表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

運命が動き出す時

黒衣の森の旧街道で森の獣に襲われた二人の男を救出したリリィとシア。リリィとシアは、負傷した男たちを家へと連れてきたが・・・

「頼む!一緒に来てくれ!」

「やです」

夕食の後、今日だけでも何度目かわからない男の頼みにリリィの返答はそっけなかった。しかし、男はひるんだ様子もなかった。


3日前、蛇殻林へ続く街道で、リリィは闇の獣に襲撃されていた二人の男を救出した。弓士の男はエルレーン。1か月前に、ホウソーン家の山塞で、リリィが治療したエレゼン族の男だ。剣士の男はヴァレイン。遭遇した時は気付かなかったが、花蜜桟橋でリリィを待ち伏せして山塞へと案内した男だった。


エルレーンは軽傷だったが、ヴァレインは闇の獣の爪で、前脇腹を切り裂かれており、動けないほどの重傷だった。リリィはヴァレインの傷を治癒魔法で塞ぎ、気を失っていたのでシアに家まで運んできてもらった。


ヴァレインは、あきれるほどの回復力で、次の日には目を覚まし、3日もすると、元通り歩けるようになっていた。そして、動けるようになるやいなや、リリィにパーティーに加わるよう頼みこんできたというわけだ。


この時代、冒険者の戦い方は洗練されてきて、ある程度の〝型〟と呼べるものが定着してきていた。


一人で探索する型は〝ソロ〟と呼ばれる。ソロは哨戒から戦闘、回復まで一人でこなさなければならない。やることが多くて大変なだけでなく、一度追い込まれれば、立て直すのは難しく危険である。


そのため、二人組の〝ペア〟を組む。ペアだと、一人が魔物を引き付けて防御している間に、もう一人が攻撃する。魔物を引き付ける〝タンク〟役は、ベテランでないと難しいが、攻撃をする〝アタッカー〟役は、ソロでは戦闘が難しい初心者や、近接攻撃が苦手な弓士や魔法士でも比較的安全に攻撃できる。タンクさえいれば、どのような冒険者であっても生存確率が格段に高くなるため、最も多い型となっている。その一方で、3日前のように、不意打ちでタンクが潰されると、途端に不利な状況に追い込まれてしまうという欠点もあった。


そこで、治癒魔法を使える〝ヒーラー〟役を加える。治癒魔法は、戦闘支援のために編み出された魔法で、怪我や病気を治すというよりも、傷口を塞いだり、痛みを和らげたりして、怪我をした人を一時的に戦闘に復帰させる技だ。タンクがダメージを負っても、戦闘を継続できるように支えることができる。戦闘の安定性が飛躍的に高まるため、タンク、ヒーラーにアタッカー2人加えた4人構成が望ましい。


依頼の困難さによっては、10人、20人で任務をこなすこともある。では、人数が多ければいいのかというと、問題になってくるのが報酬だ。報酬は、基本、山分けとなるため、人数が多ければ多いほど、取り分は減ってしまう。冒険者は、お金を稼いで生計を立てなくてはならない。そうした事情から、駆け出しの頃はペアで報酬は安いが危険が少ない依頼を受け、ある程度実力がついてから、4人組を組んで、より報酬の高い危険な依頼を受けるのが、よくあるパターンだった。


「ヒーラーが必要なら、街で冒険者を雇えばいいでしょう」

とリリィが言うのは冷たく聞こえるかもしれないが、当たり前のことでもあった。

「それじゃ、間に合わねえんだよ……」

ヴァレインがそっぽを向いてつぶやいた。

「ヴァレイン、もういいですよ」

エルレーンが見かねて横から口を挟んだ。

「よくねえよ。俺たちだけで、あんな化け物に太刀打ちできるわけないだろ。このお嬢ちゃんは、一撃で化け物を吹っ飛ばしやがったんだぞ」

お嬢ちゃん?

「運がよかっただけですよ」

リリィは、さらっと返す。

「だあぁぁ!運だけで、あんなこと、できるわけねえだろ!ただの治療士だと思ってたら、おまえ、めちゃくちゃ強いじゃんか」

おまえ?

