06.調理実習と山田君
「おい、山田移動すんぞ」
「なんで」
「調理実習だよ、お前楽しみにしてなかった??」
「うん。俺、調理実習好きなんだよねー」
「じゃあなんで忘れてんだよっ」
「確かに、あははっ」
「エプロンは忘れてない??」
「うん、ほらコレ」
「なんでピンクでフリフリしてんだ!?」
「中学の時の小さくなっててさ~、姉さんの」
コレ、ギャップ萌えみたいになるんじゃないの?? 大丈夫かな山田。
「佐藤と同じ班で安心」
「なんで」
「なんか分からないけど昔から調理実習の時教えて教えてって女子がいっぱい集まってくるんだよ」
「ソレ、僕がいても意味なくね」
「そうかな~」
調理室に着いて準備を終えたら、やっぱり……めっちゃ見られてますやん、山田!!
『やだ、ちょっと見て山田君!!』
『え~可愛い~』
『三角巾もフリルついてるよぉ』
『本当だー!! 可愛すぎるよね』
『アレはずるい~』
本当だ、三角巾なんてバンダナとか大きめのハンカチとかでなんとかなりそうなのに……何故!?
「おい山田、なんで頭もフリフリしてるんだよ」
「え、だから姉さんの……俺のなかったから」
「……そうか、まぁお前はそれでいいかもな。女子に元気を与えるという意味で」
「は??」
「なんでもない」
まぁもう言ってもコレしかない訳だし……可愛い恰好をしたイケメンが料理してる……笑える。
「山田くぅ~ん、野菜の皮むき上手いね!! 教えて~」
「あ、私も」
「私も分からなくて~」
おお、コレがさっき言っていたアレか!! 確かに山田は動きにくそうでまたゲンナリした顔をしている。モテるって大変なんだな、僕には分からないしんどさなんだろう。
「あ、袖落ちてきてるよ」
「えっ?? あ」
それって少し前に流行った袖クルってやつだろぉぉぉぉぉ!! 背後から人参とピーラーを持つ女子の袖をクルクルと上げていく。真っ赤になった女子の顔は人参より赤い。
「きゃぁぁ、私も落ちてきたー」
「私も私も」
何人もの女子が腕を振ってシャツの袖を落としていく。包丁やピーラーとか持っているのに危ないな。
「え、え、皆友達同士でやってよ……ちょっとあっち手伝うから……」
「おい、女子達がブーブー言ってんぞ」
「ふふっ、豚じゃないんだから」
「おまっ、そんな事言ってないだろう!!」
ったく……。コイツ本当に危ない奴。いろんな意味で。
「雪もかよ……」
「何が――」
言うが早いか僕の袖は山田によってクルクルされていた。
「やめろよ!! 言ってくれれば自分でできる!! それに……腐女子の餌食になる……もうなっている……」
僕は小声で言ったけれど山田は「はぁ??」という感じで全く意味が分かっていない風だった。
『今の見た!?』
『たまらない!!』
『私、次の本二人の描こうかなぁ~』
やめてくれよ!! そんなの目に入ったら耐えられないよ、僕は……。くぅぅ、アレもコレも山田が顔も行動もイケメンなのが悪いんだー。はぁ、これじゃ悪口だよな、悪い、山田。僕は心の中でこっそり謝罪した。
『山田君本当に皮むき上手すぎ~』
『切るのも上手いよ!!』
『料理できる男子っていいよね!!』
「山田、本当に料理上手いよな、誰かに教えてもらったのか??」
「母の日に姉さんと毎年作ってるし、たまに普通の日でもやってるからかな」
「山田……良い奴だな」
「普通だろう??」
女子が僕等の会話を聞いて『尊すぎるよ……』と言ってポーッとしている。同じ班の女子三人は特に近くで山田を見すぎて、山田の声を聞きすぎてなんだかおかしくなっている。やっぱりコイツは魔法使い、いや、魔王?? フェロモンマシーン??
「あ、いやごめん山田」
「何が」
「フェロモンマシーンは流石に失礼だよな」
「はぁ??」
「いや、本当に悪い事を言った」
「言われてない」
「え??」
「そんな事考えていたの?? マジで失礼なんだけど」
「うわっ、もう何が考えている事か言った事か分からなくなっているっ!!」
「はぁ、料理もしているしね……別にいいけど」
なんだかんだいろいろありながらもしっかり料理は出来ていく。今日は肉じゃが、みそ汁、ほうれん草の和え物だった。女子より僕より誰より山田が頼りになった。結局味付けとかも山田に任せてしまったし。しかも味見すると美味い、正直おふくろの味って感じだった。
「山田、お前出来ない事ってないのか??」
「え、あるよ」
「えー、なになに!?」
「気になる~」
「私も聞きたいっ」
同じ班の女子達も会話に入ってくる。
「うーん……うーーーん……あっ、シャンプー」
「は?? シャンプー??」
「うん、今でもシャンプーハットつけるよ」
「うそ、山田君、子どもみたい……」
お、これは引いているか!? 珍しい。ってか山田は恥ずかしくないのか?? 出来ない事でそれしか浮かばないって事は出来ない事なんてほとんどないって事じゃないか。くそー、イケメンめ。
『ねぇねぇ、山田君シャンプーハット使ってるんだって!!』
あ、言いふらしている。やっぱり悪い方に……
『えー、ホント!? 可愛すぎるよ~』
『たっ、たまらない!!』
『きゃー!!』
『私も今日買って帰る』
『私も!!』
『皆で買いに行こう!!』
その後うちのクラスではシャンプーハットが流行りだして学年中にまで広がった……凄いなコイツ。
――料理上手な山田は無自覚だ。




