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神憑もの達  作者: 桐地栄人


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第四話

 シークがジン達を襲った襲撃場所から20キロ以上離れた街、その街の組織が持っている潜伏場所。


 その部屋の一室の中央が黒くなり、一人の少年が湧き出てくる。


 その少年は暗い中でも何があるのかわかるのか、真っ直ぐに部屋の灯りをつけ、その足でベッドに寝転がる。


『かっかっかっ! やられたな、シーク! 流石の我も焦ったぞ!』

「俺もだよ。まさかヨミの技まで封じられるとは……。あいつら、何者だ?」

『くっくっくっくっく! 我に聞かずとももう察しはついておろう? ジン、ヒツジといえばこの世界でその名を知らぬものなどおるか?』

「……ちっ、始原の神憑の一族か」


 

 始原の神、世界の始まりを作ったとされる10柱の神。

 その神の1柱、砂の神ラジャールを代々宿す一族レイヴン家。

 ジンはその次期後継者。


 ヒツジはレイヴン家に代々仕えるブランケット家。

 始原の10柱を除けば最高位の神であるツクヨミと同格の神、想造神アルカを祀る一族。

 

「完全に戦力不足だ。せめてあとヨミクラスの神を宿した神憑が5人は欲しい」

『いるか!』

「だよなー」


 ヨミのツッコミを受け、シークはベッドから起き上がり立ち上がる。


「さて、休憩も終わりだ」

 

『もうか? まだ休んでてもよいと思うが……』

「襲撃地点から20キロしか離れてないようなところじゃおちおち安心して眠れねえ。今日は徹夜で移動してねぐらに帰ろう」

『それもそうじゃの。もうひと踏ん張りするか!』

「ああ」


 そうして宿を引き払ったシーク達は急ぎ、暗部組織の本拠地へと走っていった。




 宗教団体ルミナリス。

 世界中に信仰者が多いその宗教団体は、表の顔は「弱者も強者も変わらぬ平等な一人の人間であり、全ての人間は公平であるべきであるという人権の平等」を掲げる慈善団体だ。

 だが、その実態は――平等の名のもとに神憑を優遇する国家の転覆を目論む反社会的カルト宗教団体であった。


 裏では孤児を集め、暗殺者として教育し、あちこちでテロまがいの事件や要人の暗殺を起こし続けていた。


 シークもその教育された暗殺者の一人だった。


 裏切りがないよう裏切った時いつでもその命を断てるよう契約の刻印がされ、命令があれば老若男女問わず殺す冷酷無慈悲な存在だ。


 戦闘員は高い戦闘能力と、強力な超能力を持つ。

 

 更にツクヨミ程高位ではないが、複数の神憑が所属しており、国家の特殊部隊にも勝るとも劣らない戦力……のはずだった。

 

 シークはルミナリス教の教会の扉を開けるのと同時にその違和感に気付く。


「……人の気配がない」


 ここはこの国のルミナリス教団でも五本指に入るほどの大きな教会で、相応に人の出入りも宿泊している人数も、そして駐在している暗部の人間も多い。


 だが、今日の教会はそれら一切の気配が全く感じられなかった。


「……」


 その明らかな異常事態に、シークは一瞬の躊躇なく、その場を振り返り、駆け出そうとした。

 だが振り返った瞬間、まばゆい光にパッと照らされ、あまりの眩しさに目を覆う。


 そんなシークの耳に、先ほど聞いた柔らかい声が届く。


「こんばんは、シーク君」


 いまだまばゆさで視界がくらむ中でも誰の声かはっきりわかった。


「……どこで俺の名前を知った、ジン」

「それはもちろんここにいた人たちに、だよ」


 ジンにそう言われ、光に少しだけ慣れた目を開ければ、そこには先ほどまでと同じ服装をしたジン達とさらには神憑と思われる人間が複数名立っていた。

 その足元にゴミのように転がっていたのは、この教会の主であり、ルミナリス教の枢機卿アイゼン・グリッツだった。


 アイゼンはまだ息があるようで、地面に倒れこみながらもジンを睨みつけ、怨嗟の声を絞り出すように吐く。


「まさか始原の神憑が動くとは……。だがこの捜査は国の許可をとったものであろうな? 捜査令状はどうした?」

「ないよ」

「ない? ないだと!? ふざけるな! 捜査令状もなしにこのような違法行為が許されていいはずがない!」


 アイゼンの叫び声が夜の教会に響く。

 アイゼンのいう通り、ジンが行ったことは正式に国に許可をとったものではない。すなわち違法行為である。

 

