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神憑もの達  作者: 桐地栄人


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第一話

「……」

「よってー……であるからして……」


 とある学園の授業中、教師の授業を真面目に取り組む生徒達の中、机に突っ伏したまま動かない生徒がいた。

 木漏れ日が窓から優しく差し込む窓際の席は、彼が居眠りをするのに最適だったのだ。


「……ーク」

「う、うーん……」


 真横から聞こえてきた声にうめき声で返す黒髪の少年。


 夢の中で何かおいしいものでもたらふく食べたのか、嬉しそうな寝言を呟く。

 だが、彼を呼ぶ声は無慈悲にも、彼を幸せな夢から引きずり出そうとしてくる。

 

「シーク!」

「も……もう食べられないっす……」

「シーク!!」

「はい!」


 ピンっと背を伸ばして立ちあがった少年、シークは焦点の合わない目で前を向き、慌てて周囲を見渡す。

 普通の教室。だが、おかしなことに生徒が誰もいない。


「あえ?」

「あえ? じゃないよシーク! 次の授業、能力戦闘の時間だよ!」


 そう怒鳴られ、シークはやっと自分を起こした相手を目ボケまなこで見る。

 金髪の長い髪をポニーテールでまとめ、整った顔立ちで眉を吊り上げる女子生徒、メリーは、その透き通るような大きな瞳でだらしない表情をするシークをしっかりと見つめていた。

 しかし、当のシークは何かが不満だったのか、露骨に視線を外して俯いてしまう。

 

「あー……ああぁ……」

「あ、ああぁ……じゃないでしょ! ほら、もうみんな着替えて校庭に出ちゃってるよ!」

「……訓練か。面倒くさいなぁ……」

「もう、まったく! シークは相変わらずなんだから」


 メリーはシークのやる気のなさそうな態度を見てため息を吐く。


「君ねー、少しはやる気を出しなよー」

「ほっとけ」

「もう!」


 シークは椅子に座り直し、手を振ってメリーを追い払おうとする。

 そんなシークの態度に愛想をつかしたのか、メリーはシークに背を向ける。


 だが、教室の扉の前まで走っていったメリーはそこで一度立ち止まり、シークの方に再度振り返った。


「校庭で待ってるからね! すぐ来てよ!」


 どうやら見放されてはいなかったらしい。


「んー……」


 了承しているのかどうかわからない曖昧な返事をしたシークは、椅子に座ったままボーっとする。

 また訪れた静寂。窓の外からは優しい風がシークの寝ぼけた顔を撫でる。


 このまま寝てしまおうか。


 そう思った次の瞬間、どこからともなくシークの頭の中に声が響いてくる。


『かーっかっかっか! 相変わらずじゃの! 貴様は!』


 突然頭の中に鳴り響いた声に、シークは思わず表情を歪ませて怒鳴る。


「ヨミ! 急にでかい声を出すなっていつも言ってんだろ!」

『かーっかっかっか! そのような些事、我の知ったことではないわ!』


 ヨミと呼ばれた声は、シークの怒鳴り声にも一切気にすることなく笑い続けている。

 そんなヨミに、シークはため息を吐き、頭をがりがりとかいた。

 

「……ったく」


 どうせ言っても無駄だ。もうこのやり取りは何百回と繰り返したのだから。

 

「よっこいしょ」

『ほお? 真面目に授業を受ける気になったのかや?』

「お前のせいで眠気も吹っ飛んだよ」

『それは重畳じゃな! 我に感謝するがいい!」

「ありがとよ!」


 とても感謝しているとは思えない投げやりな言葉。

 だが、そんなシークの投げやりな言葉でも、ヨミは嬉しそうに笑った。


『かっかっかっかっか! 感謝せい感謝せい! かーっかっかっか!』


 そんな調子のヨミの声を聴きながら、シークは自分の戦闘服に着替えた。




ーー。


 体操服に着替えたシークは、急ぐでもなくのろのろと歩きながら校庭に向かった。


 そこではすでに、クラスメイト達が教師の前に座っており、授業を受けていた。

 シークは最初からいましたよ、と言わんばかりの表情と動きでその中に加わろうとするが、当然教師はそれを許すはずがない。

 

「シーク! 遅いぞ! チャイムはとうに鳴った!」

「すみません、道に迷いました」

「んなわけあるか! ……まあいい、そこに座れ」

「はい」


 シークは素直に頷き、生徒達の列の一番後ろに座る。

 すると、横に座っていたメリーが顔を近づけてきて囁いてきた。


「やっぱり遅刻した。せっかく起こしたのに……」

「起こしてくれたことは無駄になってない。おかげで授業に出られた」

「そう? ならよかった」


 メリーがそう笑うと、その更に横から男子高校生の顔がにゅっと飛び出してくる。


「よう! さっきは随分気持ちよく寝てたじゃねぇか」

「あ? あ、ああ……え、ええっと……?」


 突然割り込んできたその男子生徒の顔を見たシークは眉を顰めて人見知りのような動揺を見せる。

 

「レインだレイン! お前、このやり取り何十回やらせる気だ」

「レイン! 静かにしろ!」

「あ! す、すみません」


 教師に注意されたレインはすぐに小さくなり謝る。

 しかし、教師がまた話始めると、その瞳はシークを睨み、小さな声で恨み言を言ってくる。


「シーク、お前のせいで怒られただろうが」

「ちょっと名前を忘れてただけだろ。レ……レー……?」

「レインだ!! ……あっ」

 

