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失恋から前世に目覚めた公爵令嬢 ~最推し目指し、デッドオアアライブに抗ってみた~  作者: 安ころもっち


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第十三話


 王都の政治的な嵐は、アドリアン殿下とセシリア公爵令嬢の真実の愛の布告をもって収束へと向かった。


 同時に、旧貴族体制の経済基盤は崩壊し、新たな権力構造を支えるための商流と資金源が求められるようになった。


 ゴールデン商会長令嬢イザベラは、その激動を商会の管理棟最上階から見下ろしていた。


 イザベラは亜麻色の髪を完璧にまとめ上げ、深紅の質の高い衣服を身に纏っている。


 彼女の姿は貴族の令嬢というよりも、全てを掌握する辣腕な商会会長そのものであった。


 鋭い赤銅色の瞳は常に数字と利益を追い、一切の感傷を許さない性格を体現している。


 彼女は王太子アドリアンへの求婚が失敗に終わり、王妃の道が完全に絶たれたという事実を既に受け入れている。


 王太子であるアドリアン殿下は、王国という巨大な盤面全体を動かすほどの覚悟と知性を持った女性、公爵令嬢であるセシリアを選んだことになんら戸惑いは感じなかった。


 かつてイザベラは、自身の持つ経済力と情報網こそが、殿下にとって最も必要な武器だと考えていた。


 だが殿下と共に歩む道を獲ることができたのは、財力だけではなく、自らの命を懸けて理想の未来を創造する強き力を持った協力者であったのだ。


 最高の伴侶を得ることのできなかったイザベラは考え抜いた末、自身に残された道一つしかないと判断した。


 それは失われた愛を嘆くことではなく、商会という自らの牙城で、誰もが抗えない力を築き上げることであるのだと、そう考えた。


 イザベラは即座に殿下に対する感情的な全ての残滓を切り捨て、商会の運営に全身全霊を傾けることに専念することを決め、自らの行動で商会全体の道筋を示してゆく。


 旧貴族の粛清は市場に大きな混乱と同時に、巨大な商機をもたらしていた。


 没収された貴族の資産、途絶えた供給ルート、そして新たな王室御用達の権利など。


 イザベラはその全てを冷静に分析し、商会の力を最大限に活用した。


 彼女は貴族の資産が王室に流れる前に、それらの不動産や担保を適正価格で買い取るための特別な投資網を立ち上げた。


 また、貧困層への食料と必需品の供給を迅速に行い、王都の混乱を鎮めることにも大きく貢献した。


 これによりゴールデン商会は、単なる利益追求の集団ではなく、王国の安定に不可欠な存在であるという確固たる地位を確立することができたのだ。


 商機を見定めたイザベラの動きは速かった。


 そしてその経済的手腕は、新体制の中枢にいるセシリア公爵令嬢の目にも留まることとなった。


 セシリアはアドリアン殿下と共に、貴族の特権に依存しない公正な税制、当たらな商業法を構築する必要性を認識していた。


 その実現には、旧来の貴族とは一線を画す巨大かつ清廉な商会の協力が不可欠であると理解していた。




 ある日の午後、イザベラはセシリア公爵令嬢から公爵邸での非公式な会談の招待を受けた。


 イザベラは当然ながら、その招待を快諾した。


 公爵邸の応接室には、公爵令嬢であるセシリアが待ち受けていた。


 セシリアは淡い青のドレスを纏い、普段と何ひとつ変わらぬ優雅さと知性的な美しさを保っている。


 以前と違うのは、その立ち居振る舞いに王国の未来を担う女性としての揺るぎない自信と、誰にもひれ伏さないという強い威厳が加わっている点である。


 彼女の魅惑的なアメジスト色の瞳に見つめられ、緊張を高めたイザベラを、思いのほか温かく迎え入れられたことに安堵する。


「イザベラ殿、お忙しい中、お越しいただき感謝します」


 セシリアは、落ち着いた口調で挨拶した。


「セシリア様。貴女からの招待とあれば断る理由はありません。貴女が今、王国の実質的な最高権力者であることは理解していますので」


 イザベラは素直にそう答えた。


 二人は席に着くと、互いに無駄な駆け引きをせず本題に入った。


「私が貴女を招待したのは他でもない。ゴールデン商会の持つ経済力と、貴女の経営手腕を評価しているからです」


 セシリアは紅茶を一口飲み、まっすぐにイザベラを見据えた。


「セシリア様、私は貴女の国の未来を想う覚悟は、私の想像を遥かに超えていましたた。私は貴女を、深く尊敬しています。お役に立てるのなら、この私を、ゴールデン商会をお役立て下さい」