 始原の神憑とはいえ、神憑はその国の方を順守する必要がある。違法行為を行えば当然捕まり、法の裁きを受けることになるのだ。

 しかし、ジンはそのにこやかな表情を崩さない。

 その代わりに横にいたヒツジが答える。


「人身売買、婦女暴行、詐欺、要人の暗殺や誘拐からの身代金等の脅迫、他余罪多数……これだけやってよくそんな言葉が吐けるわね」


 ヒツジの言葉にアイゼンはにやりと笑って舐めるような声音で言った。


「証拠は? 証拠はどこにあるのだ?」

「……はぁ」


 勝ち誇ったような表情でそうまくし立ててくるアイゼンにヒツジは深いため息を吐く。


「なんだ? もはや謝罪などしても遅いぞ! 貴様ら全員徹底的に法の捌きを受けさせてやる!」


 得意げな表情で叫んだアイゼンを、ヒツジは可哀想なものを見るかのような目で見下ろし呟いた。


「哀れね」

「な、なんだと?」


 ヒツジはそこで一度言葉をとめ、膝をついて間近からアイゼンの目をしっかりと見つめる。

 ヒツジのその目は不思議と笑っているように見えた。


「あなた、勘違いしているようだけど、私達は別に正義の味方としてきたわけでも法の執行者としてきたわけでもないの」

「……は?」

「私達はね、目障りになった貴方達を単に消しに来ただけなのよ」

「……」


 アイゼンは一瞬ヒツジの言っていることが分からなかった。

 だが、数秒後、その表情は恐怖で歪み、身体が震え始める。


「私の言っている意味が分かったようね? よかったわ、貴方のような小悪党でも理解できる頭があって」

「ま、待て! 何のことだ!? わしはおぬしらの邪魔をするようなことはしておらんぞ!!」

「あら、不敬にもつい先ほどあなたの配下がジン様を襲っていたのだけれど?」

「わしは知らん! 部下が勝手にやったことだ」

「それなら一番上のあなたが責任を取らなければなりませんね。では……」

「な、ふざけるな! この国にそんな法はない!」


 アイゼンは叫びながら地面を這うように後ずさる。

 ヒツジはそれを追うことなく、腰を上げて手帳を開きながら、アイゼンに死の宣告でもするかのように静かに告げた。


 

「私達の邪魔をした。それが貴方が死ぬ理由よ」


 サッと書き上げられ文字は「業火」。


「いぎゃぁぁあああああああーーーーーー!!」


 アイゼンの身体が突如として燃え上がり、その身体を焼いていく。

 その光景を冷ややかな表情で眺めながらヒツジは静かに呟く。


「その業火で貴方の性根を少しでも浄化なさい」

「アア……ァ……」


 業火で焼かれ、叫び声を上げながら地面を転がっていたアイゼンの声はだんだん細くなっていき、30秒後にはピクリとも動かない黒こげの肉ダルマになっていた。


 動かなくなったアイゼンを確認したジンは、いつもと変わらないにこやかな表情でシークに向き合う。


「待たせて悪かったね、シーク君」

「……」

「もう試したと思うけど、ここからは逃げられないよ。ちゃんと君の能力に対応できる能力者を集めたから」

「……だからか。さっきからヨミの能力が使えないのは」


 シークは目の前の断罪行為が行われている中、この場から立ち去るべく先ほどヨミが使った能力や自身の能力である「神経糸」を使って周囲を探ろうとした。


 しかし、まるで見えない壁でもあるかのように一定の範囲から外に出ることが出来なくなっていた。

 

「空間能力まで使える人間がいるのかよ。激レア能力を次から次へと……」

『はあ、シーク。年貢の納め時みたいじゃの。かっかっか!』

「笑い事じゃねぇだろ」


 気軽に死刑宣告をしてくるヨミにシークは思わず突っ込む。

 シークはじんわりと額に汗をかきながら武器を構える。だが、そんなシークにジンは攻撃の意思はないと手の平を見せながら近づいてくる。


「シーク、僕は君と話し合うためにここに来たんだ。武器は納めてくれないか?」

「……」


 ジンは優しい声音でそういうが、シークは武器を下げない。

 当然だ。

 つい先ほど殺そうとした人間だ。恨みや怒りを持っていないわけがない。


 だが、ジンの瞳や表情からはシークに対する怒りや憎しみのようなものは一切感じられない。

 その理由が分からず、シークは困惑したまま戦闘態勢を維持する。

 だが、そんなシークをなだめる声がシークの頭の中で響く。

 

『奴にシークに対する敵意はない。それは確かじゃな。いったん話を聞いてみてもよいのではないか?』

「……冗談だろ? 俺はあいつを殺そうとしたんだぞ」


 そう言ってシークはジンの方を見る。

 とうのジンはにこやかな表情を一切崩しておらず、先ほど殺されかけたことを忘れているような雰囲気でこちらを見ている。

 だが、横のヒツジはシークを冷たい視線で睨みつけるように見ており、ジンの後ろにいる先ほど見た大柄な男や奇妙な眼帯を付けた女達は無表情で油断なくシークを監視していた。


