表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

白い扉

リリィたちは、ついに大妖魔が巣食う、アムダプール城の最奥へとたどり着いた、そこにあったのは・・・

リリィたち4人は、大広間から謁見の間へと続く回廊を進んだ。屋根は跡形もなく吹っ飛び、元は壁だった板状の破片が、様々な角度で地面に突き立っていた。その崩壊ぶりは、遠い昔、そこで激しい戦闘があったことを物語っていた。


リリィたちは、苦労して瓦礫を乗り越え、むき出しになった入り口から、アムダプール城の最深部、主塔の中へと入った。

「おい、ありゃ、なんだ!?」

ヴァレインが指さした先には、巨大な扉があった。白樫シラカシの板を組み合わせた真っ白な扉で、高さは人の背丈の3倍ほどあった。金細工で壮麗な装飾が施されており、謁見の間の扉にふさわしい豪華な造りだった。崩壊した薄暗い廃墟の中で、ほのかな光を放ち、傷一つない異様な姿を浮かび上がらせていた。


リリィは、扉の前に立つと、無造作に取っ手を掴み、一瞬、躊躇ちゅうちょした後、一気に扉を引き開けると、一人で中に入り、扉を閉めてしまった。


リリィの突然の行動に、あとの3人は唖然として、一歩も動くことができなかった。


リリィが扉の向こうに姿を消すと同時に、ブゥンと鈍い音がして、アムダプール城全体を覆っていた結界が焼失した。

「リリィ!」

シアは叫び、こぶしで扉を叩いた。


〝結界が消えるのは、リリィか黒衣の森の大精霊ウィンディのどちらかがいなくなったとき〟


そのリリィの言葉が脳裏に浮かび、シアは必至に取っ手を引っ張ったり、扉を蹴ったりした。一呼吸遅れてヴァレインとエルレーンも加わり、3人で何とか扉を開けようとした。しかし、扉は、石に刻まれたトリックアートかと疑うほどに、わずかな振動さえ返してこなかった。


3人が扉を前に大騒ぎしているところに、黒猫ウィンディが空からふわふわと降下してきた。妖魔との決戦に備えて上空で待機していたのだが、結界が消失したので降りてきたらしい。

「リリィは無事だよ」

「なんで、あなたにわかるのよ!」

ウィンディの言葉にシアが嚙みついた。

「ぼくとリリィは魔力のパスがつながっているからね。もしリリィに何かあれば、時間や空間を飛び越えてわかる」

ウィンディは動じず答えた。

「じゃあ、リリィを連れ戻して!」

「それはムリ」

ウィンディの淡白な答えを聞いて、シアは全身の毛を逆立てた。


だが、そのやりとりで、シアは冷静さを取り戻したようだ。扉をまじまじと観察した。


ただの木製の扉だと思っていたが、内側から光を放ち、幾何学的な文様が浮かび上がっていた。リリィが使う魔紋によく似ていた。


ヴァレインは、扉の周りの石壁が崩れかかっているのに気づき、石壁を形成しているブロック状の石の一つをぐっと押した。石は、拍子抜けするほどあっさりと、壁の向こう側に落ちた。それを見て、ヴァレインは、近くにあった金属製の燭台を手に取り、猛然と石壁を突き崩し始めた。シアとエルレーンも手伝って、瓦礫を取り除いた。


ほどなく人が通れるぐらいの穴が開いたので、一番小柄なシアが穴に入ってみた。

「どういうこと?これ?」

シアが驚きの声をあげた。


ヴァレインとエルレーンも穴をくぐった。壁の向こうには、さきほどの空間と同じような廃墟が広がっているだけだった。




「この扉を別次元につなげたのは妖魔の仕業でしょうか?」

エルレーンが疑問を口にした。


3人は、扉の周りの瓦礫を全て取り除いた。扉は宙に浮かんだ状態で静止していた。いくら巨大で立派な扉でも、その薄い扉の中に人間が入るはずもない。リリィは扉の中に消えてしまった。そうなると、扉を開いた先は別次元につながっていると考える方が自然だ。


そこで、すぐに思い浮かんだのが、今は伝説となっている古代魔法の黒魔法だ。


黒魔法は、〝次元の割れ目〟と呼ばれる、異界ヴォイドにつながる割れ目を作り出し、そこから妖力や妖魔を引っ張り出して使役する魔法だ。エルレーンが、異界ヴォイドの住民である妖魔の仕業と考えたのは、ありそうな話だった。


