22話「非才無能、撤退する」
「死んだのかい?」
「いいや、止血したからなんとか命は助かるはずだ」
ナナミの《バインド》で拘束と止血を同時に施してもらい、何とか一命はとりとめた。
危ういところだった。
「ちょっと訊きたいんだけどさ、アタシが言うのもなんだけど、こいつら殺さなくていいわけ?」
「あー」
まあ確かにナナミの言うことも一理ある。
ダンジョン内であろうと殺しは犯罪だが――襲われたことへの正当防衛ならば話は別だ。
少なくとも、俺達が法で罰せられることはないだろう。
「だめなんだ、俺は人を殺してはいけない」
「それは、どういう?」
「ギルドマスターと約束したんだ」
「ああ……」
それでナナミにも通じたようだった。
ギルドマスタ―が俺に課した条件は、誰も殺さないこと。
そしてそのラインを一度でも踏み越えれば、俺は彼によって処刑され、マリィは再び封印される。
正当防衛だったとか、そういう言い訳はあの男には通じない。
「とはいえ、俺が約束してるのはあくまでも俺は殺さないってことだけだ。だからナナミがどうするのかは好きにすればいい」
「なるほどねえ」
ナナミは、ちらりとぼろ雑巾のようになった男たちに視線を向ける。
「……ひっ」
縛られた彼らは青ざめてぶるぶると震えている。
それは恐怖からなのか、あるいは出血のし過ぎかはわからない。
「やめとくよ。アタシにこいつらを処断する権利なんてないしね。官憲に引き渡すさ」
「運べるか?」
「縛ったまま歩かせればいいよ。アンタが剣を突きつければいうこと聞くだろうし。暴れたらその時はアタシが殺せばいいしね」
「なるほど、そういう手があったか」
これだけの人数を移送するのは無理があるが、彼らに歩いてもらえばそれも解消する。
「じゃあ、ナナミに先頭を歩いてもらって俺が殿を務める感じで……」
「モミトちゃん、まずい」
「?」
「接敵。何かが来ていると思われます」
「!」
言われて気づく。
地響きが近づいている。
重量を感じさせる、地鳴りのような足音。
間違いなくネオジムドラゴンと同等以上の相手。
それが、多数近づいている。
「だったら、斬るしか」
「何してるんだバカ!逃げるんだよ!」
マリィを構えようとして、ナナミに手を引かれる。
確かに、この数のモンスターは到底対処しきれない。
逃げるよりほかないだろう。
「ま、待ってぎゃあああああああああああああああああああああっ!」
悲鳴と、肉が潰れるような水音を置き去りにして、俺達は走り去った。
走って、去った。
◇
「キキッ、いやあ期待はしてなかったけどさ。まさかこうもあっさりと勝っちゃうとはねえ」
彼は、夜盗である彼らに依頼をした人物だった。
アンドロマリウスとその所有者であるモミトに興味を持ち、アンドロマリウスの確保とモミトの殺害を依頼したのである。
しかし、結果は失敗。
野盗たちはモミトに敗北し、無様にその屍をダンジョンにさらすことになった。
彼らの死骸を見下ろす依頼者としては、特に残念だと思わない。
ただただ、一つのプランが崩れただけ。
「なんとしてでも手に入れたいなあ。あの魔剣。おや、終わったか」
彼の周りには、気づけばヘルハウンドは一匹もいなくなっていた。
いるのは、オリハルコンゴーレム。
その、群れ。
街一つを半壊に追い込んだSランクモンスターが、五体。彼を覆うように取り囲んでいる。
しかし、彼に動揺はない。
なぜなら。
「機動力にやや難があるな。次のシリーズはそういうのを意識して作ってみるか」
そのゴーレムはすべて、彼が自らの手で作ったものだから。
「とりあえず手に入れるぞお。キキッ、コレクションに加えよう。そして回収フェーズへと移行しよう」
余人には理解出来ぬ発言を残し、彼は笑う。
その笑い声は、誰の耳にも入っていなかった。
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