プロローグ 壊れた世界の彼方より
久しぶりにこっちで投稿します。
カクヨムよりも1話だけ遅らせる形での公開となります。
世界が、人類の手の内にあると我々はいつの間にか盲信してしまっていたのだろうか。
幾千年と食物連鎖の頂点に立ち続け、あるいは他ならぬ自分たちの手でおよそ他生物的ではない文明を発展させ続け、しまいには烏滸がましくも我々の手で自然を救ってやろうだなんて。
今となっては、甚だ狂っているとしか言いようのない人類は、いわゆる神のような立場で万物を見下ろしていたのだ。
その人類の傲慢から来る怠慢ゆえに、自然は長らく隠していた牙を突き立てたのだ。
神様が本当にいるのだとすれば、きっと人類はその神様の怒りを買ってしまったのだろう。本当に仏がいるのだとすれば、その仏ですら許しがたい大罪というものを被ってしまったのだろう。
嗚呼。
この身がいずれ朽ち果てようとも、決して忘れなどはしない。
————あの日、|世界の終わりに世界が降ってきた《・・・・・・・・・・・・・・・》日を。
《とある手記より引用》
《以下欠落》
***
「……え?」
腐葉土の臭いに鼻腔を刺激されて、風切 東亜は間抜けな声をボソリと溢した。
長らく焦点が合わず、ぼんやりとしていた視界が、やがて一つの景色を眼球内に映し出す。
ささやかな祝福とでもいうかのように、甲高い小鳥の声があちらこちらから響いてきた。
すぐ隣を流れる小川は、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
己が人間であるということを、東亜はしばしの間理解することができなかった。
人間という生き物は一度死んだらやり直しをすることだできないし、プラナリアのように勝手に増殖することもない。
人造人形ならばまたあるいはだが、そこまで成り下がった覚えはなかった。
己は確かにあの日死に、永久の眠りについたはずだ。運がいいのか悪いのかは一概には判断できないけれど、世界の終わりに立ち会ったのだから間違いない。世界の終わりに降ってきたまた別の世界に、己の体は押し潰されたのだ。
で、あるからして。
己がこうして現世を、地表の上から眺めているというのはどうして正しいことと言えようか。
こうして思考を巡らせることがどうして正しいことと言えようか。
|いや、言えるはずがない《、、、、、、、、、、、》。
「————」
長い間、どこまでも広がる大洋の水面を遊覧船で揺られていたような感覚が、体の真奥で残留していた。
先程まで見ていたはずの、ひどく暖かい夢の世界は目覚めと共に泡沫となって消えていった。
きっと東亜がいたのは、思い描く限り最高の桃源郷であった。
ならば現世で目を覚ました東亜は、その理想をも蹴り飛ばしてまでここにしがみついたとでもいうのか。その答えは……。
しばし思考をして、それから東亜は首を小さく横に振った。
考えても分からないことを、考えようとするなど果たして無駄なことであったのだ。
そもそも、目の前の情報だけで、真実を究明できるほど東亜の頭は探偵気質ではない。
むしろ、学校のテストなんかは何回も例題を繰り返さねば、点数を取れない凡人であった。
「————」
だからこそ、東亜は考えるのをやめた。
緩やかに流れる時と風に己の身を任せることにした。
その瞬間は、確かに東亜は生者であった。
それから半刻ほどたったころ。
ふと視界の端に、動く何かが映った気がした。
目線をそちらにやって、東亜はゆっくりと目を見開く。
「きみは、」
少女がいた。
白雪のような白髪を腰のあたりまでの伸ばした少女だった。
彼女は翡翠色の瞳で東亜を見つめ返して、首を傾げた。
「あなたは、誰?」
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