「ヴァレイン、失礼ですよ。こちらの女性は……ええと……」

エルレーンは言葉が思い付かないらしく黙ってしまった。

まあ、いきなり白魔法をぶっ放した魔女ですよとは言いにくいよねぇ。

「なんだ?こいつがおチビだからって遠慮してんのか。関係ねえよ。強けりゃ、何だっていいんだ。エレゼンは真面目だねえ」

「おチビじゃないです!」

リリィは暴言にたまりかねて、フードをバサッと脱いだ。額の角が露わになった。

「おう……」

ヴァレインが息を呑んだ。

「そういえば、おまえさん、角尊つのみことだったな」

「角尊じゃないって言ったじゃないですか!」

リリィは、思わず大きな声を出してしまい、呼吸を整え、心を落ち着けた。


ヴァレインは失礼極まりない男だが、人は良さそうだ。エルレーンも生真面目が過ぎるぐらいで信用できると見ていい。角を見られた以上、変な噂が広まるよりは、きちんと説明しといた方がいいかも……


「わたしはアムダプールの生存者なんです」


時が完全に停止した。エルレーンとヴァレインは言葉を失って硬直してしまった。




忌まわしい魔大戦の記憶。


かつて、稀代の天才魔術師シャトト・シャトという女性がいた。シャトトは無力な人間が魔物に対抗する手段として黒魔法を編み出したと言われている。シャトトの死後、黒魔法を受け継いだ弟子達は、黒魔法を軍事力に転用した。人間を救うための強大な力が、同じ人間に向けて行使されたのだ。


小さな地方都市に過ぎなかったマハは、黒魔法を使って、エオルゼア南方のヴァイルブランド島にある海上都市ニームを攻めた。ニームは〝海兵団〟という当時最強の海上戦力でマハの侵攻を押し戻したが、漂着した謎の交易船からもたらされたトンベリ病という世にもおぞましい病気が蔓延した結果、戦線を支えきれなくなり、マハの黒魔法によって壊滅した。トンベリ病は、感染した人が〝トンベリ〟という魔物に変化してしまう奇病で、この病気を持ち込んだのが、マハだったのかは不明である。


ともあれ、ニームの壊滅に危機感をもったアムダプールは、黒魔法に対抗するために癒やしと浄化の力を持つ白魔法を編み出した。ニームを滅ぼしたマハは、矛先をアムダプールに向け、アムダプールとの全面戦争に突入した。アムダプールは、壊滅的な被害を出しながらマハを退けたものの、大量のエーテルを消耗し、その結果、自然界のエーテルバランスが崩れて大洪水を引き起こした。


この魔大戦による被害は、エオルゼア全土に及び、アムダプールだけでなく、マハもニームの跡地をも崩壊させた。この大災害を第6霊災という。第6霊災によって第5星歴は終焉を迎えた。


このとき、大災害を引き起こした白魔法に脅威を感じた黒衣の森の大精霊は、廃墟となったアムダプールを森に呑み込ませた。生き残った人々は、各地に散り散りとなった。こうして、アムダプール壊滅のきっかけとなった白魔法は、人々に恐れられ、禁忌となった。




「ええと……リリィさんは、アムダプール人の子孫ということですか?」

そう。普通はそういう解釈になる。

何しろ魔大戦が起きたのは1300年前のことだ。

「いいえ。わたしは子どもの頃、アムダプールに住んでいました」

エルレーンとヴァレインが、そろってまん丸に口を開けた。

「アムダプールの人の中には希にわたしのように角が生えてくる者がいます。角が生えると成長は止まり寿命も飛躍的に延びるのです」


リリィは角尊つのみことであることを否定したが、角尊も、最初はヒューラン族の子どもとして生まれ、あるとき突然角が生え、成長が完全に停止する。


「それにしても、寿命はあるでしょう。角の生えたアムダプール人は、みんな、あなたのように長命なのですか?」

先に我に返ったエルレーンが質問した。


最初の角尊であるイ・オク・ポタは272歳で老衰で亡くなっている。並みのヒューラン族よりは遥かに長寿だが不死ではないのだ。


「いいえ。わたしだけが特別なのです。白魔法は光属性の魔法です。わたしは、とある理由で光属性を強く宿しています。光属性には鎮静と停滞という性質があるので、時が停滞してしまうのです」