 イザベラはセシリアを認め尊敬していると口にした。


 そして自らを売り込んだ。


 彼女なら無下に使い潰すことはしないだろうと、イザベラは確信していたからこその言葉だ。


 セシリアは静かに笑みを作る。


「その言葉、感謝します。私は、王国の全てをより公正で、かつ効率的なシステムに移行させるために、貴女の力が必要だと感じています」


 彼女は、テーブルの上に広げられた王都の地図を指さした。


「この王国には、貴族の不正な商売ではなく、貴女のような商才を持った人間による健全な経済活動が必要不可欠です」


 セシリアは、真っ直ぐにイザベラを見ながら言葉を続ける。


「貴女はこの混乱期に王都の食料供給を安定させ、貴族の崩壊によって生じた市場の穴を即座に埋めた。それは一国の宰相にも劣らない手腕でしょう」


 セシリアの言葉はイザベラの自尊心を刺激した。


 イザベラにとって、自分の能力を正当に評価されることは何よりも価値があることであった。


「セシリア様、貴女の評価、大変光栄に思います」


 イザベラは、表情を変えず頭を下げる。


 そんな彼女を真っ直ぐに見つめるセシリア。


「そこで、私から貴方へ提案があります。アークライト公爵家とゴールデン商会との間に、新しい協力関係を構築したいと思っています」


 その言葉に瞳を輝かせた快諾したイザベル。


 セシリアは、イザベラに対し具体的な提案を始めた。


「公爵家は、殿下の新体制における全ての商業法案の策定を主導する形となります。貴女には、その法案が市場で正しく機能するかどうか、経済的な観点から助言してほしいのです」


 その提案にイザベラは驚きを隠せなかった。


「その代わり、ゴールデン商会には新設される王室御用達の供給ルートの優先権を与えることとします」


 イザベラは冷静を装いながら、心の中では大きく混乱していた。


 この提案は、ゴールデン商会にとって過去のどの貴族との取引よりも強固で、永続的な利益をもたらすものであった。


 それは単なる取引ではなく、王国の経済を共に支える「公的な地位」の付与に等しい。


 それに、代償となるべき助言についても、いわば自身の言葉で政治が動く可能性を秘めているという重責を担えるものであった。


 はっきりと言えば、彼女にとってのデメリットが一切なかったのだ。


 助言という自身にとって甘美なご褒美的な立場を与えられ、さらには商会としても優先権という過大な報酬が与えられる。


 イザベラはセシリアの提案の裏の裏を必死で考察した。


 しかしそれは見つからず、狼狽えながらうなずいて見せた。


 うなづいた彼女に対し、冷静に契約についての話を始めたセシリア。


 それを見てイザベラはやっと理解したのだ。


 目に前のセシリアという人間は、自身の邪魔をする者を一刀両断に排除する冷徹さを持つ一方、王国の利益のためならば、過去の因縁の有った者さえも利用し、もっとも離れがたい報酬を与え、取り込む策略に長けているのだと。


「貴女は、私が持つ殿下への未練が、貴女たちの足かせになるとは考えないのですか?」


 イザベラは驚いて自身の口を両手で塞ぐ。


 胸中にしまい込んでいたはずの恋心を。


 すでに整理できていたと思っていた思いを。


 それらをさらけ出してしまう疑問を。


 彼女は思わず口から出てしまったことに冷たい汗が流れる。


 そんな彼女にセシリアは微笑みながら答えた。


「貴女は、恋に溺れるような愚かな女性ではないでしょ?」


 途端、目の前の公爵令嬢は、同世代の年頃の女性のような笑みを見せた。


「貴女の愛慕の矛先は、常に商会の発展にあるのでは?貴女にとって私との協力関係が、殿下への想いを続けることよりも、遥かに大きな利益をもたらすことは明白だと、すでに貴女の心は理解しているのでしょう?」


 心の内を言い当てられ、恥ずかしさに頬を掻くイザベラ。


「私は貴女の合理的な考えと、その知性を疑うことなく信頼しています」


 元の冷静な表情に戻ったセシリアの言葉は、イザベラの心を完全に射抜いていた。


 イザベラは立ち上がり、セシリアに向かって深く頭を下げた。


「セシリア様。貴女の提案を受け入れ、今この時より、ゴールデン商会は王国の新しい経済基盤となりましょう!貴女は殿下という最高のパートナーを手に入れた。私は、王国という最大の市場を手に入れる!

 貴女が、私にこの機会を与えてくださったことを、私は絶対に後悔はさせません!」


 この瞬間、イザベラの瞳に新たな野望の炎が宿った。


 彼女は愛を失ったが、その代わりに王国の経済を支配しうる力を手に入れるチャンスを得たのだ。


 こうしてゴールデン商会は、旧貴族に代わる新たな経済の柱として、王室と公爵家の強力な後ろ盾を得た。


 二人の女性の間に堅固な協力関係が構築され、王国は新たな局面を迎えるのだ。


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