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神憑もの達  作者: 桐地栄人


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第二話

 三日後、シークはキッシュ街道の周囲に建物がなく、木々が生い茂り身を隠せる暗闇の中にいた。


 周囲にはシーク同様に集められた同じ組織の暗殺者がシークも含めて23人ほど隠れている。


 通常の暗殺ではソロか、せいぜい2、3人位のものなのだが、これだけ多くの人員が導入されるのは非常に珍しい。


 ターゲットは十代の少年ただ一人。それに付随して、数名の護衛がいる可能性があるとのこと。


 配置された暗殺者の多さからも、ターゲットは恨みを買っている、もしくは相当な大物だということは容易に想像出来る。


 移動と説明に一日、暗殺場所の下見や暗殺対象の下調べに二日。

 その中で一つ気になることがあった。

 それは暗殺対象者が何者なのか、二日かけても分からなかったことだ。上に問いかけても、見たら分かる、とだけしか返ってこなかった。


 暗殺対象者の仕事や人柄には興味がない。


 善人でも悪人でも関係ない。


 暗殺の依頼が来たらそいつを殺す。


 ただそれだけ。


 だが、ターゲットの周りにいる護衛の数や能力は知っておく必要があった。

 それを知っているのと知らないのとでは、暗殺の()()難易度に大きく差が出るからだ。


 それ故に、ターゲットの情報が何もないという現状はシークからしたら少し気持ちが悪いものだった。


「ふぅ……」


 シークは街道が見える木の上で、少しため息を吐く。


『かっかっかっ! また難しい依頼が来たのぉ、シーク?』

「ああ。来たら分かる、なんて言われてもな。もし間違って別のやつを殺しでもしたらターゲットはもうこの道は通らないだろうよ」

『そうじゃのぉ。貴様の上司は一体何を考えてるやら……』

「まっ、見たら分かるって言うなら見たら分かるんだろ。分からなかったとしても俺のせいじゃない」

『かっかっかっかっか! それもそうじゃな!』


 ヨミとのそんな雑談をしながら過ごすこと三時間。


 既に日を跨ぎ、真夜中となっていた。


『んー、暇じゃのぉー』

「……」

『ターゲット、全然通らんじゃないかー』


 黙って道を通る人々を見つめるシークと違い、ヨミは飽きたのかそんな愚痴を呟く。


 この国では金髪の人間は珍しくない。だが、瞳が砂色、もしくはそれに近い色となると殆どいない。

 ヨミの力と、暗殺者の訓練を受けたシークはまばらに道を通る通行人の瞳を見落とすことなく確認出来たが、砂色の瞳をした少年など通らなかった。


 もう夜も深い。

 こんな時間に子どもがこんな道を通るなどあり得るのだろうか。


 もう最後に人が通ってから一時間は経っている。


 命令があれば一週間飲まず食わずで待機できるシークは、心を無にしながらただひたすら待つ。


『おっ、また誰か来たみたいじゃの。……4人組じゃな』


 頭の中で響いたヨミの声を聞き、街道の奥を見る。


 すると、確かに森の奥から男女が歩いてくるのが見えた。一人、明らかに身体が大きい大柄の男が一人、それより頭一つ分低い男が一人、更に頭一つ分低い女が二人。


 まだ瞳の色がわかるほどではないが、シークはターゲットの可能性を考えて息を潜める。

 しかし、他人に声の聞こえないヨミは、相変わらずシークの頭の中で話し続けた。


『うーむ、遠くてよく分からんが少女はいるが少年と呼べるような者はおらんのー。またハズレかのーつまらん』

「……」

『シーク、また雑談に付き合ってくれ……シーク……?』

「……」


 ヨミの言葉に反応しないシークに、ヨミは再度問いかけるが、シークは何も言わない。


『動揺しておるのか……? あやつらに何かあるのか……、いや待て……』


 いつもと違うシークの様子にヨミも四人を注視する。

 もうその顔も瞳の色もわかるほどの距離。


 いた。


 大柄の男より頭二つ分低い青年と呼んでいい風格の男。


 金髪の多いこの国でも一際眩しい金髪に、力強く輝く砂色の瞳をした青年だ。


 だが、その顔以上にヨミが気になったのは、その男が纏う雰囲気である。


 他の三人も異様な雰囲気を漂わせている。只者ではないのは確かだろう。


 しかし、中でもその青年の纏うオーラは別格だった。


 見たら分かる。


 その言葉に嘘はなかったようだ。

 

『なんじゃあれは……? シーク、今回の指令はいつものものと違うやもしれん。気をつけよ』

「ああ……」


 珍しくヨミが真剣な口調で注意を促し、シークも素直に頷く。

 なんなら一度近くの街に戻り、体勢を立て直した方がかもしれない。


 だが、そう思っていたのはシーク達だけのようだ。


 近くにいたリーダーが合図する。


 それは作戦続行の合図だった。

 