「いや、妖魔は自分で次元の割れ目を作ることはできないよ」

ウィンディが答えた。この大精霊は、猫の見た目をしているが、太古の昔から存在しているだけあって、古代魔法に詳しいようだ。

「だって妖魔が、自分で〝次元の割れ目〟を作れるなら、もっと多くの妖魔が、この世界に来ていていいはずだよ」

「たしかに。それはそうですね」

エルレーンはぞっとして言った。たった1匹の妖魔がアムダプールを滅ぼしたのだ。そんな強大なモンスターが、この世界に自由に出入りできるとは想像したくない。

「時空魔法は、ララフェル族がアラグ帝国時代に、こことは異なる世界から持ち込んだものなんだ。ララフェル族は、ほとんどがマハに住んでいたんだけど、アムダプールとマハが戦争になる前、両都市間の交易はそれなりにあったからね。ララフェル族もアムダプールに来ていたはずだよ。腕の良いララフェル族の魔法技師が、この扉を仕上げたんだろうね。この扉には、黒魔法よりもさらに古い時空魔法が施されている」

「時空魔法……」

エルレーンは茫然とつぶやいた。黒魔法さえわからないのに、時空魔法となると、シャーレアンの大図書館にさえ、資料があるかどうか……

「それ以上は、僕にもわからないよ。時空魔法は専門外だからね」

「俺には、お前らの話が、さっぱり、わからねえよ」

ヴァレインが絶望したようなうめき声をもらした。


ヴァレインの背後から、音もなく人影が現れた。


古風な鎧を全身に着込み、上背は、リリィたちの中で一番大きいヴァレインより、さらに一回りも大きかった。顔を見る限りかなりの老齢のようだが、がっちりした体格は微塵も老いを感じさせなかった。

「だ、だれだ、てめえ!」

ヴァレインは、咄嗟に大きく飛びのくと同時に剣を構えた。歴戦の戦士らしい、さすがの身のこなしだ。

「驚かせてすまんな。俺はベルマンという。姫様の護衛をしていた騎士だ」

「姫様?」

「リリィのことだよ。リリィはアムダプールのお姫様なの」

シアが説明した。

「シア、離れろ!こいつ、ただもんじゃねえ」

ヴァレインは険しい表情を少しも緩めず、剣の切っ先を騎士姿の男に向けた。

「貴殿らが、姫様と同行しているのを見て、こうして出てきたのだ。敵意があるのなら、こんな回りくどいやり方はせん」

騎士は自身に向けられた剣の切っ先を見ても、少しも動じず、重厚な声で言った。ヴァレインは、油断なく剣を構えていたが、騎士が小動こゆるぎもしないのを見て、剣を鞘に納めた。

「確かにな。この俺が全く気配を感じなかった。じいさんが、やる気なら、背後からその斧で真っ二つだったろうからな」

「わかってもらえてうれしいよ」

騎士は虎のような獰猛な笑みを浮かべた。

「リリィの護衛とおっしゃいましたが、まさか、1300年、ここで生きて立ってことですか?」

エルレーンは警戒をにじませた声で尋ねた。

「さてね。ここでは時間はないも同然だからな。俺も生きているのか、死んでいるのか」

「エルレーン、その人、ファントムだよ。影がない」

シアの声に、エルレーンが、ぎょっとして、騎士の足元を見た。天井には、エルレーンが設置した光魔法が照明代わりに光を放っていた。薄明りとはいえ、当然できるはずの影がなかった。

「言ったであろう。この結界の中では時間は、あってないようなものだと。肉体が死しても魂は留まることができたのだ」

騎士、ベルマンはそう言ったが、エルレーンには1300年もの間、魂のまま存在し続けるということが、どういうことなのか想像もつかなかった。

「他のやつは、みんなバケモノみてえになっちまったのに、なんで、じいさんだけ無事なんだ」

ヴァレインはなおも疑いを捨てきれないようだった。ベルマンは、ヴァレインをじっと見た。

「バケモノが。まあ、そうだな。いくら魂が残っていても、人の心を失くしてしまったものは、バケモノと変わらぬ。俺はハイデリンの加護を受けている。肉体は、奴の攻撃に耐えられずに砕けたが、心まで砕けたりはせんよ」

