安全性
男は友人が車を廃棄しようとしているのを見かけた。
「おい止めろ、何をやっているんだ」
男が止めたのは無理もない。
友人のその車は、買ってからまだ一年も経っていない上に、本人がとても大事にしていたはずのものだったからだ。
友人は男に車を捨てようとした理由を尋ねた。
「この車は、安全じゃないから捨てるんだ」
そんなはずはないと男は思った。
その車は安全性も信頼性も高いと評判で、ついこの前も、男を乗せて元気に走ってみせたのだ。
どうせ捨てるのならと男は友人に頼み込んで、車を譲り受けることにした。
男が車を友人宅から持ち出してから間もなくのこと。
車が行く道路にいる通行人の一人が車を指さした。
「あれを見ろ! ○○の車だ」
通行人は、親の仇を見るような目で車を見ています。
「本当だ。○○の自動車だ」
「あれは、○○の自動車じゃないか」
最初の通行人に伝播して、周りの通行人も同様の反応を示しました。
そして、男の車を取り囲むとこのような言葉を口々にしました。
「○○が憎い」「○○の作った物は許さない」「○○の物は全て壊せ」
囲んだ人達によって、あっという間に車も男もボロボロにされました。
朦朧とする意識の中で、男は「ああ、この事か……」と友人の行動の意味を理解した。