「……なるほど」

「なるほどじゃねえ。さっぱりわけがわかんねえ」

エルレーンとヴァレインの反応は対照的だ。

「つまり、お嬢ちゃんは、お嬢ちゃんに見えるけど、中身はとんでもねえ歳のばばあだってことだな」

ヴァレインが失礼なことを言った。

「理解としては合っていますが、ばばあは違いますね」

リリィが静かな声で訂正した。

「?合ってるんだろ?」

「ち・が・い・ま・す・ね!」

「……わ、わかった、違うことはわかった」

ヴァレインが気圧されたように慌てて言った。


「まあ、それはともかく、命を救ってもらった礼がまだだった。ありがとな」

ヴァレインは全く悪びれずに感謝の言葉を述べた。

「どういたしまして。偶然通りかかっただけですので……」

リリィは、ヴァレインの失礼な態度から、礼を言われるとは思っていなかったので面食らった。失礼なことを除けば人はいいのだ。たぶん。

「私からもお礼を申し上げます。2度も命を救っていただき、ありがとうございました」

エルレーンはいつも冷静で礼儀正しい。

「どういたしまして」

エルレーンは、わたしの返事を聞いて顔を上げると、何度目かわからないお願いを言った。

「改めてお願いします。わたしと一緒に蛇殻林に来てもらえませんか?」

「やです」

「なんでだよ!そこは『はい』だろ!」

「言うわけないでしょ!この流れで」

「この流れは『はい』って言うところなんだよ!」

「まあまあまあまあ」

エルレーンが慌てて止めに入る。

「リリィさんにも理由があると思うのですが、まずは、わたしの理由を聞いてもらえませんか?」

返事がないのを肯定と受け取ってエルレーンが続けた。

「蛇殻林には、まだ、仲間がいるんですよ」

「仲間って……もう……」

「わかっています。でも、行かなくては。わたしが行かなかったら、彼らは、ずっと、あの山道にいなくてはいけませんから」

重苦しい沈黙が続く。こういう空気は苦手だ。

「わたしは行くよ」

「シア!」

シアが決然と言う。

「リリィ、行こう。リリィにも行く理由があるはず」

「シア……」

珍しく静かに話を聞いていたシアの一言にわたしの心が波立つ。

「シアはいいの?平気なの?」

気遣うリリィに正面から向き合い、シアは決然とした表情でうなずいた。


シアはとっくに恐怖を乗り越えていた。自分と家族を傷付けたものへの恐怖を。ならば、わたしも向かい合わなければ。わたしと、わたしの世界を脅かすものに。


「わかりました。行きましょう」

「わあい!」

「ほんとですか!ありがとうございます!」

「最初から素直にそう言えばいいんだよ」

「っ!あなたはもっと礼儀正しい言い方ができるようになった方がいいですよ!」


リリィは、徹頭徹尾、失礼なヴァレインに言い返し、窓の外を眺めた。森はすっかり暗くなっていた。


リリィは、澄み渡った夜空を見ながら、過去、現在、未来へと思いを馳せた。停滞していた時間が動き出す。いつまでも、そのままではいられない。人も、家も、世界も。


そして、わたしも。

結論からいえば、リリィは「100年生きた少女」ではなく「1000年生きた少女」が正解だった。今回からタイトルを訂正しました。正確には1300年?何で1000年も生きているのかは、まだ書けないけど、今後のストーリーの中で明らかになっていくでしょう。リニューアル前の作品も、このあたりから、戦闘場面が出てきておもしろくなってくるので、みなさん、この後も、ぜひ続けて読んでもらえたらうれしいです。頑張って続きを書かねば……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