『……』


 普段おしゃべりなヨミも何も語らない。ただこちらに向かって歩いてくる四人の方をシークを通じてじっと見つめていた。

 そして、シークもじりじりと感じる嫌な感覚に身体を固くする。


 そんな中、ヨミの呟きだけがシークの頭の中に響く。

 

『あの気配、昔どこかで感じたことがある……』

「なに……?」


 聞き逃せない情報だ。暗殺対象者の情報は何であれ重要な情報となる。

 

 シークが続きを促そうとした、その瞬間。

 

「ジン様」

「ん?」

 

 シーク達が罠を張った地面すれすれで、妙齢の女が突然そう声を出した。

 その声に反応してターゲットの足が止まる。


 シークを含めた暗殺者達に緊張が走る。


 暗殺がばれたのであれば、飛び出すのか、それとも一度引くのかという判断を求められるからだ。

 

 不気味な女だ。目が見えないのか顔の上半分を覆う大きな眼帯をしているのだが、その眼帯の中央には巨大な一つ目が書かれていた。

 しかも不思議なことに、書かれているだけのはずの眼球がせわしなくあちこちと動いていた。


 シーク達は息をするのも止めて、彼女の次の言葉を待つ。


 そして、その眼球が動きを止めると、その女性は口を開いた。


()()()、物陰に隠れてこちらを伺っております」

 

 ばれた。


「へー」

 

 ジンと呼ばれた少年は、そう言って木々を見渡した。

 ただそれだけの行動にもかかわらずブワッと空気が膨らむのをシークは感じた。

 先ほどまでは少し違和感を感じただけだったのだが、あれがジン本来の空気だとでもいうのだろうか。

 シークは珍しく全身からジワリと汗を出し、緊張で呼吸が浅くなる。

 同時に、頭の中ではっと息を吸う音がした。


『思い出した……』


 ヨミが、彼らについての情報を思い出したようだ。

 だが、一瞬遅かった。

 誰も合図なんてしていない。だが、暗殺者達は一斉に動いた。

 それに続くようにシークも()()()能力を使用する。


 神経糸。


 自身の神経を硬質化させ自由自在に動かす能力。


 神経の太さは、細いものになると髪の毛の百分の一以下の細さとなる。

 つまり、肉眼では絶対に見ることができない。


 シークは学校ではこれを使って小石などを拾って操り、エスパー系統の能力者だと偽っていた。

 暗殺に使う本当の能力を知られないために。


 他の暗殺者達もそれぞれ能力を発動する。


 しかし彼らの凶刃がジンへと飛んでいく前に、誰よりも早く動いた者がいた。


 ジンの付き添いだったもう一人の女。

 見たところ15歳前後という若い少女。

 右手に羽ペン、左手に手帳を持ったとても戦えるようには思えないその少女が、左手の手帳に何かを書いた。


 次の瞬間、シークの目の前で動き出そうとした同僚の首がねじ曲がる。


 ゴキッ。


 暗殺者として5年近く活動してきたシークですらあまり聞いたことがないような鈍い音を立てて彼らが木の上から一歩も動けずに落ちていく。

 

 ドサドサドサ。


 あちこちから聞こえてくる重い何かが落ちる音。


 目の前では、羽ペンを持った少女が周囲を見渡し、もう一人の眼帯をした女がその目を動かしている。

 そしてほっと息を吐き、少女に声をかける。

 

「死体は22名……全滅ね。さすがヒツジちゃんよ」

「恐縮です」


 眼帯をした女にヒツジと呼ばれた少女が頭を下げる。

 

 暗殺者達を皆殺しにしたほんの一瞬の緩んだ空気。

 シークはそれを決して見逃さなかった。


『シーク! まずい! 一旦引け!』


 頭の中で珍しく焦ったように叫ぶヨミの静止を無視してシークは動く。

 

「ん?」


 ジンがシークの方を向き、そんな声を出しこちらを向いた。

 シークの殺意のこもった視線とジンの興味深そうな視線が交差する。

 

 ジンはシークが迫っているというのに全く動かない。シークはそんなジンへと神経糸を飛ばし、そして……


「「「ジン様!!!!」」」


  ジンの首から上がなくなり、空中にジンの首が宙を舞っていた。暗殺完了である。


 突然首が吹き飛んだジンに周りの三人が叫び声を上げる。

 

 目的は達した。

 シークは即座に反転し、その場から立ち去る為に足に力を込める。

 死んだ同僚の死体は放置する。どうせ組織やシークにつながるような情報は持っていないし、シークは彼らに何ら同情の感情を抱いていないからだ。


 それよりも一秒でも早くここから離れたい。


 そう思い、シークが彼らに背を向けたとき、何故か腕が引っ張られそこから動けなかった。

 シークの神経糸を誰かが掴んだ感覚があったのだ。

 まさかと思い、ゆっくりと振り返ったその視線の先で、シークは信じられないものを見ることになる。


 なんと……首を落とされ即死したはずのジンという男の右手が、シークの神経糸をがっしりと掴んでいたのだった。


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