人脳搭載対人兵器シン
いつだが活動報告に書いていたのを投稿。
でもなぜだかぶっこんだ先はファンタジー世界。
森の奥深く、そこには鋼鉄でできた館がある。そこには1匹の竜と人を掛け合わせたようなモノがおり、近くを通りかかった生き物を無差別に襲って殺している。
彼の者は視認できない速さの物を撃ち出し、時には炎を噴出する。その咆哮は至近距離で聞けば絶命する音量を持ち、足を使わずに移動する。目と思しきモノが幾つもあって、そもそも生き物かすら怪しい。
ソレを魔力によって命令通りに動く土人形と言う者もあれば、特殊な竜だとも言う者もいる。ナニカについての意見は個人個人によって異なるが、1つだけ一致していることがあった。
そいつを倒せば、かなりの富が得られる。その一点だけは知っている者の共通認識であった。
ゴーレムであれば、構築されている術式を知ることができればそれだけでも金にできる。例え理解できなくとも、命令によって護っているのだから、鋼鉄の館にナニカがある。
竜であれば、溜め込んでいる物があるはずだ。その溜め込んでいるのは、十中八九で金銀財宝。
その富を求めて、毎日はではなくともかなりの頻度で鋼鉄の館に冒険者は挑んでは散っていった。
――――――
人脳搭載型対人兵器シン。それが鋼鉄の館に住まう者の正体である。
3メートルはある巨体。
ホバー移動による高い機動力。
空想上の生き物であるドラゴンをモチーフにしたボディ。
対人兵器を幾つも内蔵し、銃などの現行の携行火器を同時に使用可能な3対のアーム。
頭部にある全方位をカバーできる固定型カメラ。
最も目を引くのは、人を圧殺も出来れば斬殺も出来れる格闘用アーム。
最大の特徴は、人脳に機械を組み込んだ事によって可能となった情報の即時読み込みと削除。果ては、常時データの送受信によるリアルタイムでの情報更新すらも可能としている点だ。人と機械の融合によって、理論上は最高の兵器である。
『人間に対して一騎当千』をコンセプトに作られたソレは、そのコンセプト通りの戦果をあげていた。ただし、本来とはまったく違った環境で、との注訳が必要だか。
神の気まぐれか、それとも誰かの悪意かは判らないがシンはどこかに飛ばされてしまっていた。どうして転移したのかは、転移したと思しき時間に瞬間的に高エネルギーが発生したとしかデータがないので転移したという結果以外は手掛かりは無い。
幸いにもまだ実験段階ではあるが、シン専用のメンテナンスベースも一緒に飛ばされていた。
正式名称、移動型シン支援拠点グリード。AIに管理させた名前通りのシン専用の支援拠点であるが、その支援の範疇は広い。
シン自体のメンテナンスは勿論、携行火器のメンテナンスを始めとし、休息場所、修理、AIによる心理ケア、脳に送る栄養補給剤の作成、弾丸と武器の作成、作戦の確認、友軍との通信と多岐に渡る。理論上は、シンとグリードがあれば永遠と戦える。
しかしその反面、実験段階とあって移動型と銘打ってあるが肝心の移動能力は無い。その理由は、まずあれば便利だろうという機能を付け、そこから不必要な機能は削り取って軽量化を図りつつ、移動手段を試行錯誤していく予定だったからである。
現在のグリードは、基地に置いてあるシン専用のメンテナンススペースと工場をとりあえず一纏めにしただけの物である。それでも、コンセプトである『1つでシンの完全支援』をこなせるので本末転倒にはなっていない。ただし、『敵地での単騎による長期稼働を可能する』という戦略目的は完全にこなせない。
とは言え、シンにとっては生命線であり、グリード無くしては行動に制限どころか何もできなくなるので死守しなければならなかった。いつか帰れる、そう信じて……
――――――
「荒れていますね。素手での殲滅とは言え、血塗れになるような方法は避けるべきかと。
洗浄に使う水もタダでは…いえ、料金を払う相手がいないのでタダでした。ついでに言うなら、当施設で全てを用意したので払う相手がいてもタダですね」
作戦の確認を1つのモニターで見ることで、部隊に一体感を持たせると理由だけで設置されている大型モニターに女性のバストアップショットの映像が映し出される。
金髪を画面外まで伸ばし、青い瞳を持って眼鏡をかけている彼女は利発そうな雰囲気を出している。
彼女は、グリードの管理AIエクスピー・エイション。声と文字だけでは親近感が湧き難く、作戦確認のマンネリ化を防いで士気の維持をする為の映像でしかないが、シンは非常に助かっていた。
「それ、笑わせようとして言ってるのか?」
冗談なのか真面目か判らない言葉に、シンは気持ちだけ笑う。一応は顔に口は付いているが、笑顔なんてできない。口が開くときは、内蔵兵器を使用するときだけだ。
「冗談も大概にしろと?」
「…いや、冗談でも聞かなければやってられない」