「ハイデリンの加護……」

エルレーンは茫然とつぶやいた。

「なんだ、その、ハイデリンの加護ってのは?」

ヴァレインが尋ねた。

「ハイデリンは、この世界を創った神ですが、実在すると言われています」

「神様って、ほんとにいるのか?」

「ええ。〝ハイデリンの加護〟と呼ばれる超常的な力を与えられた人が、稀に出現することこそ、ハイデリンが実在する証拠とされています」


〝ハイデリンの加護〟を受けた人間は、1000年以上、この世には出現しておらず、伝説上の存在だ。信じ難い話ではあったが、こうして、魂だけとはいえ、それこそ1000年以上、姿を保ってきた相手が目の前にいる以上、〝ハイデリンの加護〟と言われれば信じるしかなかった。


「それで、この扉はどうなってんだ?」

混乱した頭の整理が終わったらしく、ヴァレインが一番聞きたかったことをベルマンに質問した。

「この謁見の間は、主塔の1階に作られていたが、内部は、明らかに主塔の床面積より広かった。俺には理屈はわからんが、外と中は次元レベルで完全に切り離されているらしい。中から扉を閉めれば、いかなる物理攻撃も魔法攻撃も遮断できるそうだ」

「いかなる攻撃もって、それじゃ、どうしようもねえじゃねえか!」

ヴァレインが吠えた。

「もとは王族や来賓を守る最後の避難場所となるはずのものだった。姫様の父君、クリシュナ様と、その妃カサミラ様は、姫様と大精霊の契約を結ぶと、姫様をアムダプール城の外に転移させ、アムダプール全体を包む結界を張った。外に出られなくなったことを察した妖魔ディアボロスは、結界を解除させようと、王と王妃に迫った。お二人は、ディアボロスを扉の中に誘い込み、中から扉を閉められたのだ。この扉を開けることができるのは、王の血族のみとされている」

「では、この扉を開ける方法は……」

エルレーンの問いに、ベルマンは「うむ」と頷き、

「姫様が中から開けてくれるのを待つしかないな」

と断言したのだった。


「お嬢は、なんだって、俺たちを残して一人で扉の中に入っていったんだ」

ヴァレインは、そう嘆く以外に、何もできることを思いつかなかった。

「俺にも姫様の考えはわからん。だが、何か勝算があって、行動されたはずだ。今は信じて待つのみだ」

ベルマンは動じずに重厚な声で言った。

「あなたは、なぜ、魂だけになっても、この場所に留まり続けたのですか?魂を汚染された他のファントムたちはともかく、あなたなら、結界を抜けて星界に還ることもできたのでは?」

エルレーンの問いに、ベルマンは何と答えたものかと考え込んだ。

「俺は、姫様が戻ってくることを確信していた。予言があったのだ。姫様が、1000年後に、この都市を滅ぼすという、な」

エルレーン、ヴァレイン、シアが一斉に息を呑んだ。

「姫様も、その予言は知っていた。己の運命を知りながら、1000年もの間、考え、決め、そして、今、この場に戻ってきたのだ。己の成すことを、成すためにな」

「まさか、このまま、出てこねえつもりなんじゃ……」

「それはない」

ベルマンはヴァレインの推測を力強く否定した。

「扉を開けるつもりがなければ、そのまま放っておけばよかったのだ。貴様らも見たのだろう、奴の力が漏れ出し、世界を侵食していく様を。放っておけば、奴は世界を食い尽くし、時空の鍵もいつかは砕け散る。それが、わかっていたから、姫様は扉を開けられたのだ」

ベルマンの重々しい言葉に、3人は納得せざるを得なかった。

「今は信じて待とう。姫様のお帰りを。我らの出番はそれからだ」

ベルマンは瓦礫にどっかと腰を下ろすと目を閉じた。




結界が消失したためか、城の禍々しい空気は祓われ、黒衣の森の濃密な精霊力が満ちていた。リリィの家を出発した朝に昇った太陽は、森の向こうへと姿を消し、中天には上弦の月が、廃墟に青白い光を注いでいた。獣の声も気配さえもない。森全体が、決戦の時を静かに待っていた。

1年前、書きかけのまま放置していたエピソード。第1話から書き直し続け、ようやく「続き」に着手することができました。1年経って、自分も成長し、当時よりも書くことが増えました。その結果、1年間に残っていた部分は、次話送りとなり、100%新作で、お届けしています。もう、お話の終わりが見えています。最後まで書き切りたいと思っています。頑張るぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