 また名前を忘れたシークに、レインは思わず怒鳴る。

 だがすぐに今が何の授業の時間だったのかを思い出したのだろう。

 かくかくとレインはゆっくりと視線を前に向ける。


 その視線の先にいたのは、怒りを通り越して、もはや笑顔すら浮かべた教師の姿だった。


「レイン……私の授業で何度も騒ぐとはいい度胸だ」

「え、あの……」

「そんなに騒ぎたいのなら存分に騒がせてやる。前に出てこい!」

「は、はい!」


 怒られたレインは慌てて立ち上がる。その様子を周りの生徒達に混ざってシークも笑う。


「ははは!」

(相変わらずレインいじりはおもろいなぁ)

 

 まんまとシークの罠にはまりとぼとぼと前に歩くレインを、シークは声に出して笑ってしまう。

 

「シーク、お前もだ」

「え!? 何で?」

「遅刻しただろ! お前も前に出ろ!」

「ぐっ……」


 教師の正論にぐうの音も出ないシークは渋々立ち上がってレインの後ろについて行った。

 二人はそのまま教師の横まで歩いていくと、教師は二人を指して生徒達に説明する。


「では二人には今から実戦形式の試合をしてもらう!」

「「えー」」

「えーじゃない! 貴様らは授業を舐めすぎだ!」

「「……」」


 不満そうな顔をするシークとレインとは対照的に、生徒達は面白そうな顔で囃し立ててくる。


 そんな声と同時に聞こえてくるのは、勝敗の予想。それも片方の勝利を確信しているような口ぶりだった。


「レインー! 負けるなよー!」

「シーク! 精々頑張れよー!」

「シークなんかに負けたら恥だぞー!」

「わーってるよ」

「ほお?」


 生徒達はレインを煽り、シークには憐みのような視線を向けていた。

 レインはそれに対して、自身の勝利を確信しているように右手を上げ、なめられたシークはそれを不思議そうに眺める。

 そのまま校庭で相対した二人は木刀を構え、シークは鼻で笑うような顔でレインに言った。


「お前、あんなこと言って大丈夫か? 負けたら恥ずかしいぞー?」

「能力もろくに使えねえ奴に負けるわけねぇだろ。いいからさっさとかかってこい。先手は譲ってやるから」


 木刀を肩にかけ、空いた左手でこいこいとアピールするレインに、シークは木刀を正眼に構え両足に力を込める。

 それと同時に能力を使う。

 シークの周辺に落ちていた小石がふわりと浮き上がり、シークの周囲を浮遊する。

 しかし、ふわりと浮き上がった小石は5個と少なく、フルフルと震えており不安定で頼りない。


 それを見た周りの生徒達はその小石を指さして笑う。

 

「出たー! 『小石飛ばしのシーク』!」

「せめて小石浮かすなら50個くらいは持ち上げろー!」

「無理無理!」

「ははははは!」


 それを聞きながらレインも呆れた表情をしながらぼやく。


「シーク、お前も相変わらずだな……」

「相変わらず……? お前は一体何を見てるんだ。先週から浮かせられる小石の数が一個増えているだろ?」

「気づくか! てか4個も5個も変わんねーよ!」

「ふっ……、相手の微細な変化に気づかないとはお前もまだまだだな」

「はっ、言ってろ」


 そういうと、レインも能力を発動する。

 レインの横の地面がもこもこと盛り上がり、次第に人型へと変わっていき、すぐに手に長剣を持った騎士の姿になる。


「んじゃやるか」

「ああ、お前は油断の代償を払うといい。行くぞ!」


 


 そして……。


「シーク、授業終わったよー」

「……空が青い」


 地面に寝っ転がったシークの視界の上からにゅっとメリーの顔が飛び出してくる。


「あーんな啖呵きっておいて、あっさり負けちゃうんだから、シークは相変わらずだねー」

「……うるせぇ」

「はっはっはっはっは」


 大笑いするメリーにかぶせる様に、シークの頭に別の笑い声が響いてくる。


『かーっかっかっか! あいっかわらず貴様はよっわいのー!』


 突然頭の中ででかい声で笑われたシークは露骨に顔をしかめる。

 

「シーク! そんな渋い顔をしてないで、ほら、次の授業始まるから教室戻るよ!」

(そうじゃないんだけどな……)


 ヨミの声が聞こえていないメリーは、シークの表情の変化を勘違いして励ましてくれる。


「ああ」


 だが、説明することはできない。だからシークは、服についた汚れを叩き落としながら素直に従い立ち上がった。


 ーーその夜。


 ベッドで横になっていたシークのもとに何処からともなく一通の手紙が天井から落ちてくる。

 窓もドアも締め切った部屋。天井も床も隙間はない。

 だが、その手紙はまるで瞬間移動でもしたかのようにそこに現れた。


 シークはその手紙を空中で受け取り、慣れた手つきで中身を開ける。

 中には筆跡が読み取れないよう、新聞の切れ端が並べられていた。


『三日後の夜、キッシュ街道を通る金髪で砂色の瞳を持つ少年を殺せ』


 まだ学生のシークに対する殺人の依頼。

 だが、シークは眉一つ動かすことなくそれを読み、近くに置いたライターでそれを燃やして証拠を隠滅する。

 そして、すぐさま立ち上がったシークの表情には先ほど学園で過ごしていた時のどこか気の抜けた雰囲気はどこにもなかった。

 真っ黒な瞳からは光が消えうせ、その表情は抜け落ちている。

 

「……」


 無表情となったシークは、黒衣に着替え、無言のまま部屋を出て行った。

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