アルケイナ(ソロ)vs灯華の魔王
───灯華の玉間───
「魔王、倒しに来た」
「歓迎しませんのでお帰り下さいませ」
私は豪奢な扉を開け放つなり言ってきた者に対して一言、遠回しな表現を一切合切使わずに非歓迎的な言葉を取った。
「じゃ、帰る」
「ええ、ではさようなら」
「……」
「……」
「嘘。倒しに来た」
「ちっ」
一度方向転換しておきながらくるりと方向を戻す不埒者に、私は思わず舌打ちしてしまった。お嬢様思考の私としては少々頂けない仕草だったかもしれない。
「私は匿名希望のアルケイナ。あなたに挑みに来てみた」
「私は匿名希望の魔王……」
「匿名希望の意味あるのそれ?」
「ないですわね」
だってアルケイナの名乗りに沿ってみたかっただけだから。
一瞬無言になってから私は名乗り直す。
「私は灯華の魔王。名の通り灯火のような儚い華です。争いごとは基本好みませんが、あなたの目的によってはその挑戦受けて立ちましょう───」
私はゆっくりと玉座から立ち上がる。アルケイナは一歩踏み出した。
かつん、かつんとアルケイナのヒールが大理石の床を鳴らす。
「私の目的はただ一つ。我が主の名により、灯華の玉座に添えられている華を摘むこと。そのためだけにここへ来た」
自信満々で言うアルケイナは確かに装備もしっかりとしていて、魔王たる私を倒すために揃えた事が伺える。しかしそれに見合う力量が備わっているのかどうかは、見た目だけでは分からない。
「まあ、私を倒せるならいいのですが。その挑戦受けて立ちましょう。ただし、死ぬのはごめん被りたいので、あるシステムを導入したいと思います」
アルケイナは首を傾げた。
「バトルシステム起動っ!」
私が声高らかに叫ぶと、部屋全体が震えて左右の壁に一つずつモニターが出現した。
「なにこれ」
「魔王たる私が同胞の知識を搾取……もとい活用して作ったものです。それぞれ仮の命としてHPと書かれている数値がありますが、0になったら負けです」
言い切ると、アルケイナは訝った様子で尋ねてくる。
「そんなのイカサマし放題」
心外な、と頬を膨らませてみる。
「私に勝っていった人もいらっしゃいますよ」
「それなら何故あなたは生きてる」
「その人たちは皆一様に変な要求を突きつけてきたんです。ウサギ耳つけろとかメイド服着ろとかえとせとらえとせとら」
ちょっとうんざりしたように私は言った。まあ、過去のことは置いといて。
「この勝負乗りますか?」
にやりと笑って聞いてみると、アルケイナは静かに肯いた。
───戦闘開始───
アルケイナ(以下ア)「行く。火焔弾!」
魔王(以下魔)「むっ」
炎の玉が魔王を包んで、燃え上がった。
【魔王のHP→90/100】
魔「危ないですね」
ア「そんな、外したっ?」
魔「いいえ、当たっておりました。それでは今度はこちらから。召還骨騎士」
ア「むっ……!」
何もない空間からカラカラと軽い音を立てて、白い全身骨格が剣を構えて現れた。アルケイナめがけて突進する。
【アルケイナのHP→94/100】
魔「あら、あまりダメージ受けて無いじゃないですか」
ア「なんとか。次。雷光線!」
電気がアルケイナの持つ樫の杖の先端に集まり一直線に伸びると、骨騎士を巻き込んで魔王を貫いた。
【魔王のHP→66/100 付加→麻痺】
魔「これは少し痛かったです。ていうか痺れました。召還天使の賛美歌」
白く丸い発光体が出現し、鈴のような音を響かせた。
【魔王→66/100】
ア「魔王のくせに天使の召還……」
魔「そんな小さいことを気にしたら世界が滅びますわ」
ア「魔王にだけは言われたくない」
魔「あらそう。召還死鼠」
腐敗した肉を持つネズミが出現する。ネズミは腐った牛乳くたびれた雑巾を混じった腐臭をまき散らしながら、アルケイナに噛みつきにかかる。
