第9話:影、森を越えて
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アレッタ砦・作戦会議室。
長机の周囲に、各部隊の班長や副官たちが顔を揃えていた。
中央には砦の地図。その上に並べられた小石や駒が、現状の戦力を示している。
「……敵は明日に接触の見込み。規模は前回の三倍。正面突破なら、持ちません」
レイナが冷静に情報を整理する。
「奇襲か、撹乱か、篭城か。どの戦術を取るのか、ジード=アーガス。あなたの判断を」
皆の視線が集まる中、ジードは懐からサイコロを取り出した。
「じゃあ、決めるか。サイコロで」
その場が静まり返る。レイナの目が、一瞬で鋭さを帯びた。
「……サイコロ、ですって?」
「うん。俺がやってるのはいつもそう。作戦案のそれぞれに番号を振って、出た目で決める」
レイナは声を失った。他の兵はその様子をみて笑い出す。
「ハハハ、嬢ちゃんが驚くのも無理ねえなあ」
「ジードはこうやって作戦を決めて、前回の襲撃を凌いだんだぜ」
「どうせ絶望的な状況には変わりねえからな、それならこいつの運と勢いに任せたほうが俺たちもおもしれえってもんだ」
周囲の兵もサイコロで作戦を決めることに、誰も異議を唱えない。その様子を見て、初めてこれが冗談ではないことに気が付き、レイナは動揺を隠せなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください。それが“冗談”ではないというなら……!」
「冗談じゃねぇよ。俺がいちばん信用してるのは、こいつだからな」
ジードはそう言って、目をそらさずにサイを投げる。
カタン、と音を立てて机に転がるサイコロ。
皆の視線が一点に集まる。
「第六案……東側の断崖に誘導して、仕掛け罠で足止め……っ」
地図の端に記された急斜面、そこは自然地形を活かせる地点だが、敵を誘導するには相応のリスクが伴う。
レイナは記録をめくりながら眉をひそめる。
「それに、仕掛け罠だなんて……罠を作る時間はあるのですか?」
「たぶんギリギリだな。でも、やってみる価値はある。連中の“勝ちパターン”を崩せるなら、上出来だ」
ジードはまるで散歩にでも行くかのような軽さで笑っていた。
その無謀な自信に、レイナは言葉を失いかける。
だが、その笑みの奥にあるものが虚勢ではないと気づき、視線を落とした。
レイナはしばしサイコロを見つめてから、目を伏せた。
「……仕方ありませんね。あなたの“運”に賭けましょう」
その言葉には、どこか諦めにも似た影があった。
ジードはその微細な変化を見逃さなかった。
作戦は決まった。明日、敵が来る。
その夜、砦では静かに罠の準備が進められていた。
サイコロの出目が意味する運命を、まだ誰も知らない。
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