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使命

森の大精霊を名乗る黒猫ウィンディの登場により、リリィたちは、真夜中に叩き起こされた。ウィンディは、〝影〟が、リリィたちの寝込みを襲おうとしていたと話した。〝影〟とは何者なのか?1000年の時を費やした陰謀が明らかに・・・

リリィは、ひとしきり涙を流すと、目尻に溜まったしずくを指で払い落とした。シアは、温かい目でリリィを見つめていた。ヴァレインとエルレーンは、リリィが泣いた理由もわからず、気まずそうに視線をそらしていた。


「・・・その・・・なんだ・・・せっかく起きたんで、そのまま出発するか?」

ヴァレインが、この男にしては珍しく、遠慮がちに口火を切った。


まだ森の中は闇に包まれていて、足下さえよく見えない。また、いつ、闇の獣が襲ってくるかもしれないのに、視界の悪い森の中を進むのは自殺行為だ。


「道があるとはいえ、夜道を行くのは危険です。明るくなってからにしませんか?」

エルレーンの提案に、言い出したヴァレインも大きくうなずいた。ヴァレイン自身も、自分で言いだしておきながら、今、出発はありえないと思っていたようで。賛成したというよりも、やり取りによってその場の空気が変わったことにほっとしたようだった。


一行は夜明けまで眠ることにした。

「ウィンディさん、夜明けまで見張りをお願いできませんか?もし闇の獣が近付いてきたら、起こしてもらえると助かるのですが」

エルレーンは丁寧に黒猫に頼んだ。

「うん、いいよ」

黒猫ウィンディは軽い口調で答えた。ウィンディは精霊なので眠る必要はない。

「元々、リリィちゃんのことは、ぼくが、ずっと見守ってきたからね」

「ウィンディ、わたし、それ、知らないんだけど?」

リリィが、「聞き捨てならない」といった感じでウィンディを見た。

「リリィちゃん、勘がいいから、気づかれない距離で見守るのは、ほんと大変だった」

自慢げに言うウィンディを、リリィはジト目で見たが、声に出しては何も言わなかった。


前日の疲れが、まだ、抜けきっていなかったのだろう。4人ともすぐ眠りに落ち、再び目を覚ましたときには、太陽は結構な高さまで昇っていた。みんなよりちょっとだけ早起きしたエルレーンがパンとベーコンを焼き、少し遅めの朝食を食べた。


「さてと」


リリィはウィンディの前に座った。

「いろいろ教えてもらうわよ。まず、〝影〟って何なの?」


エルレーンのパーティーを壊滅させた化け物、ヴァレインに重傷を負わせた黒い獣が、ウィンディの言う〝影〟なのだろう。シアがリリィの家に着た頃から、黒衣の森に現れるようになり、最近では、出没範囲が拡大しており、冒険者や旅人が襲われることも増えてきた。形態も大きさも様々で、サル程度の大きさのものもいれば、イノシシぐらいの大きさのものもいるようだ。共通した特徴として、黒いもやの様なものを全身にまとっていて、傷を負わされると魔素が体内に侵入し、魔法的な治療を行わないと死に至る。物理攻撃でも倒せるが、魔法か、魔力を帯びた武器で攻撃する方が、より多くのダメージを与えられるようだ。


森の獣や精霊が魔力を帯びて魔物となり、狂暴化したり巨大化したりすることは、エオルゼアではよくあることだが、闇の獣は、そうした自然発生する魔物に比べて段違いに危険で異質な存在だった。


「ええとね・・・う~ん・・・」

ウィンディは答えあぐねている。

「まさか・・・」

「リリィちゃん、違うよ!」

リリィの不安そうな顔を見て、ウィンディが慌てて否定した。

「大精霊の力とリリィちゃんの血によって編まれた結界は絶対に破れない。〝あいつ〟が外に出ることはできないんだ。ぼくとリリィちゃんが生きている限りね」

ウィンディが断言し、リリィはほっとしたようだった。




「〝あいつ〟って何だ」

ヴァレインが、ぞっとした表情で尋ねた。ウィンディの声には恐れが混じっていた。大精霊が恐れるほどの存在。嫌な予感しかしない。


ウィンディはリリィ以外の3人を順番に見て、何やら思案している様子だった。シア、エルレーン、ヴァレイン、それぞれの事情は違えど、3人とも闇の獣と戦った経験がある。その上で、恐怖に打ち勝ち、闇の獣を殲滅しようと強く願っている者たちだった。その決意は、ウィンディにも感じ入るところがあったのかもしれない。

