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凶報は雷雨と共に訪れる

山塞には瀕死の男が横たわっていた。男はリリィの治癒魔法で一命を取り留めたようだったが・・・

「わたしたちが襲われたのは、南部森林の蛇殻林じゃかくりんというところを歩いてるときでした」




翌朝になると、エレゼン族の男は、話せるぐらいには回復していた。起き上がるのは、まだつらいようで、ベッドで横になったままだった。


治癒魔法は万能ではない。傷口周りの細胞を一時的に活性化して傷口を塞ぐことはできても、失われた血を補うことはできない。炎症を抑えて痛みを和らげることはできても、炎症の原因がなくなるわけではない。当然、死者を蘇生することもできない。人体に元々備わっている自己治癒力を強化するだけのものだ。


そんなわけで、この大怪我をしたエレゼン族の男は、リリィの治癒魔法で傷口は塞がっていたが、失われた体力を取り戻すには、本人の治癒力と、何より時間が必要だった。


エレゼン族の男はエルレーンと名乗った。


グリダニアの南には、クォーリーミルという集落がある。そこから、さらに南へと進むとトランキルというグリダニア最南端の前哨基地に至る。このクォーリーミルとトランキルを結ぶ街道は、グリダニアどころか、その前身であるゲルモラ以前から存在していたと言われるほど古い街道である。


この旧街道が貫く古い森が「蛇殻林」である。大蛇が脱皮したという伝説から名前が付いたと言われている。その大蛇は、海洋と航海を司る神リムレーンの眷属であるシーサーペント(大海蛇)、ペリュコスとサラオスのどちらかではないかと噂されていた。そのせいかどうかはわからないが、森の精霊の力が強く働いていて、凶悪な魔物が出没することで知られていた。あまりにも遭難事故が多いため、現在は、蛇殻林を迂回する新道が作られており、南方のウルダハ王国と行き来する旅人は、その新道を使っていた。


「何だって、そんな危険なところをうろついていたんだ」

「わたしの鞄を取ってもらえますか?」

エルレーンは、ラウルの質問に答える代わりに自分の鞄を指さした。


ラウルの近くにいた男が、使い古して牛革が飴色になった鞄を取ってエルレーンに渡した。

「これを見てください」


エルレーンは鞄から取り出した物をラウルに渡した。


材質は石だろうか。ガラス質で半透明な乳白色。レモンのような形で、全体に突起や複雑な模様の溝がある。大きさは子どもの握り拳ほどだった。

「なんだ、こりゃ。ガラクタにしか見えねえが……」

ラウルの怪訝そうに声に、

「ガラクタですよ」

エルレーンの言葉にラウルは憮然とした。

「少なくとも、何の役にも立たない物です。恐らくは魔道具の一種だと思いますが、魔力を失ったか壊れたかして動かないのです」

ラウルの筋肉質の腕が伸びてきて、その〝ガラクタ〟を、りりィの手のひらに落とした。見かけよりもずっしりと重い。

「わたしは、それがアムダプールの品ではないかと疑っています」

エルレーンが発した単語を聞いて、ラウルは息を呑んだ。


古アムダプール文明。


第5星暦と言われる時代、イクサル族が居を構えるよりもさらに古い昔、かつて、この黒衣の森にアムダプールと呼ばれた壮麗な都があった。エオルゼア中核都市として栄え、魔法使いが行き交い、生命力溢れる森の産物が市場を賑わしていた。


そんな栄華を誇ったアムダプールの都にも滅びの時は訪れた。


辺境の小都市に過ぎなかったマハが突如として黒魔法を強力な武力として行使し、侵攻を開始したのだ。最初の犠牲となったのは都市国家ニーム。トンベリ病という身の毛もよだつような病が蔓延し、ニームは全滅した。アムダプールの人々は、黒魔法に対抗するため、癒やしと浄化の力をもつ白魔法を編み出した。やがて、マハとアムダプールは全面戦争へと突入し、アムダプールはマハを撃退することに成功したものの、大地のエーテルは枯渇し、エーテルバランスの崩壊が大洪水を引き起こした。生き残った人々は各地に散り散りとなり、森の精霊の怒りに触れたアムダプールは、森に呑み込まれて消え去った。伝承では、そう伝わっている。


「わたしたちは、これが発見された蛇殻林にアムダプールへとつながる入り口があると推測しました。そこで、探索隊を編成して、蛇殻林へと向かったのです」

ラウレーンはリリィから渡された魔器を大切そうに鞄に戻した。

「おまえたちは、トレジャーハンターか」

ラウルがエルレーンに静かに問うと、エルレーンは黙ってうなずいた。

「わたしたちは、これでもウルダハでは名の通った冒険者なのです」


ウルダハは、グリダニア南方にある都市国家だ。マハの末裔であるララフェル族(一般に言う小人族)が魔法を駆使して乾燥地帯に興したベラフディア王朝を起源としている。ベラフディア王朝は、ウルダハとシラディハに分裂したが、何度かの興亡を繰り返した後、ウルダハによって統一された。そのため、古い歴史を持ちながらも新興国ともいえる活気と不安定さを兼ね備えていた。豊かな鉱山資源によって富が蓄積され、「エオルゼアにある富のほとんどはウルダハにある」とまで言われるほどの裕福な都市国家だった。


