表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民軍師の勝ち筋は“運ゲー”です。  作者: 原稿魔閣下
第1章:アレッタ砦攻防戦
6/23

第6話:逃亡した中佐

一方その頃、帝都。

軍務局の作戦室では、ロイ・グレイム中佐が土埃にまみれた軍服のまま、上官たちの前に立っていた。


「……アレッタ砦は、敵軍の圧倒的な攻勢により、陥落しました」


報告を受けた老将が眉をひそめる。


「貴官の戦力は八百。敵勢は五千と聞いている。それは誠か?」


ロイは唇をかすかに噛み、うつむく。


「はっ……!我が軍では対応しきれず、やむなく撤退を」


その言葉に、誰も反応を示さなかった。

ただ、記録官が静かに筆を走らせる音だけが、室内に響いていた。


そのとき、扉が乱暴に開かれ、伝令が駆け込んでくる。


「報告! アレッタ砦、健在です! 敵軍の攻撃を退け、現在も防衛を継続中!」


室内の空気が凍りつく。


老将が伝令に向かって、静かに尋ねた。


「……それは確かか?」


「はっ、確かにこの目で確認いたしました! 我が伝令隊が直接砦より報告を受領。敵を撃退し、砦は現在も保持されています!」


ロイは信じられないという顔で振り返った。


「……なに?」


室内の空気が凍りつく。

ロイは信じられないという顔で振り返った。


伝令は息を切らしながら、続ける。


「至急の援軍を要請しています。砦は損耗が激しく、このままでは再攻撃に耐えられないとのこと!」


老将がロイを見据える。


「これはどういうことか、中佐。貴官は“砦は陥落した”と報告したはずだ」


ロイの顔から血の気が引いていく。


「そ、それは……信頼できる伝令からの情報で……私は……っ」


「つまり、自ら確認もせず逃げ帰ったと」


老将の声は冷たい。


「今すぐ詳細を再調査し、報告を訂正せよ。君の立場は……さてどうしたものかのう」


その言葉が何を意味するか、ロイ自身も痛いほど理解していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


砦を包んでいた硝煙と叫びはすでに過去のものとなり、

今はただ、奇妙なほどに静かな風だけが吹いていた。


焼け焦げた木材の臭い、血に染まった地面、

そして一つひとつ掘られていく墓穴。


アレッタ砦の兵士たちは、短い勝利の余韻を噛みしめる暇もなく、

亡骸の処理に追われていた。


その中で、ジード=アーガスは、崩れた壁にもたれながら小さなノートに何かを書き込んでいた。


「また名前……増えたな」


戦死者の名を、一人ずつ、記録している。

誰に頼まれたわけでもなく、ただ黙々と。


「おいジード、いつ寝た? 昨日から……」


「……んー? いや、寝てない。寝たら敵が夢に出てきそうだし」


「……やっぱあんた、変わってるわ」


キョトンとした表情をしたのち、ジードは再び亡き戦友の名前を記し始めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