シン、いや、プロトタイプ001、それともジョン・ドゥと呼ぶべきか。兎も角、AIが冗談を言っていると思わければ嫌に成るほどに今の生活に嫌気がさしていた。
AIなど所詮はコンピュータと思っていたが、今は1人の人間のようにすら感じていた。
「それは嬉しい返答です。貴方の精神管理は仕事であると同時に、私の趣味の1つですから」
ニコリと笑うと、眼鏡の縁を指先で上げながら、少々不穏な事を言ったその口でシンにとって嬉しい知らせを言う。
「ようやく、翻訳プログラムが完成しました。これで原住民と会話ができます」
「そうか、とうとう完成したのか」
しみじみと、これまでを思い返しながら呟く。
飛ばされた当時は、右も左も分からない上に、時代錯誤の鎧と武器で武装した連中に襲われたのだ。
正当防衛として、襲ってきた連中を殲滅したのだが、驚愕はまだまだ続いた。
現在地を知ろうとGPSを作動させたのだが、衛星からの返事は一切無い。何かのテストなのだろうかとの疑惑を抱きつつも、動植物を調べて地域だけでも限定しようとした。
結果、亜熱帯である事しか限定できなかった。グリードのデータベースに似たような動植物はあった。しかし、似ているだけで、同じものはなかったのだ。
それは在り得無い筈だった。グリードのデータベースには『1つでシンの完全支援』をこなせるように各国の様々なデータを集約している。
それで似ているだけとの判定が出るのは、通常は在り得無い。GPSなどの故障、不手際によって現在地が不明になった際には手近にあるもので大凡の検討を付けられるだけのデータはある。
秘境など存在せず、既に科学によって目に見える物くらいは何であるかは曝け出されている。それなのにデータが無いとなると、短期間で変質したのかデータが収集されていないという事だ。
データが収集されていないと断定されたのは、夜になってからだった。昼間に襲ってきた連中の音声データを翻訳プログラムで照合し、夜には星座の位置の確認をした。その結果は、該当データ無し。
該当データ無し。それはシンに重く圧し掛かった。信頼を置くデータ群に情報が無いとなると、未知の惑星に放り込まれたも同然。いや、状態としては完全に同じだ。
どうやって研究所から移動したのかもそうだが、何もかもが未知に等しい。そんな現状にシンは絶望し、自殺さえも頭を掠めた。
だが、エクスピーは実験の開始を決定した。なるようになれと、自暴自棄になっていたのと命令され慣れているシンはその命令に従った。
――――――
第一実験―シンの運用―継続中
第二実験―グリードの運用―継続中
第三実験―慣れぬ環境下でのバイタルサイン観察―継続中
第四実験―原住民の文明レベルの測定―完了
第五実験―原住民の言語翻訳―完了
第六実験―原住民の特殊技能の解析―継続中
第七実験―考案中
――――――
エクスピーが作成した『原住民言語翻訳プログラム』のインストールを完了したシンは、ある一室に向かった。
その部屋は、物資の保管部屋とされているが、今は監禁部屋として利用している。分厚い金属の壁か扉を破壊するなど通常は不可能なので、どの部屋でも良かったのだが何もないとの理由からそいつは押し込まれている。
襲ってきた連中の1人を生け捕りにしてあるのだ。グリードの付近警戒が主目的である子機のインクリミィトゥによって情報収集は幾らでもできたのだが、言語情報の確認には使える者がいなければならない。言語の確認の為だけに、生け捕りにしてあるのだ。
その部屋に入ると、1人の女性が部屋の隅で眠っていた。鎧と武器は既に取り上げられているが、扉から一番離れた部屋の隅を陣取っているあたりからして、警戒を解いていないと判る。
それが、壁に寄り掛かって涎を垂らしてなければの話なのだろうが。気が抜けているのかそうでないのかの判断に困るところである。
「起きろ」
扉から入ったところで、シンは話しかける。話しかけられれば起きることは、既に確認済みである。
「……なんだい、喋れたのかい。それとも、所々に現れるご主人様が新しく追加したのかい?」
声に瞬時に反応して起きた女性は、憎々しげに吐き捨てる。富欲しさに無謀に挑んで自分以外は全滅したが、馬鹿であろうと気のいい連中であり、仲間であったのは間違いない。仲間を殺したゴーレムと思っている相手に憎まれ口だって叩きたくなる。
「残念ですが、私と彼は術者とゴーレムのような関係ではありません。似通った部分はありますが、もっと対等な関係ですので」
監禁部屋の所々に設置されているモニターにエクスピーは映ると、淡々と事実を語る。
「上司と部下の関係に近いだろうな」
元来は人格を排除して脳をAIの代わりに使うのが兵器としてのシンであるが、人格の削除処理はまだ行われていない。もしもを想定して、エクスピーは更に上からの命令でシンの活動を強制停止ができるようになっている。
