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鬼ごっこ

作者: 南 翔

僕はひとりで鬼ごっこを始めた。じゃんけんをする相手もいないので、僕は仕方なく最初の鬼になった。


走る。もちろん誰もいない。タッチすべき相手もいない中、僕は誰かを探し走る。


僕は鬼だ。鬼以外を何と呼べばいいか馬鹿な僕は知らないけれど、僕は鬼ごっこでは唯一一人しか許されない役である鬼を続けていた。



ただ、ひとりで走り回り続けるには、この場所は広かったし、しかし狭くも感じた。でもお母さんにはあまり遠くに行くなと言われていたので、僕はそれを守り、広いここを狭く感じるほどの時間、鬼でありつづけた。



翌日。


誰か来た。

知らない子たちが数人、固まって遊んでいるのが見えた。かまわず、僕は昨日の続きを始める。すると、その子たちが、一人で遊んでいる僕を鬼ごっこに誘ってきた。鬼ごっこをしている僕が、なぜ鬼ごっこに誘われる側になるのか理解できず、怒りがわいてきたけど、いきなり怒鳴り散らすのもおとなげないと思って、大人しく僕はその子たちに混ざって鬼ごっこを始める。



僕は来る日も来る日も鬼ごっこをしていた。ねんきが違う。みんなすぐ捕まえてやるぞと意気込んでいたが、その子たちの鬼ごっこは僕のやっている鬼ごっことは違い、鬼は、そうでない人を捕まえるとその人が鬼になって、自分は解放され逃げる側になるらしい。ろーかるるーるってやつだろうか。



じゃんけんを何度か繰り返し、僕は初めて鬼以外、「子」側にまわることとなった。


ろーかるるーるで来られては詳しいルールがわからないので、離れた場所で隠れながら少し様子を見る。


すると、追う側が笑いながら、追いかけられる側はキャーキャー悲鳴をあげて、しかしやはり笑いながら鬼役の子から逃げている。どうやら、彼らの鬼ごっこは一人ではできない遊びらしい。


タッチされた子が笑いながら悔しそうに手で目を覆い隠し、やけに早い10秒を数え、追う側に変わり、「子」へ向けて走り出す。なるほど、そういうルールなのか。


隠れている僕に気がついたのか、鬼役の子がこちらへ一目散に駆けてくる。タッチされてはいけないのだから、僕は当然逃げる。逃げた。走って。逃げて、走った。逃げる。追われる。追われる? 追われている。逃げて、僕は、追われて、いる――


これは、鬼ごっこという名の遊びだ。ただ、僕はいつも一人で走って、追われることなど一度もなかった。


遊びなのに、追われているという事実に、僕は自分でも信じられないほど恐怖を感じていた。


なんでだ。追いかけて、追われるだけの、ただの遊びなのに、なんでこんなに怖いんだ。


やめてくれ、僕を追いかけないで。足音が聞こえる。僕の見えないところで、僕めがけて走ってきている。誰だ。そうだ、鬼だ。鬼がやってくる。



「たーっち! 次は君が鬼ね!」



しかし捕まってみれば、とてもあっさりしていて、本気で怖がっていたのが恥ずかしくなるくらい……いや、とても恥ずかしかった。思い切り走ったのと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、僕はさながら本当の鬼のようになっていたに違いない。


そして僕は、初めて追われる恐怖を体験し、初めて追う大変さと楽しさを体験することとなった。



今日は何故か、ここがとても広い場所に感じられた。






日に日に、ここに来る子たちは増えていき、それにつれてここはだんだんと広くなっていった。




ただ、鬼はいつも一人だけ。




唯一の鬼であった僕は、しかし多すぎる「子」に混ざって、だんだんとその立ち位置を狭くし、存在感を亡くしていく。




1日中誰にも追われることもなく。




どの「子」ともすれ違うこともない日もあり。




たまたま鬼役が回ってきたとき、走っても走っても誰も見つけられない日もあった。




誰もいない、誰とも会えない程広くなったここで、僕は。




誰を探してこうして走っているんだろうか。




僕は、追っていたはずじゃないのか。




見つけてほしい。誰か僕を見つけてくれ。僕はここだ。

僕が鬼じゃなければ、みんなから避けられずに、誰かを呼ぶために声だってあげられたのに。「子」じゃなければ、鬼を呼び寄せずに、誰かを呼ぶために声だってあげられたのに。



これが、鬼ごっこなのか。



僕は、誰と、何をしていたっけ。



そんなとき、



「たーっち! って言っても私、鬼じゃないんだ。君は鬼?」




増えすぎてまだ名前も覚えていない友達が、僕を捕まえた。




僕は、もうずっと誰とも会えておらず、鬼を延々と続けていた。

今は僕が鬼なのだ。

けど僕は、




「ううん、僕も違うよ。大丈夫!」




嘘をついた。


そうして、僕はその子と一緒に広くなったここを走る。

鬼の居ない鬼ごっこ。僕らはいるはずのない鬼から一生懸命逃げた。

鬼が来るかもしれないドキドキと、わくわくと一緒に。





結局、みんなが帰る時間になって集合して確認してみても、鬼が誰だかわからなくなっていた。

やっぱり人が多すぎると、場所が広すぎると駄目だなぁとみんなで笑って、明日は鬼を増やすか、逃げられる場所を狭くして、バランスをとれるようにしようと話し合った。

僕一人だけじゃない、みんなで作った、新しい鬼ごっこの形。

鬼でも「子」でも、どちらも公平に楽しめるように、[鬼ごっこ]は少しづつ変わっていく。

そしてまた明日、と散り散りにみんなが家へと帰っていく。




明日も、また鬼ごっこをしよう。明日はどんな鬼ごっこになるだろう。

形は違っても、楽しいものになるといいな。




翌日。

また新しい友達と一緒に、新しい鬼ごっこが始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不思議な雰囲気の話ですね。 おにごっご、深いですねぇ……
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