「そうだね。ちゃんと最初から話そう」

ウィンディは、そう言って、説明を始めた。

「アムダプールがマハに侵攻されたことは知っているよね」

「まあ・・・かなり昔の話ですが・・・」

エルレーンが自信なさそうに答えた。アムダプール、マハ、ニームの三都市が「魔大戦」と呼ばれる壮絶な魔法戦争の末に滅びた第5霊災は、1300年前の出来事だ。長い年月を経て紆余曲折ありながらも、アムダプールはグリダニアに、マハはウルダハに、ニームはリムサロミンサに、それぞれ受け継がれた。

「マハは、黒魔法を使って、アムダプールを壊滅させた・・・と伝承では伝わっています」

エルレーンの言葉にウィンディはうなずいた。

「その黒魔法は、自然界に存在するマナを操る一般的な魔法とは異なる危険な魔法なんだ」

「危険な魔法・・・ですか」

エルレーンが理解しがたいといった表情でつぶやいた。

「君たちがハイデリンと呼んでいるこの世界には、異なる幾つかの別の世界がある。そして、時折、世界に綻びが生じ、別の世界から、人や人ならざる者、力が流れ込んでくることがある」

エルレーンが息を呑んだ。

「ヴォイド(虚無)と呼ばれる世界がある。黒魔法は、ララフェル族がこの世界に持ち込んだ時空に干渉する魔法を応用し、ヴォイドから力を取り込んだり、妖魔を呼んで使役したりする魔法なんだ」

「なんと・・・」

エルレーンは絶句した。シアとヴァレインは魔法に詳しくないためか、いまいちわかっていないようだった。リリィは黙って静かに聞いていた。

「マハは……シャトト=シャトの不詳の弟子たちは、ただ戦に勝つという、つまらない目的のために、呼び込んではいけない者たちを、この世界に呼び込んでしまった。それがゆえにアムダプールは壊滅し、今も封印されている。マハも自ら呼び出した妖魔を制御できずに、アムダプールと同じ運命をたどった」




しばらくは、誰も口を開こうとしなかった。魔法都市とまで呼ばれた高度な魔法文明を、赤子の手足をひねるごとく滅ぼした妖魔が、よりによって、そのアムダプールの地に封印されていようとは・・・。エルレーンたちは、知らなかったとはいえ、とんでもない場所に足を突っ込もうとしていたのだ。

「よくわからねえけど、その封印とやらは大丈夫なのか?」

ヴァレインが、みんなが恐れていたことを口にした。

「大丈夫だよ」

ウィンディは、あっさり答えた。

「今はね」

ほっとしかかったヴァレインを、続く言葉が突き刺した。

「今はってどういうことだよ!」

「ぼくとリリィちゃんが交わした契約によって生成された封印は、例え神であっても中から破壊することはできない。でも、それは、逆に言えば、ぼくかリリィちゃんのどちらかがいなくなれば解除されるってことなんだ」

「もしかして、リリィさんの寿命が・・・」

エルレーンは思わず口元を押さえたが、ウィンディは首を振った。

「リリィちゃんは、封印の契約により不老になっている。寿命で死ぬことはないよ。もっとも、不死ってわけじゃないから、致命傷を負えば普通に死んじゃうけど。だから、ぼくは、リリィちゃんに気付かれないようにリリィちゃんを護衛していたし、リリィちゃん自身も正体を知られないようにして、不埒者から身を隠していたんだ」