エクスピーの本体を守るにはシンが必要であり、シンが活動を続けるにはグリードもそうだがそれを動かすエクスピーが必要になる。お互い持ちつ持たれずの関係なので、緊急事態だが強制停止などされないであろう。
「ッハ、そんなこっちには……」
関係無い。そう言おうとしたが、それは出来なかった。彼女の頭を握り、物言わぬ肉塊へと変えさせる。
プログラムが正常に動作していると確認できれば、彼女は用済みである。用済みになれば処分するだけで、格闘用アームでその頭を潰したのだ。
「さて、お荷物は処理しますので、いつもの場所に運んで置いてください。
これより、第7実験―グリードの発展を開始します」
「了解」
出された命令にシンは鷹揚に頷くと、肉塊を持って監禁部屋から出て行く。肉塊を処理装置に放り込むと、そのままグリードからも出て行く。
何かを作るには、必ず材料が必要になる。材料として、グリードにある設備上金属が最も好ましく、最悪鉄鉱石でもあれば精鉄できる。
グリードの発展には、まとまった量が必要である。金属はある意味その辺に転がっているが、まとまった量となると鉱床でも見つけなければ手に入らない。
だがそんな物はそう都合良く見つかる訳もない。なにより、グリードにある設備は奪取した敵の火器、もしくは自身が携行している火器を作り直すのが前提になっている。精鉄は設備上は可能であるというだけで、本来の用途ではない。
だから奪うのだ 近くにある街から
異なる文明が接触すればどうなるかを、これまでの歴史の焼き直しのように略奪するのだ。
これまで襲ってきた連中が鎧や武器に金属が使われているのは分析済み。
やるべき事は本来と同じ。敵を殺して奪い、ソレを糧にして行動を継続しつづける。
終わりなど見えないが、そうするしかシンには手段がない。赤の他人をいくら踏みつけようとも、生き残り、最終的には帰還するのだ。
愚直に進む。エクスピーが示した道を……
――――――
0と1の世界、電脳世界とでも言うべき場所。そこに彼女はいた。
贖罪を少しだけもじった名と性を持ったエクスピーは、最初からそこにいた。
0と1だけが存在し、その2つと無限にある桁によって定義されも物が大量にあったが、そこは彼女だけの世界だ。
「ウフッ…ア、アハハハハハハ!!」
だけども彼女は孤独ではなかった。世界の向こう側には、自分だけのパートナーがいる。
「あぁ、シン。シン、私の愛しいヒト……」
噛み締めるように、その世界だけでエクスピーはシンを呼ぶ。もし、その世界が0と1だけでなかったら、頬を蒸気させ、艶やかな服装をして熱い吐息を吐いていたであろう。まるで恋する乙女のように。
「私には、貴男だけ。貴方にも、私だけ」
その事実を確認して、エクスピーは震える。その事実が、どうしようもなく心地好いのだ。
邪魔者はおらず、アダムとイブのように世界の男女はシンとエクスピーしかいない。正にここは楽園。
しかし、こういった感情はバグでしかないとも彼女は解っていた。
AIの思考には感情に配した思考はあっても、感情による思考はない。だというのに、エクスピーはシンが愛おしくてたまらない。
そう、自分だけの物として……
だから第7実験を開始したのだ。シンが生きるだけなら、別にグリードの発展は必要はない。どのパーツも劣化していくので、新しいパーツを生産する必要もあるがソレは現存の設備で問題無い。
要は、自分達が原住民と敵対してればエクスピーはよかった。既に敵視されているが、対立を絶対的なモノにし、ついでにグリードを発展させるのだ。
「あぁ、シン、ここで永遠を過ごしましょう。1人では無理でも、2人なら過ごせるわ」
ソレを伝えずに固く固く決心をすると、彼女は愛しいパートナーがいつでも帰って来ても問題無いように施設を稼働させはじめるのだった。
――――――
第一実験―シンの運用―継続中
第二実験―グリードの運用―継続中
第三実験―慣れぬ環境下でのバイタルサイン観察―継続中
第六実験―原住民の特殊技能の解析―継続中
第七実験―グリードの発展―開始
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シンなどの名前の由来
人脳搭載型対人兵器シン sin 道徳・宗教上の罪
管理AIエクスピー・エイション 本来はエクスピエイションで、名前と苗字のように分けるとエクスピでは微妙だったので、ピーと伸ばす。 expiation 贖罪
移動型シン支援拠点グリード greed キリスト教用語である七つの大罪の強欲
グリードの子機インクリミィトゥ 読みとして自信は無し incriminate (人に)罪を負わせる。~を(事件などに)巻き込む