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予兆に震える森は

ホウソーン家の山塞で、エレゼン族の男性を死の淵から救ったリリィ。それから、月日が経ち・・・

森がざわめいている。鳥の声は消え、乱暴な風が木々の梢を打ち払う音が、いつもより大きく聞こえた。生い茂った葉の隙間からは、雲が重そうな体をくねらせていた。




ホウソーン家の山塞を辞してから1か月が経った。シアは森に行くことが多くなった。朝、家を出て行って、日暮れまで帰らないこともあった。


シアからは何の話も無かったが、リリィはシアの目的に気付いていた。シアは森を探索して闇の獣を狩っているのだ。


闇の獣は、シアから両親や一族を奪った。シアにとって、かたきと言っていい存在だ。加えて、シアたち狩猟民族が大切にしている森の動物たちを手当たり次第に虐殺する害悪でもあった。


リリィが住む森の家には、家屋を中心として、半径2kmほどの結界が張ってあった。この結界は闇属性の魔力を持つものの認識を阻害して気付きにくくすると同時に、万が一、結界の中に迷い込んだ場合には、魔力のゆらぎが発生する仕組みになっていた。シアは、大した魔力を持っていなかったが、闇の獣を狩るためにリリィと共にエオルゼア中を回った旅の結果、生来の勘の鋭さに磨きがかかり、魔力を認識できるようになった。それで、結界の網にかかった闇の獣がいると、夜中でも家を飛び出していき、隙を突いて一撃で倒すということを繰り返していた。


どうやら最近は、結界の中に飽き足らず、遠くまで足を延ばして哨戒しているようなのだ。


今のシア戦闘能力なら、闇の獣も敵ではない。もう、両親が殺された現場で、ただ震えていただけの無力な子どもではないのだ。しかし、闇の獣は、並みの生き物ではない。個体によって外見も能力も大きく異なる。エルレーンの話からもわかるように、高い知能をもつものもいる。


結界は、闇属性の魔力が強いものほど効力を発揮するので、結界の中ならば、強力な魔物は入ってこれない。けれど、結界の外となれば話は違う。ましてや、この家は「あの街」に近い場所にあるのだから。




その日、シアは朝早くに家を出た。リリィはシアが危険な探索に行くことを知っていたが、止めることもできなかった。今ではシアはリリィの大切な家族だが、だからといって、シアをずっと家に留めておくことはできなかった。シアが胸に抱えた深い恨みもわかるし、狩猟民族としての義憤もわかる。無残に引き裂かれた森の動物たちの死体を、一緒に幾つも見てきたのだ。そういう時のシアの氷のような無表情が忘れられない。加えて、ホウソーン家の山塞での、あの話。シアの心に火を付けるには十分だった。


リリィは手に持った杖を強く握り、森の奥へと足早に進んだ。昼過ぎにリリィの心に急に沸き出した「嫌な予感」は、森の奥に進むにつれてはますます強くなった。


「予感」は誰にでも備わっている特殊能力だ。「第6感」とも言われる。安穏と暮らしていると退化してしまうが、生命の安全がおびやかされると、磨かれて危険を察知する能力が高まる。加えてリリィには特殊な事情があり、もはや予感というより「予知」と言ってもいいほどの的中率だった。


かすかな剣戟の音が聞こえてきた。


リリィは森を抜け、古い街道に出た。擦り減った古い石畳の上で、ブロードソードを振るう男が一人。獣の一撃を直剣で受け止め、押し返していた。獣は、形は狼のようだが、全身が真っ黒なもやのようなものに覆われていた。


後方に弓を構えた男が一人いて、白い光を帯びた矢を弓から放った。矢は雷光のような速さで獣の頭部に突き刺さった。獣は一瞬、ブルッと震え、後方にジャンプして距離を取った。怯んだというよりは、次の一撃を振るうための予備動作に見えた。


弓を持った男が素早く矢をつがえ、ひゅっと音を立てて放った。獣は矢を無造作に前足で振り払い、次の瞬間、ブロードソードの男に飛びかかった。

「ぐっ……」

男は間一髪ブロードソードで受け止めたものの体勢を崩され膝を突いた。そこに獣が前足を振り上げ……

「きゃうぅん」

獣は、リリィが眼前に瞬間移動して放った光の槍に体を貫かれ、存外に情けない悲鳴を上げて吹き飛ばされた後、灰が舞い散るように空中に消えた。

「・・・助かった」

荒い息を吐きながら、わたしを見上げた男が目を見開いて硬直した。

「おまえ、その角と羽っ!」

「あ、リリィ、羽出てるよ」

聞き慣れた声がして、絶句して固まった男の向こうの森の中からシアが出てきた。

「っ!仕方ないでしょ!急にしまえないんだから!」

リリィが言い返した。

「あなたは、角尊つのみことの白魔道士だったんですね」

弓の男が呆然としたように言う。

弓の男は、よく見るとエルレーンだった。

魔法発動の衝撃で、リリィのフードが外れ、額から1本の角が生えている様子が露わになった。肩甲骨のあたりからは、実体のない膜のような光が、羽状に広がっていた。

「わたしは角尊ではないわ」

リリィは杖を下したが、どう説明したものか考えあぐねている様子だった。角を見られた以上「角尊ではない」と否定したところで説得力はない。白魔法の発動も見られているし……。

「何か事情がおありなのですね。二度も助けていただき、ありがとうございました。申し訳ないのですが、彼の治療をお願いしたいのですが……」

エルレーンは茫然自失していたが、連れのことを思い出したようで、落ち着いた声でブロードソードの男の救助を求めた。ブロードソードの男は、かなり深手を負っているらしく、いつの間にか気を失って倒れていた。


エルレーンは、森の魔女と恐れられる白魔道士を前にしても、沈着冷静に仲間を助けようとしていた。線が細く見えるが、案外、芯のしっかりた頼れる男なのかもしれない。


「わかりました。わたしの家へ運びましょう。シア、手伝ってあげて」

「えぇ〜」

シアは嫌そうな声を揚げたものの、それ以上、文句を言わずに、ひょいっとエルレーンを背中に担ぎ上げた。

「力持ちなんですね」

エルレーンが驚いて声を揚げた。

「これぐらい何でもない」

身長の違いから、どうしても男の足は地面に引きずられてしまうが……まあ、問題ないだろう。


リリィは「わたしに関係ないし」と割り切ることにして、男の運搬をシアに任せた。リリィは少女の体をしているだけに、力仕事は苦手だった。


エルレーンが散らばった荷物を拾い集め、リリィの後に続いた。


いつの間にか、森のざわめきは収まっていた。戻ってきた動物たちの声が、暗くなりかけた森の中を、ささやき声のように飛び交った。その声は、どこか不安そうな響きを含んでいた。

前回、本文並みに長いあとがきを書いたので、今日は、ちょっとだけ。


いつも読んでくださり、ありがとうございます。


この小説は、スクエアエニックスの『ファイナルファンタジーXIV』と世界観を共有しています。公式ブログサイトである「The Lodestone」に1年前に掲載した小説を大幅リニューアルしてお届けしています。


最近は小説をアップすると、すぐに30ぐらいの既読が付きます。ユニークアクセス(同じ端末からのアクセス数を除いた実質のアクセス数)は増えていないので、同じ方が読んでくれているのだと思います。


わたしは、小説を書く者として、書いた作品を多くの人に読んでもらいたいという気持ちはもちろんあるのですが、まだまだ練習中と自覚しています。1年後に同じ話を書くことで自分の成長を感じています。もっと上手に書けるようになりたいという気持ちで頑張っていくので、これからも読みに来ていただけるとうれしいです。

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