リベルのおねだり術
「ねえタツお兄ちゃん。私、甘いものが食べたいです」
お兄ちゃん。とてもいい響きだ。俺が調子に乗って言わせてみた所、ものすごいブーメランになって帰ってきた。可愛すぎて鼻血が出そう。これはもう核兵器レベルの言霊だな。そんなことを思ったりしていた。
「んーやっぱりリベルは可愛すぎる。お兄ちゃんなんて言われたら何でもしたくなるね」
「変態ですね。私もそれくらいがちょうどいいとは思っていたいましたけど」
「まぁそう言われるとショックだけど、リベルが可愛いのが悪いんだし、許そう」
「ほ、褒めても何も出ないんだからね!」
ツンデレまで完備しているなんて何というヒロインなのか。確信犯な辺りこいつはできる少女である。まぁそんなわけでDP溜まり待ちな訳ですよ。神への復讐なんてめんどくさいことわやらないといけなくなった訳だけど、リベルのためなら何でもできる気がしてくる。これぞ愛情が成せる奇跡だな。
「ほい、お菓子だ。DPの無駄遣いだからあんまり食べてほしくないんだけどな」
「お兄ちゃんの世界の食べ物が美味しすぎるんだよ」
リベルがパクパクと口にしているのはチョコレートだ。メニューを開いて見ているとTHEEARTHshopなる項目があり、そこにはDPを消費する事で様々なものと交換できる。つまり、地球にあるものがDPで買えるのである。そこまで万能だと引いてしまうがあるのであれば使うまでと思い、チョコレートを買ったのが運の尽き。リベルがいたく気に入ってしまったのだ。そのせいで毎日、チョコレートをねだる始末。お兄ちゃんなんていうブーメランを仕込んでしまったせいで自制させることもできずにそのままチョコレートをDPを消費してあげているのだ。全くもって悪いお兄ちゃんである。
「ふふん~♪」
「いや、お前自分がどれだけ可愛いのか自覚してないだろ」
なまじ育てば好みのタイプになるだけあってその笑みは俺とって爆弾だ。頭を撫でたくなるし、抱きついてしまいたくなる。天然俺殺害兵器リベルなどという物騒な名前になってしまっている。本当に可愛いのだから手のつけようがない。俺は嬉しそうにチョコレートを口に含むリベルを抱き寄せて頭を撫でる。DPを消費して服を着せてあげるとこれまた化けたのだ。今は白いワンピースを着せている。綺麗な黒い髪が栄えるそんな服だ。
「私に惚れるなんて百年はやいですよ」
「うーん。一旦獣欲の赴くままにやってみたら大人しくなるかな?」
「………………ごめんなさい」
まぁ冗談なんだけど。流石にそこまで腐ってはいない。リベルは俺の眷属になった。真の家族になったのだ。その眷属を裏切るような真似はしたくないし、しない。恋人同士になったならばまた別な話にはなってくると思うが。
しょんぼりとしながらもチョコレートを食べるのを止めないリベルの頭を少し強めに撫でてやる。
「冗談だ。リベルは俺の眷属だからな。そんなことはしないさ」
「赤の他人ならするという風にも聞こえるのですが」
「……………………」
うん。痛いところをつかれたなこれは。俺だって男だからね。それくらいのことは考えても罰は当たらないと思うんだ。男なんて全裸の女が目の前にいたら野に放たれた狼と同じ。襲いかからずにはいられないはずだ。個人差はあれど、男なんてそんなものだ。醜い生き物だ。まぁそこまであっけらかんに思ってる訳ではないが。
「まぁあれだよリベル。俺も男だからな。その、あれだよ。そういうお年頃なんだ俺も」
「なるほど。つまりは早く魔法使いから脱出したいと」
「そんな用語この世界にあったのか?」
「いえ、神に与えられた知識の中にありましたよ」
「…………………」
神は随分とおふざけが好きらしい。純真無垢なる少女リベルになんてことを教えるなんて。まぁお兄ちゃんなんていうあざとい技を躊躇なく使う少女に純真無垢なんて言葉は果てはまらないはずだけどな。だよな?
「リベル、俺は神をたこ殴りにする事に決めた」
「え、はい。そうですか」
「というお遊びはおいとして。まだ食べる気なのか?」
先ほどから俺の体にすり寄って頬をスリスリしているあざとい技を使うようになって可愛さレベルが増したせいで手が付けられないのは本当に致命的だな。何でもお願いを聞いてしまう。
「お兄ちゃん、ダメ?」
俺は一瞬で決めた。そんなうるうるとした目で見られたら断れない。俺はチョコレートを買うことにした。ダメな兄貴のテンプレートがここに現れた。いや、だってこいつめっちゃおねだりが上手なんだよ。
身も蓋もないことは分かっているがそう思わずにはいられなかった。