34話「非才無能、交渉する」
俺と向き合った相手。
メルティーナは、頬に手を当てて考え込むような動作をした。
「逆に、私でいいの?確かに私はもともとAランク冒険者だけれどもブランクだってあるし、戦闘向けじゃないわよ?」
「知ってます。ただ、俺達には回復役が必須なんです」
アタッカーとしての俺やシャーレイ。
タンクはヒュンリ、そして斥候としてナナミがいる。
あと役割として足りていないのはたった一つだけ。
回復役だ。
ポーションを使っての回復はできるが、あれは自分で服用しないと効果が出ないし、回復量に上限もある。
回復魔法を使える回復役の確保は、今後活動を続ける上では必須と言ってもいい。
ただ単に、ダンジョン三十階層を突破したいからというだけではないのだ。
「回復役はパーティの生命線でもある。信頼できるあなたにお願いしたいんです」
「それだけじゃないでしょう?」
にこにことほほ笑んでいる。
「加えて、もう一人のメンバーも集めたい。後衛がもう一人いると、安定感が増すと思ってる」
俺も《裂空斬》で後衛の真似事ができるが、現状火力担当をシャーレイ一人に任せてしまっている。
これはあまりいいこととは言えないだろう。
「条件だが――」
「わかったわ」
「え?」
「あら?」
「いや、まだ報酬分配の条件とか……」
「構わないわ。大方、定石通りの分配でしょう?報酬についてはそれで構わないもの」
それは、冒険者を長くやっているが故の知見か、あるいは俺への信頼なのか。
どちらとも、俺には判断がつかなかった。
「いいんですか?俺達と組むってそんなあっさり決めちゃって」
「いいのよ。お姉さんこう見えて、かなり強いんだもの」
「それは知っていますが……」
Aランク冒険者でもある彼女に対して、余計な気遣いが不要であるとも思っている。
「あのね、そもそも私はいろんなところにヘルプに入ることが多いの」
「はい、知ってます」
回復役が貴重ということもあって、メルティーナは色々なパーティと組むことが多い。
「それゆえに、そして冒険者ギルドに努める医師として理解しているのよ。貴方達が今、どういう状況にいるのかってね」
「…………」
「結成からわずか一か月でAランクにまで上り詰めた、今最も勢いのあるパーティ、それが『裁断の剣』に対する評価よ」
「分不相応ですよ。少なくとも、俺にとっては」
「ご主人様……それは」
「違わないよ、マリィ」
『裁断の剣』の功績として、Sランクモンスターの討伐というものがある。
そこに俺がかかわらなかったとは言えない。間違いなくオリハルコンゴーレムを討伐したのは俺とマリィだ。
けれど、あれはあの場にいた冒険者全員の功績でもある。
たまたま、すべてを断ち切る効果を持った、あらゆる場面で切り札足りえる魔剣。
それを俺が手にしていただけで。
まるで、俺やパーティだけの功績としてしまうのは乱暴すぎる。
「それでも、君達が破竹の勢いで進み続けているのは確かなのよ。少なくとも、私が一冒険者として組みたいと思う程度にはね」
「…………っ!」
それがすごくうれしかった。
「それに、君がずっと頑張ってきたのも知っているから」
母親のような、慈愛に満ちた目で彼女は俺を見ている。
「貴方を手伝わせてほしい。貴方の願いが叶うように、協力をしたいと思っているの」
「ありがとうございます……」
俺は、深々と頭を下げた。
ちなみに。
「お会計を……」
「あらあら遠慮しないで?今日はもう払ってあるから」
「メルティーナさん?」
「もぐもぐ、では遠慮なく食べていいということですね」
そんなやり取りがあったということだけ、付け加えておく。




