1話「非才無能、追放される」
「モミト・イクスキューション、お前をうちのパーティ、〈聖女の英雄〉から追放する」
多くの人のざわめきが聞こえる冒険者ギルドの酒場でも。
リーダーのライラック口から放たれた唐突かつ無慈悲な宣告は、はっきりと聞こえた。
俺は癖のある緑色の髪が生えた頭からだらだらと汗を流し、ジョッキが振るえる手からこぼれて、ビールが木のテーブルにしみこんでいく。
俺は唾を飲み下すと、何とか冷静さを取り戻し、口を開いた。
「ちょっと待ってくれ、ライラック。いったいどういうことなんだ?理由を訊かせてくれないか?一度話し合いを――」
「理由だと?」
瞬間、ライラックが、拳をばんっとテーブルにたたきつける。
皿やジョッキが振るえるのに合わせてびくり、と俺の体が震えた。
これはまずいと、俺の記憶と経験が告げている。
「それはお前が無能で、何の役にも立たないからだろうが!」
ライラックは三白眼で、俺を含めたテーブルを囲むパーティメンバーを睥睨する。
俺は、身体が震えて動けない。
「いいか、うちの〈聖女の英雄〉のメンバーには概ね役割があるんだよ。まず、リーダーにしてアタッカーの俺」
ライラックはまず自分を指で示し。
「次に、【騎士】の恩寵を持ち、圧倒的な防御力を誇る、パーティの盾ことガードナー」
鎧に身を包んだ大男、ガードナーは無言でうなずき。
「【賢者】の恩寵を持ち、後衛での火力を補ってくれるフレア」
「ちょっと、私がサブみたいないい方辞めてくれない?まあ否定はしきれないけど」
ローブに身を包んだ赤毛の少女、フレアは巻き毛をいじりながら、ライラックをにらんだ。
「そして、【聖魔術】の恩寵を持ち、回復役を担ってくれている、セイラだ」
「……かたじけないです」
紺色の修道服に身を包んだ、銀髪の少女、セイラはぺこりとうなずいた。
とはいえ、これはあくまでも俺がよく知っている情報だ。ことさら振り返るまでもない。
そしてライラックの発言に同調していることから、どうやら、誰も俺の味方をしてはくれないらしいということも、よくわかった。
そしてもう一つ、彼が何を言いたいのかもよくわかる。
すべて本題の、前振りでしかないのだから。
「さて、質問だ。パーティの面汚し、ゴミト君の恩寵はどういうものだったかな?」
「……【非才」
「はい時間切れバーカ!【非才無能】の馬鹿野郎は、答えるのも遅えなあクズ無能が!」
人類は、生まれた時点で神から恩寵を授かる。
恩寵に応じて、ステータスが上がったり、スキルを習得できる。
例えば【雷魔術】の恩寵を持っていれば、魔力や精神力など魔法に関するステータスが上昇し、《ライトニングボール》や《サンダースピア》などの雷魔法を習得できる。
【拳士】の恩寵であれば耐久力や筋力、敏捷性が向上し、《格闘技術》などのスキルを覚えることが出来る。
要するに、恩寵とは人に強大な力を与えるものであり、成長の方向性を決めるものだ。
生まれた時から自分の進路、職業が決まっていると言えばわかりやすいだろうか。
ただ一つ、俺の恩寵、【非才無能】を除いては。
「お前の恩寵【非才無能】は、どんなスキルを覚える?どのステータスが上がる?」
「…………」
「答えられないよなあ?だって、何も覚えないし何も上がらないもんなあ?ギャハハハハハハハ!」
ライラックは、腹を抱えて笑う。
他の三人も、口元を抑えて失笑していた。
今更、それで傷ついたりはしない。
この扱いにはもう慣れている。
何より、事実だからどうしようもない。
俺の恩寵、【非才無能】の効果は、文字通りあらゆる不自然な成長を拒否するというものだ。
レベルは上がらず、ステータスは伸びないし、スキルは習得できない。
それどころか、他者からのステータスバフすらも無効化してしまう。
生まれながらに何もできない、存在価値のない無能。
それが、俺ことモミト・エクスキューションという人間だった。
パーティでも戦闘の役には立たず、荷物持ちをはじめとした雑用をするのが精いっぱいであった。
「ま、幼馴染だったお前を見捨てるのも悪いと思って仕方がなく今までパーティに入れてやってたがな?囮兼雑用をやらせるのもさすがに限界が来ているってわけだ」
「ライラック、俺は」
「うるせえな《サンダー・スピア》」
異を唱えようとした俺に、ライラックは人差し指を突きつけ、詠唱する。
直後、彼の指から雷の槍が飛び出し、俺の右胸を貫通した。
「あ、が、あ、ひゅっ」
肉の焦げるにおいと、身体を焼かれ貫かれた痛みが脳を刺激する。
加えて、呼吸がままならず息苦しい。
肺を貫かれたらしい。
「ちょ、ちょっと待てライラック。流石にやりすぎじゃないか?」
「そうよライラック、ギルド内での暴力はご法度よ?」
ガードナーとフレアがライラックを咎めているが、彼はどこ吹く風といった様子で気にも留めない。
「いいじゃねえかよ別に。そもそも、こんなゴミ、死んだほうがいいだろ?ま、片肺潰れたくらいじゃすぐには死なねえけど」
ライラックはガタリと立ち上がると、俺の背後に回り、顔を持ち上げる。
「いいか、ゴミト君。お前は無能なんだから、何もできないんだから、何もしようとするんじゃねえ。ダンジョンは俺達が攻略する」
「あ、う」
それだけ言うと、ぱっとライラックは顔から手を離して。
俺は勢いあまって、テーブルに顔をぶつけた。
痛みと屈辱と呼吸苦で、俺はしばらくその場から動けなかった。
「行こうぜお前ら、そんな無能は放っておいてよ。ギャハハハハハハハ!」
「お、おう」
「そうね」
「お元気で……」
ライラックと三人が、モミトから離れる足音が響く。
「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
鳴り響く。
ガンガンと、ぐわんぐわんと、悪意に満ちた哄笑が酒場内に、そして俺の脳内に響く。
肺が潰れた状態では彼らを止めるどころか抗議することすらできず。
そうして、俺は元居たパーティ、〈聖女の英雄〉をクビになってしまった。
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