9話「非才無能、買い物に行く」
「多様。色々な服がありますね」
「本当にな」
屋台で腹ごしらえを済ませた俺たちは服屋に入っていた。
ここは大衆向けの店で、多種多様な服を売っている。
だから、マリィが気に入る服もあるかと思ったのだが。
「……困難。多すぎて、決めるのが難しいです」
「同感だ」
俺は、なんだかんだで甘く見ていたのかもしれなかった。
二人で実際に服を見れば決まるだろうと思っていた。
だが、実際にこうやって服を見ると何がいいのか迷ってしまう。
そんな風に、困り果てている俺達を見かねたのか。
「お客様、何かお困りでしょうか?」
明るいオーラを身にまとった、女性の店員が声をかけてくれた。
俺は一歩前に出て事情を説明する。
「実は彼女の服を探してるんですが、いいものばかりで迷ってしまって」
「なるほどなるほど」
店員はうんうんとうなずいて、顔を上げ、自信ありげににやりと笑う。
「当店はさまざまな服を取り扱っております。折角ですから用途をイメージしてみませんか?」
「用途?」
「はい、服を着て何をしたいかをイメージしていただければおのずと良い服が見つかるはずです」
なるほど。
日常で買い物をするための服と、迷宮に潜るための服は違う。
どんな服を着たいかもわかっていないマリィのような人間には有効かもしれない。
俺はマリィの方を向いて尋ねた。
「マリィ、どんな用途を想定してる?」
「奉仕。モミト様に誠心誠意ご奉仕したいですね」
「は?」
「え?」
俺と店員の口から困惑の声が漏れる。
店員が引きつった顔を浮かべる。
おそらくだが、俺も似たような顔をしていることだろう。
「ええと、お客様?」
「補足。私はモミト様に身も心も捧げております。なので、それに最適な服装が欲しいのです」
「……な、なるほど」
店員がドン引きした目で俺を見ている。
いや待ってほしい。
違うのだ。
確かに客観的に見たら「恋人に様づけで呼ばせる高度なプレイを行っている変態」か、あるいは「従者に手を出す変態貴族」くらいに思われてるかもしれないがそうではないのだ。
しかし、俺が訂正する間もなく。
「で、では服を用意してきますね!」
店員が足早に立ち去っていった。
「ああ、待って……」
このままでは俺が変態という誤解が広まってしまう。
無能呼ばわりされるより、変態扱いされる方が辛いんだ、ということを俺は初めて学んでいた。
「完璧。これで、私達の需要を満たす服を手に入れることが出来ますね」
「そうかな……そうかも」
せめて公衆の面前で着れるものであってくれ。
俺はそう祈りながら、深々とため息をついた。
店員が戻ってきたのはわずか十分後のことだった。
「はい、こちらいくつか服をご用意しました」
「感謝。ありがとうございます」
店員は、いくつかの服を紙袋に入れて持ってきたようだった。
何が入っているかはわからない。
マリィはほくほくしながら服を抱えて更衣室の前まで歩いて行った。
当然、俺もついて行く。
ふと、マリィが振り向く。
「警告。モミト様」
「何?」
「禁止。のぞかないでくださいね」
「のぞかないよ?」
更衣室のカーテンを開けて、マリィが中に入る。
カーテンから首だけを出して、マリィは表情を変えないまま口を開く。
「復唱。絶対にのぞかないでくださいね?」
「だからのぞかねえよ!」
何がしたいんだこいつは。
言われなくてものぞいたりはしないというのに。
くすくす、という声がして、俺はそちらにぶぜんとした顔を向ける。
「愛されていますね」
「あはは、そうかもしれませんね」
出会って二日目なので、マリィのことはよくわからない。
そもそも、愛されるというのがどういう感覚だったか思い出せない。
昔は、愛を受けていたはずだが。
両親を早くになくし、同時に妹が黄金病になってしまったのだから、仕方ない。
「はい、まずはメイド服ですね」
「おお……」
フリルがあちらこちらにあしらわれたクラシカルなメイド服。
ロングスカートを基調としているそれは、可愛いというよりは美しいという言葉がぴったりだった。
彼女の金髪と、青い瞳によく映えている。
「どうです、似合いますよね?」
「え、ええ、まあ」
不覚、というべきか。
つい、見惚れてしまっていた。
「他にもまだありますけど、試着してみますか?」
「肯定。一度着てみますね」
店員に他の服を渡されて、また着替えを始める。
「では次ですね」
ミニスカメイド服。
先ほどと違うのは、圧倒的に露出度が高いという点。
肩が、健康的な太腿が、眩しい程の白さを全力で主張している。
「質問。ご主人様、いかがでしょうか」
「まあいいんじゃないか?」
「納得。ご主人様はむっつり、と」
「誤解だぞ?」
確かに目をそらしてしまったかもしれないが、それは正常な反応なので問題ない。
「では最後に」
店員が、布の塊を見せてきた。
それは、黒いひらひらした小さい布で。
マイクロビキニだった。
「疑問。これは、服なんですか?」
「ええですから、ご奉仕に最適な服装を、と」
「誤解だから、そういうのじゃないから!」
俺は叫んだ。
ここで誤解を解いておかないと、致命的な誤情報が広まってしまうと思ったから。
「はあ、わかりました。ですが……」
店員さんは俺の耳に顔を近づけると。
「見たく、ないんですか?」
「…………いや別に」
「反応に間がありましたけど」
「と、とにかくそんなものは買いません!」
「承諾。モミト様が本心から望まれているのであれば、私は受け入れますが」
「だから!別に!望んでるなんて一言も言ってないだろ!」
俺は顔を真っ赤にして叫んだ。
「お客様、店内ではお静かに」
「あ、はい。すみません」
結局、マリィはクラシカルなメイド服を選んでいた。
本人曰く、これが一番反応が良かったからとのこと。
別に否定はしないけど……俺そんなにわかりやすかっただろうか?