 しかも、その後ろにもさらに先ほどいなかった人員が五人も増えており、その気配から複数の神憑がいることが分かる。

 これらの誰か、もしくは全員がシークの逃走を封じる能力者なのだろう。


『万事急須ってやつじゃ。まあ殺す気ならもうやっているじゃろうて。一度話を聞いてそれでも無理なら死ぬ気で暴れる、で良いのではないかのぅ、シーク?』

「……分かった」


 ヨミに説得されたシークは両手に持っていた武器を下ろす。


「話を聞いてくれる気になったかな? よかったよ。ヒツジ」

「はい」

 

 シークのその様子を見たジンは顔をほこらばせて喜び、 ヒツジに合図を出す。

 それに頷いたヒツジが手帳に何かをサラッと記載する。

 

 すると、ジンとシークの間に地面から生えるように机と椅子が生成された。


「ヒツジたちはそこで待っていてくれ。二人で話してくるから」

「なっ! お待ちください! 暗殺者とジン様を二人だけにするなどあり得ません!」

「ヒツジのいう通りです! せめてヒツジだけでも連れて行ってください!」


 十数メートル先とはいえ、シークと二人きりになるというジンを周りの者達は止めに入る。

 だが、ジンはゆっくりと首を横に振り、シークを真っすぐ見つめて言った。


「あんなに警戒した子ども相手に何人も引き連れて行ったら尚更警戒されちゃうでしょ? 僕一人で行ってくるよ。ここからは()()()()だ」

「「……」」


 その言葉にどれくらいの重みがあったのかは分からない。

 

 だが、ヒツジたちはその言葉に押し黙ってしまう。

 そして一瞬の間の後、一斉に膝をつき、ジンを見送った。

 

「お気をつけて、ジン様」

「うん。ありがとう」


 ジンが一人で机に向かってくるのを確認したシークは、ジンの背後のヒツジたちを警戒しながら同じように歩いていく。

 数秒後、ぴりついた空気の中ジンとシークは机を挟んで向き合う。


 最初に口を開いたのはジンだ。


「まずは話し合いに応じてくれてありがとう。僕の名前はジン・レイヴン。レイヴン家の次期当主だよ」

「シーク。家名はない」


 シークがぼそりと呟くように自己紹介した次の瞬間、シークの影が波のように揺らぎ、黒髪の少女が飛び出すように出てくる。


「そして我こそがこのシークの守り神ツクヨミである!!」

「あ! ヨミ、勝手に出てくるな!」


 偉そうに腕を組み、自信満々な顔で背の高いジンを見上げる少女。

 彼女こそ、シークの身に降ろされた闇の神ツクヨミである。


 その服装はその細い手を完全に隠せてしまうほど長い袖口に、まるで夜空をちりばめたかのように美しい黒い十二単(じゅうにひとえ)だった。


 ジンは突然のヨミの出現に、少し目を大きくするが、それでも動揺することなく最上級の礼をもってヨミに礼をする。


「ツクヨミ様、お目にかかれて光栄です。砂の神ラジャール様を奉るレイヴン家のジンと申します」

「うむ。良い心がけじゃ」


 満足そうな顔をするヨミに、ジンは頭を上げると、後ろに合図を送る。

 するとすぐにヨミのための椅子が地面から出てきた。


「では、立ち話も何ですので、どうぞお座りください」

「うむ!」

「……」


 ヨミは大きく頷き、尊大な態度で椅子に座る。一方でシークは軽くため息を吐きながら席に着いた。

 二人と同様に椅子に座ったジンは、早速シークに話しかける。


「シーク、先に言っておくけど君が僕を暗殺しようとしたことについてとがめるつもりはない。だからそこは安心してほしい」

「……」


 ジンの言葉を聞いてもシークは警戒を崩さず、胡散臭そうな瞳でジンを睨みつける。そんなシークの意を汲んでか、横のヨミが笑いながらジンに質問をした。


「かっかっか! 我は神故分からぬが、人間は死んだらその魂は神の身元へと送られる。貴様ら人間はそれを物凄く恐れておるはずじゃ。奴らのような狂信者でなければのぅ?」


 そういって黒焦げになったアイゼンを指す。


「その通りです、ツクヨミ様。私ももちろん死ぬのは怖いです。まだこの地上で為すべきこと、成したいことを何も出来ておりませんので」

「ならそれ を台無しにしようとしたシークに対して怒りを覚えないというのはいささか無理があるんじゃないかのぅ、ジン?」


 ツクヨミの試すような視線。ジンはそれを真っ向から受けながら頷いた。


「仰る通りです。いかに私とて自分を殺そうとしたものに対しては容赦は出来ません。ただ……今回に関しては例外です」

「ほぉ、何故じゃ?」


 小首を傾げながら試すような視線を送るヨミに、ジンは衝撃的な発言をする。


「今回、彼らに僕を暗殺するように依頼したのは……他でもないこの()()()ですから」

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