11話「非才無能、目的を明かす」
「おはよう……」
「起床。おはようございます、ご主人様」
パジャマ姿のマリィが、目をこすりながらソファに敷かれた毛布から這い出して来る。
かわいい。
メイド服とは別に、私服も購入していたりする。
当然の話だ。だってメイド服でずっと過ごしていたら窮屈すぎる。
ちなみに二台目のソファも購入した。
服を着ていたとしても、同衾していれば理性が崩壊してもおかしくないためである。
「質問。今日はどうされますか?」
「んー、やっぱりクエストかな」
マリィがいる今、討伐系のクエストもこなせるはず。
荷物運びなどより、そっちの方がよほど実入りがいいし、目的にも近づける。
「質問。どうして、クエストを受けるのですか?」
「んー、お金を稼ぐのと、あとはランクアップのためだな」
「疑問。どうして、お金を稼ぐ必要があるのですか?」
「それそんなに不思議か?」
「肯定。先日、ご主人様はゴーレムを討伐されました。あれでかなりの大金を得たはずです。それこそ、しばらくは働かなくても生きていけるほどの」
「あー」
まあ確かに。
パーティをクビになった俺が、どうして何も心配せずにマリィの生活用品をそろえているのかといえば、お金に余裕ができたからだ。
街に大きな損害を与えながら、俺以外の誰にも倒せず、Sランク認定されるに至ったオリハルコンゴーレム。
魔法で強化されていたのか、オリハルコン製の武器でも傷つけることが出来なかったらしい。
そして、俺は討伐報酬と回収した素材の八割を得た。
俺は一割でいいと言ったのだが、周りの冒険者が納得しなかったのだ。
ともあれそんなだから、別にお金には困らない。
彼女が俺の行動に異議を唱えるのも理解できる。
だからこそ、俺は彼女に説明する必要があった。
俺の戦う理由を。
「厳密にはちょっと違うな。お金を稼ぐんじゃない。大金を稼ぐか、ダンジョンを踏破したいんだ」
「……?」
「見て欲しいものがある」
俺の部屋には、シングルベッドがある。
当然の話だ。むしろない方がおかしいだろう。
しかして、俺が寝るためにベッドを使ったことはない。
この部屋で暮らし始めてからずっと、ソファで寝ている。
では、どうしてベッドを使わないのか。ベッドには何があるのか。
「疑問。前々から疑問ではありました」
「まあそうだよな」
ベッドに横たえられているのは、黄金の像だった。
この部屋に住み始めた時から、ずっとそこにある。
端的に、彼女の外見を説明するなら「黄金の美少女像」。
黄金で構成されていながら、まるで本物の人のように精巧だ。
睫毛の一本一本まで、人と変わらない。
まあ無理もないだろう。なぜなら彼女は――モノではない。
「質問。これは、一体」
「妹だ」
声が鋭くなる。
これ、といわれたことに対してつい感情的になってしまったらしい。マリィに当然悪気はないだろうに。
「俺の妹、ルーチェ・イクスキューションは『黄金病』という病にかかっている」
黄金病とは、文字通り肉体が黄金に置き換わる病気である。
肉体が金属になるなら死んでいるのではないか、と言われがちだが――死んではいないらしい。
死ねば肉体から魂がはがれて消えるとされているが、彼女の魂はいまだに肉体から離れていない。
つまり生きてはいる。
ただし、肉体は変化しない。
老いることも、成長することもない。病めることも、死ぬこともない。
静止している。
「このことは、俺と君を除けば同郷のライラックしか知らない。理由は言わずともわかるよね?」
「守護。盗人から彼女を守るためですね」
「正解」
なにせ見方によっては黄金の塊だ。
売り払おうとする人間がいてもおかしくはない。
「そして、現在『黄金病』を治す方法は一つしかない。どんな病気でも治せるという、『万能霊薬』を入手することだ」
「……!」
ようやく得心が言ったという顔をマリィは浮かべた。
「『万能霊薬』を入手するには迷宮の最奥部で手に入れるか、あるいは手に入れた冒険者から買い取る必要があるが――時価でも十億ゴルはくだらない代物だ。早々手に入るものじゃない」
「高額。十億というのは、あまりにも高すぎませんか」
「仕方ないよ。万病に効くうえに、出回っている数が少ないんだ」
先日倒したオリハルコンゴーレムがらみの報酬が四千万ゴルだった。
あと最低でも、九億六千万ゴルを手に入れる必要がある。
Sランクモンスターを倒せただけでも、望外の幸運だった。
それがあと二十数回も続けられるとは到底思えない。
「納得。だからあなたは冒険者をやっているんですね?ダンジョンの深層で『万能霊薬』を手に入れ、妹を救うために」
「そうなんだ」
俺は改めて重々しくうなずく。
「では、早くダンジョンに行かなくてはいけませんね」
これまでは、届かない目標でしかなかった。
【非才無能】で戦闘能力を得られない俺は、あらゆる場面で足を引っ張る存在でしかない。
ライラックが、引っ込んでろと言うのも、俺をクビにしたのも無理のない話だ。
「けれど、今は違う」
ダンジョンの深層に行くか、あるいは十億を稼ぐか。
いずれかを達成すれば、ルーチェを救える。
俺は、口を開いて、改めて決意を固めて宣言する。
「『万能霊薬』を手に入れて、妹を救い出す。付き合ってくれるかい、マリィ」
「当然。どこまでもお付き合いいたしますよ、モミト様」
確かに、絆が深まっていくのを感じた。
「じゃあ、行こうか」
「承知」
俺達は、部屋を出て,冒険者ギルドへ向かって歩き出した。
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