57話「非才無能、終わって始まる」
俺の朝は、まずルーチェとマリィを起こすところから始まる。
二人の意識が完全に覚醒する前に簡単な朝食を用意する。
三人分の食事を作るのも、一週間もすれば慣れた。
そもそも、〈聖女の英雄〉にいたころは五人分の食事を作らされていたんだからどうということはない。
ルーチェを学校に送り届ける。
「じゃあ、行ってきます」
「出勤。頑張ってきますね、ルーチェ様」
「うん、いってらっしゃい」
そうして、俺とマリィは冒険者ギルドに向かっていた。
「本当にいいの、モミトちゃん」
ダンジョンへの道中、ナナミに訊かれた。
余談ではあるが今日は三十階層、ではなく少し浅めの二十階層に潜る予定だった。
ルーチェの学校への編入手続きや、俺自身のリハビリなどで一か月ほど俺は冒険者活動を辞めていた。
その間、〈裁断の剣〉のメンバーたちは思い思いにクエストをこなしながら、俺が帰ってくるのを待ってくれていた、らしいとメルフィーナから聞いた。
ちなみにそのメルフィーナと、リップはこの場にはいない。
彼女たちは臨時メンバーだし、仕方がない気もする。
メルフィーナにいたっては、やはりギルド職員の仕事が忙しいらしく、しばらく冒険者としての仕事はしばらく難しいと言っていた。
俺も彼女を忙しくしている要因の一人であるため、あまり強くは言えなかったのを覚えている。
「なにがだ?」
「いや、ルーチェちゃんを取り戻したのに、冒険者のままでよかったの?」
「ああ……そのことか」
正直、冒険者を引退するというのも考えなかったわけではない。
むしろ、リスクなどを考えれば真っ先に選択するべき道だった。
今回もそうだったように、冒険者は死と隣り合わせの仕事だ。
ハーゲンティを倒したことで、特別報酬をもらうこともできた。
蓄えは十分あるし、引退してのんびりと余生を過ごすという生き方だって確かに間違いじゃない。
「色々考えたんだけどさ」
「ほう」
「はい?」
「うん?」
これまでの人生は、ずっとひたすらルーチェを取り戻すための戦いだった。
彼女を復活させることだけが、俺の人生の意味で、ゴールだった。
けれど、それは達成されて。
では、これからどうしようかなと俺は一か月、途方に暮れた。
そして、気づいたことがあった。
体調が戻るまでのひと月、マリィはルーチェの面倒を見ながら、俺の世話もしてくれた。
ナナミやリップ、シャーレイにヒュンリという仲間たちが見舞いに来てくれた。
ギルドマスターや、『黄金病』の患者だったという人たちも訪ねてきて、お礼を言って帰っていった。
「目的だったもの以外にも、得たものがたくさんあったことに気付いたんだよ」
だから、俺は歩み続けたいと思った。
これまでやってきたことに間違いはないと、思うことが出来ているから。
その生き方は欲張りかもしれないけど、それでもいいと、そう思いたい自分がいたから。
「だから続けるよ。妹のいるこの街を守りたいしね」
「八割くらいそれが本音だったりしない?お兄さん」
「あはは、ばれたか」
「で、でも、続けてくれてよかったです」
シャーレイとヒュンリも、嬉しそうだ。
これでよかったんだと、思うことが出来た。
「じゃあ、クエストに行きますか」
「「「「おう!!」」」」
今日も、俺達はこうして生きている。
明日も、笑っていられると信じて。
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