「そんな……そんな大事なことを、わたしたちに話してしまっていいんですか?」

ウィンディは、静かにうなずいた。

「もう、隠していて何とかなる段階じゃなくなったんだ」

ウィンディの言葉は淡々としていたが、背筋が凍るような恐怖を運んできた。

「〝あいつ〟はアムダプールに残された生命の残滓を使って非道な実験を繰り返してきた。そして、ついに、自分の一部と生命の残滓を融合させた〝影〟が結界を通り抜けられることを発見してしまった。結界はヴォイドのものだけを通さない術式なんだけど、〝あいつ〟が作り出した影は、ヴォイドのものとは認識されなかったようだね」


「だったら、その〝影〟とやらを狩って全滅させればいいんじゃねえのか。リリィなら簡単に勝てる相手だろう?」

ヴァレインの提案にウィンディは、首を振った。

「影は、森の生き物に憑りつき、変質させ、また、新たな〝影〟を生み出している。森に生きる生命は無限じゃない。新たな命が生まれ育つには時間がかかるんだ。影を全滅させたときには、森に生き物は一匹もいなくなっているだろうね。そうなれば、森の生命から力を得ているぼくも、この世界に留まっていることはできなくなる」


森の生命が死に絶え、大精霊が消滅し、結界が壊れて、大妖魔が世界に解き放たれる。その未来は、世界の終わりを意味していた。




「ウィンディ、あなた、もしかして、もう、力が・・・」

ウィンディは、黙ったままだ。

「わたしがやる」

「リリィちゃん、だめだよ!リリィちゃんが倒されても結界は解除される」

わたしの言葉を予想していたように、ウィンディはすかさず止めに入った。

「でも、時間の問題でしょ?」

「どういうことだ?」

ヴァレインがいぶかしげに尋ねた。


侵入者を近づけないために、大精霊は森を侵食させてアムダプールを覆い隠した。エルレーンの冒険者パーティーがアムダプールの存在に気づいたのは、遺物が落ちているような街の近くまで人が入れるようになったからだ。昨日、行った山道でも、遺跡の一部が見えていた。


「限界が近い・・・」

エルレーンがぞっとしたように言う。

「さすがリリィちゃんだね。よく見てる。でも大丈夫だから……」

「大丈夫だから、ウィンディが消耗して消えるまで見てろって?世界が妖魔に壊されていくのを安全な場所で見てろって言うの?嫌だよ、そんなの!わたしは・・・だって、わたしは・・・!」

「リリィ、落ち着いて」

シアがわたしの頭をなでる。


「これは、わたしがやらなきゃいけないんだ。わたしが、この世界に生まれた意味は、今までわたしが一人で生きてきた意味は、このためだから。お願い。お願いします。わたしに力を貸してください。わたしの生きる意味を台無しにしないで」

リリィの悲痛な叫びが深い森の中へ吸い込まれていった。


「わかったよ」


長い沈黙の後、ウィンディが返事を返した。

「ええと、皆さん、ずっとここにいて、また、夜になったら大変です。だいぶ消耗してることですし、一度、街に戻りませんか?そのぐらいの間なら結界だって無事でしょう?」

エルレーンが穏やかに言った。




わたしは、そっと目尻を拭い、いつもの顔に戻った。

「それなら、わたしの家に戻りましょう。そこなら安全だし、近いですから」


1300年経って、この時が来た。来てしまった。でも大丈夫。きっと大丈夫。わたしは城の扉を開け、世界を脅かす脅威に打ち勝つ。そして、また、シアと二人で静かに森で暮らすんだ。でも今は、ひとときの休息がほしい。ただ時を意味もなく過ごすのではなく、再び歩き出すための休息が。

このお話は1年前にスクエア・エニックスの公式ブログサイト「The Lodestone」で発表した作品を全面リニューアルしたものです。


行き当たりばったりでお話を書いているせいか、自分ではわかっていることが、1年後に読んでみたら、どうにも伝わらないようになっていました。大幅に解説を加えましたので、ちょっとはわかるようになったかなあ?


物語も後半に入り、ここから、戦闘シーンなども出てきて、盛り上がっていきます。よかったら続きも読みに来てください。

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