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山荘で一夜を明かす

花蜜桟橋で盗賊の依頼を受けたリリィとシアは、山賊の拠点「ホウソーン家の山塞」へと夜道を急ぐ。

歩き始めて小一時間は経っただろうか。


リリィとシアは、先を急ぐ男の背中を足早に追いかけた。


さすが山賊だ。夜道でも迷いがない。松明を使えば足元は明るくなるが、森の中からは丸見えになってしまう。加えて、光が届く範囲の外は完全な闇となり、こちらからは何も見えなくなる。こんな場所で明かりを灯すのは「襲ってください」と言っているようなものだ。


高い木立の隙間から覗く満月は、巨大なシャンデリアのようだ。雑に丸太を敷いただけの桟道を青白く浮かび上がらせていた。こんな夜は月明かりが本当にありがたい。昼間ほどではないが、星明りに比べれば、格段にスピードが出せた。


やがて道の先に、かがり火に囲まれた山小屋が見えてきた。山小屋と言っても、中心の建物を取り囲むように見張り台や罠が仕掛けられており、ちょっとした要塞のようになっている。「ナイアンビーの山賊」の本拠地、「ホウソーン家の山塞」だ。


ここでは、かがり火は、かえって目くらましの役目を果たしていた。明かりの届かない木立の闇の中では守衛が弓や槍を構えたいて、うっかり光の中へ踏み込んでくるものを、動物であろうが人であろうが一撃で仕留めようと目を光らせていた。


男は、明かりの手前で立ち止まると、ホウホウと鳥の鳴きまねをした。それから、ゆっくりと明かりを横切り、迷いなく山小屋の中へと入っていった。リリィとシアがそれに続いた。


ベッドには「虫の息」という表現がぴったりくるような、ぼろぼろになった怪我人が横たわっていた。生命の蝋燭が、ほんの一息で吹き消されてしまいそうだった。


りりィは、杖を両手で持ち、斜めに傾けると意識を杖の芯に集中した。リリィのお腹のあたりから蛍のような青白い光が生じ、すっと杖に移ると。杖先まで駆け上って、怪我人の上に降り注いだ。リリィは、ほっと一息つくと、ゆらゆらと杖を揺り動かして、杖の先から少しずつ青白い光を怪我人に注いだ。枯れかけた植物に水を振りかけているようだった。


5分ほど経ち、怪我人は、ゆっくりと目を開けた。碧い瞳のエレゼン族の男性だった。

「ああ、リグル、逃げてくれ。お願いだ」

エレゼン族の男は、目を宙に泳がせ、絞り出すように言葉を発した。

「何があったんだ」

後ろから低い張りのある声がした。細いが密度の高そうな身体、茶色味を帯びた鋭い目、少しだけ髭を生やした口元。ラウル・ホウソーン、この山小屋の主だ。ラウルの声に頬を打たれたかのように、エレゼン族の男の虚ろな瞳が焦点を結んだ。

「南部森林の古い街道を進んでいるときに、ふいに襲われたんです。真っ黒い魔物に……」

そう言うと、怪我人は身体を抱えて震えだした。

「真っ黒い魔物だと?そいつは、どんな獣に似ていた?」

「獣……?いえ……あれは獣などではない」

ラウルの目が厳しさを増した。

「人だと言うのか?」

「いえ、人でもない。確かに2足で歩く姿は人に似ている。しかし、腰より長い骨みたいな両腕に、長い鋭い爪が付いていました。真っ黒な翼も。そいつは頭上から急に降ってきて、先頭を歩いていた戦士を一撃で……」

「ん?おい、どうした!?」

エレゼン族の男は急に声を途切れさせた。ラウルがいぶかし気にのぞき込むと、エレゼン族の男は意識を失っていた。

「リリィ、殺しちゃったの?」

「人聞きの悪いことを言わないで。ちょっと手元が狂っただけです!」

見ると、杖先からの青い光は止まっていた。

「彼は、もう限界だったのでしょう。そのまま休ませてやりましょう。もう生命の危険はありません」

りりィはラウルに言った。

「感謝する」

ラウルは短く答えた。

「リリィ、もう夜も遅い。今夜は泊まっていったら?」

声をかけたのは、ラウルの妻のエラだ。山賊の妻らしく、威勢のよさが目立つが、ラウルには足りない気遣いをしてくれる人だった。


リリィは、そっとシアの顔を見た。


シアの表情からは何も読み取れなかった。感情が抜け落ちたような固い表情だった。

「わかりました。世話になります」

リリィはエラに、すっと頭を下げた。

「よし、準備はできてるんだ。付いて来な」

エラは、にかっと笑うと、歩き出した。


リリィは、エラの後に続きながら、山荘を眺め回した。山荘の中は柱は多いが壁や扉はない。怪我人が寝かされていたのも、部屋の片隅に仕切り幕を張っただけの簡易な病室だ。


何も変わっていない。


リリィは初めて山荘に来た時のことを懐かしく思い出していた。まだ、グリダニアにリリィを見知った者がほとんどいなかった頃、リリィは、よく、この山荘に泊まり、ここを拠点として東部森林中を歩き回ったものだ。今では近くの泉を龍脈で自宅とつなげたため、山荘を訪れることはあっても、泊まることはなかった。


山荘の外では、到着したときは気配をひそめていた虫たちが、けたたましく鳴き声を競わせていた。残念ながらお風呂はないが、たまには、この山荘の野趣溢れる寝床で眠るのもいいだろう。

あとがき


FF14プレイヤーなら、「ホウソーン家の山塞」は、何度も訪れているはずだ。しかし、飛行マウントを手に入れた頃から、そこは単なるクエストの通過点になってしまい、エーテライトからぱっと飛び立って、目的地を目指すだけの場所になっているだろう。そして、第一章が終わると、ほとんど訪れることはなくなっているはずだ。しかし、この話を読んだなら、一度、「ホウソーン家の山塞」を訪れて、むき出しの丸太を積んだだけの素朴な建物を見て回ったり、巨木が生い茂る森の中をゆっくり歩いてみてほしい。きっとゲームを始めた頃の冒険に心躍らせた「あの日」を思い出すはず。


物語は、ゆっくり少しずつ進んでいます。次回からはちょっと加速していくかも。元のわたしの小説を読んでいる人は、描写の進化に気付いて、わたしの成長を感じ取ってくれるかな?

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