【アルケイナHP→76/100】
ア「グロい……」
魔「ふふ。潔く攻撃を受けるとは感心しましたわ」
ア「違う。どの程度の攻撃でどれくらい数値が減るか試しただけ。あなたの召還する獣程度恐るるに足らず。次で決める」
アルケイナが杖を地面に垂直に構えた。今までの小技とはうってかわって、詠唱を開始する。
ア「───混沌の闇夜に灯る
静かで冷たく青い太陽
彼の深淵にたゆたう汝は
いずこの闇を照らすのか───」
杖を中心に青く発光する魔法陣が構築され、集束し杖の先端へと移動する。
ア「混沌炎」
紫色の嫌な色をした炎がアルケイナの樫の杖の先端に出現し、膨らむ。両手を広げたほどの大きさになると、ぱっと消えた。
魔「……?」
どこに炎が行ったか身体をじわりじわりと動かして魔王は辺りを見渡す。突然、炎が彼女の影から出現した。
【魔王のHP→2/100】
魔「くぅ……痛いですわ……」
ア「む。ちょっとした大技なのに。防御された?」
魔「防御は間に合いませんでした。この魔法、炎属性だけでなく闇属性も混じっているようですから少しだけ私に有利でした。でも残りHPに余裕がありませんわ。仕方ありません、終わらせましょう」
魔王は右手を床に水平になるようにして突き出して、此方も呪文詠唱をする。
魔「───最強にして最凶たる異界の王
契約の元我が前にひれ伏せば
汝のその秘めたる力で
存分に世界を滅ぼさん───」
魔王が右手を振り上げる。
魔「いでよ異界の魔王、六魂幡!」
右手に惹かれるように暗い闇が形なく顕れる。それはうようよと形なく空中を漂った。
ア「……魔王が魔王を召還?」
魔「いいじゃないですか。魔王仲間ということでお友達の力を借りる、みたいな?」
ア「友達感覚……」
魔「甘く見てると痛い目を見ますわよ。重力之傘!」
六魂幡がアルケイナの頭上にゆらゆらと移動した。そして莫大な重力をアルケイナに一息にかけた。
【アルケイナHP→66/100】
【アルケイナHP→56/100】
【アルケイナHP→46/100】
ア「……ぅ!」
魔「じわじわとつぶされていく感覚はいかが?」
ア「身動き……とれない……!」
【アルケイナHP→36/100】
【アルケイナHP→26/100】
【アルケイナHP→16/100】
魔「ホホホ。これで私が勝ったのも同然ですね」
ア「あっ……」
【アルケイナHP→6/100】
【アルケイナHP→0/100】
───戦闘終了───
私は膝を突いた。まさか、まさかこの私が負けるとは───
「さあ、私が勝ちました。あなたが勝ったら私を好きなようにできるのでしたから、その逆もありですわよね?」
魔王の微笑みは私に更なる屈辱感を与える。しかし約束を違えるわけにはいかない。そんな悪魔のような所行、魔王だけで充分だ。あ、魔王も悪魔の一種か。
「何を命令しましょうか……」
魔王が何やら思案しながら私に近づいてくる。ここにきて私にハメられたという考えが浮かんだが時すでに遅し。私は敗北をしてしまったことに変わりはないのだ。
「……そっちが死にたくないと言ったのだからその逆もあり」
「分かってます」
魔王が目の前に来る。そしてにこりと微笑む。
「決めましたわ。私に人間のお菓子を作った後で帰りなさい」
「……は?」
「人間界のスイーツを征服してみましょう!」
「……え」
「ささ、厨房は此方です。材料はありますから、あなたの知っている限りのスイーツをこちらで再現して下さいな」
魔王がるん♪とした表情で私の手を引いて立ち上がらせた。
かくして灯華の魔王はアルケイナに勝利した。
この灯華の魔王を真に倒せる勇者は、はたして現れるのだろうか……
───続くかもしんない