ウルダハは交易が盛んなため、交易路の安全を確保しようと、大商人たちは、それぞれ傭兵団を組織した。そのため、傭兵になろうと各地から腕に覚えのある人々が集まるようになり、やがて、大商人だけではなく、一般の人たちから報酬を得て護衛や輸送をする人たちが現れるようになった。これが冒険者の始まりである。


ウルダハでは、大商人に実力をアピールして召し抱えられようと武術大会が開かれるようになり、剣技が発達した。そのため、ウルダハの冒険者たちは、他の地方の正規軍を凌ぐほどの実力者ぞろいだった。そのウルダハの冒険者ともなれば、エルレーンの実力もかなりのものだろう。


南部森林に住まう魔物など、わたしたちの敵ではありませんでした。ところが……」

エルレーンの表情が歪んだ。

「蛇殻林の最深部に差し掛かったところ、突然、頭上から、そいつが現れたのです」

エルレーンの見開かれた瞳には、その時の映像が生々しく焼き付いているかのようだった。

「そいつは、不意打ちの一撃で戦士を屠りました。続いて治療士を。対集団の戦いに慣れた人間のような知恵を持っていました。どの順番で叩けば、効率よくパーティーを潰せるかを知っているのです。残されたのは、私と槍使いのリグルだけでした。わたしたちは応戦しましたが、ひとたまりもなく、致命傷を負ったリグルは、わたしに転移結晶を握らせて割り、わたしだけを前日に宿泊した、この山小屋の近くに飛ばしたのです」

「転移結晶だと?そんな希少な物を、よく持っていたな」


転移結晶とは、希に遺跡から出土するアラグ帝国の遺物と言われる石で、割ることで中に封じられた転移魔法が発動し、割った者が思い描いた場所に転移することができる。


「転移結晶は別の探索先で見付けたものです。あまりにも高価なので買い手が付かず、機を見てウルダハの豪商にでも売ろうかと、たまたま持ち運んでいたのです」

そこまで話すと、エルレーンは力尽きて、再び眠り始めた。この様子だと、歩けるようになるまでには、1週間ほどかかるかもしれない。




シアは何も言わず、じっとエルレーンの話を聞いていた。リリィは、シアの感情の失われた瞳を見て、心がざわざわと揺れるのを感じた。黒い獣に無残に殺された両親を見たシアが、この話を聞いて、何とも思わないわけがないのだ。強すぎる感情は、かえって人の心を凍らせてしまうのかもしれない。




山塞の外では、土砂降りを運んできた厚い雲が、いつの間にか空にいっぱいに広がっていた。

この小説は、『スクエアエニックスのファイナルファンタジーXIV(以下FF14)』と世界観を共有しています・・・と当初より書いてきましたが、プロデューサーの吉田直樹氏が「『新生FF14』は『FF』という名前のテーマパークを目指す」とかつて語ったように、ファイナルファンタジーシリーズの過去作がモザイクタイルのようにはめ込まれており、ストーリーの歴史的背景は複雑を極めます。小説を書き始めた当初から、多くの方がまとめた記事を元に、かなりの時間をかけて歴史的考証を進めましたが、様々な矛盾点に行き当たりました。その辻褄を合わせることも、小説を書く楽しみなのですが、とりあえず、最大の困った点として、『100年生きた少女の物語』というタイトルは、どうやら100年では足りなかったらしく、1000年になりそうですw(まだ検証中)


とはいえ、ゲームの中で、その歴史的背景が、きちんと説明されることはなく、シナリオの展開しだいでちら見せとなっているため、ストーリー重視派のプレイヤーでさえ、グリダニアやウルダハの歴史的背景を知っている人は、ほとんどいないと思われます。当然、わたしも正確性には全く自信がなく、この小説の最初のタイトルは『エオルゼア古聞奇譚』となっていました。いざとなったら、アナザーワールド的なストーリーなんで許してねって言い訳で逃げようと思っていたわけです。ゲームプレイヤーの方は、ゲーム世界の約100年前、第7霊災前)を想定していると思ってください。(それでも矛盾点がすでに発生していますがw)


さらに、今回のあとがきでは、治癒魔法について語ってみたいと思います。


イエス・キリストが人々を癒したとされる記述は新約聖書に多く見られます。新約聖書に語られる神の奇跡が事実かどうかは置いておいて、イエス・キリストの実在と歴史に与えた影響は紛れもなく事実であり、古典ファンタジーを発祥とする現代の「剣と魔法のファンタジー」に登場する治癒魔法の原点は、おそらく「神の奇跡」であろうと推測しています。


「神の奇跡」なら「何でもあり」になってしまいます。間違いなくチート能力ですね。それではゲームにならないので、ゲーム世界では、当然、制限されているわけです。


FF14では、どうなのかというと、ストーリーをよくよく見ると、治癒魔法は、それほど大した力ではありません。体力をちょっと回復したり、苦しみをちょっと和らげたりするだけで、ヤ・シュトラの目が見えるようになったり、アレンヴァルドが立って歩けるようになったりはしないわけですよ。「蘇生」も死んだ人を蘇らせているわけではなく、気力が尽きてへたりこんでいる人を無理やり起こしているだけですね。(どう見ても死んだだろ!という突っ込みはしたくなりますが)

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