目のないところに」
「まあ」
積極的……と思いかけましたが、服装が釣り合わないから恥ずかしいということでしょうか?
彼氏は女勇者への接待のためか、ぱりっとした礼装ですから。
そういえば先ほども、恥じらいがどうとか言ってましたね……。
尻尾を下げてとぼとぼ着いていきますと、路地裏に入りました。
いきなり喉をちょんと突かれました。
「ひゃん!」
ひとの弱点を攻撃するとは、もしかして怒ってますか?
「ごめんね。でも、君がそんな格好で来るから」
「っ、そ、そんなに恥ずかしいですか?」
「まあ、その……ちょっと待ってて。なにか羽織るものを調達してくるから」
彼氏は言葉を濁して去ってしまいました。
どんよりとしゃがみ込みます。尻尾の先で地面にのの字を書きます。
どうして普段着で来てしまったんでしょうか……。
でも、だって、いつもの豪華絢爛な全身鎧じゃ堅苦しいじゃないですか……。
デートというよりも合戦を臨む戦装束じゃないですか……。
いえ、ある意味デートも真剣勝負の場ですけど。
戻ってきた彼氏はマントを手にしていました。
肩にかけてくれます。
「ふぅっ。これで安心だよ」
「ごめんなさい……貴方に恥をかかせてしまって……」
「えっ? うわっ、待って待って! 泣かないで!?」
「だって! 私がこんな見すぼらしい格好をして来たから……!」
「あれぇっ? なんだか誤解が生じてる気がするなぁ!?」
焦った彼氏がいろいろと説明してくれました。
女性はあまり肌を出さないのが人間の風習なのだそうです。
確かに布地は多めですね。単にひらひらの布が可愛いから、いっぱい使ってるだけかと思ってました。
私たちの種族では鱗の色艶も美醜基準のひとつです。
それに魔物自体が、鍛えた肉体を披露することを全般に好みます。
だから、むしろ競うように全身を露出するものなのです。
「分かってもらえてよかったよ」
「うう……やっぱり本で読んだだけじゃ難しいですね。そんな……はしたない真似をしていたなんて」
不覚です。ショックです。カルチャーショックです。
両翼を垂れてしまいます。
「気にしなくていいよ。ただ、あの、やっぱり僕以外には見せて欲しくないかなって」
「!」
つまり見せまいとしていたのは……独占欲!
つい飛びついてしまいました。
「大好きです!」
ぎゅっと抱き締めます。
昔は加減が難かしくて、よく「ギブギブロープ!」とか言われましたけどね。
今は完璧だと思います!
と、なぜかペチペチと腕を叩かれました。
離れてのサインですね。おかしいですね?
「ぷはぁっ」
「どうしたんですか?」
「息、息できないから!?」
――猛省です。
仕切り直しでデートを開始しました。
大通りの屋台を冷やかしながら歩いていました。
買ってもらった肉饅頭がうまうまです。
ちなみに魔国が人間の国と講和条約を結んだ理由は、美味しいものを輸入したかったからです。
生活を向上させる工夫や嗜好品に関して、本当に図抜けてるんですよね、人間って。
「時々不思議に思うんだけどさ」
「なんですか?」
「あ、待ってね」
汚れた口許を手巾で拭われてしまいました。
またやってしまった!
いつになったら、お淑やかな令嬢になれるのでしょうか。
「いや、君に僕の魅了が効いてないってことがだよ」
「そうですか?」
私には生まれつき魅了キャンセラの異能があります。
だから彼氏の魅了は無効化されています。
この異能はノーマルレア程度なので、そこまで珍しくはないです。
総合、もしくは複合の状態異常キャンセラなら、もっとレアリティが高いんですけどね。
私のは魅了限定ですし。
「僕のどこを好きになってくれたのかなって」
「あら、嫌ですね。そんなこと――」
言いかけて首を傾げました。
「そういえば、どこかしら?」
「えっ」
「外見はぜんぜん好みじゃないですし?」
「そうなの!?」
「だって鱗もないし、角もないし、翼も尻尾もないし、ブレスも吐けないし、いっしょに飛べないし」
「そりゃ……人間だもの……」
ショックを受けて、しょぼんとする彼氏です。
思わずくすくす笑いました。
「きっと特別な理由なんて、いらないんです」
「え?」
「貴方と一緒にいると自然体でいられます。普通の女の子でいられるんです。楽しいです。ずっと一緒にいられたらなって思います」
「そ、そうか……」
見下ろせば、彼氏の首筋が真っ赤になっていました。
もしかして不安だったりしたんでしょうか?
初めて出会った小さいときのことを思い出しました。
お前もどうせ異能や地位が目当てなんだろう、誰も本当の僕なんて見てないし、どうだっていいんだって不貞腐れてました。
つい、己惚れるでないわ貴様の異能なんぞ通じとらんし、人間の王族風情が意気がるなボケがっ、と怒鳴りましたっけ。
そこから喧嘩したり仲直りしたり。
お淑やかな女性が好きというから努力したり……まだまだ勉強不足ですし、たまに地が出てしまいますけれど。
十年くらいの付き合いなんですね、もう。
ぎゅっと腕を組みました。
「大丈夫ですよ! 魅了なんてなくても、貴方のこと大好きですから!」
「ありがとう……うん、あの」
言いにくそうに彼氏がこちらを見ました。
「そうされると腕が痛いかな……」
「――――天っ誅!!!」
すっぱあああああああん!!
本日二度目。
王都の上空には名物、王子の打ち上げが華麗に決まり、なぜか拍手が沸き起こったのでした。
おわり。
主人公の普段着は要するにビキニアーマー(超ミニスカタイプ)。
翼と尻尾を出すためだからね、仕方ないね。
次回、おまけ付けたら終了。




