第3話:勘と伏兵の夜
深夜二時。空は雲に覆われ、月明かりすら届かない。
アレッタ砦の東門前には、不自然な静けさが広がっていた。
敵の襲撃を警戒していた兵士たちは、張り詰めた沈黙の中で各々の持ち場に潜んでいた。門前の第一陣は、敵の先鋒を迎撃する盾持ちの重装歩兵。門の内側には、身を縮めるように身を潜めた軽装の第二陣。岩陰に回り込んだ第三陣は、石を手に持ち、合図を待つ。
「……来るぞ」
ジードの声が、東門裏の岩場で小さく響いた。
彼は“サイコロの目”に従った。ただそれだけだった。だが、その目が選んだ先には、まるで呼応するように気配が満ちていた。偶然か、運命か、あるいは……。
そして――それは当たった。
木々を揺らしながら、黒装束の奇襲部隊が音もなく接近していた。総数約300。静かに、確実に、東門を包囲する。
敵の斥候が門に手をかけた瞬間。
「今だ!!」
ジードの合図と共に、第二陣が一斉に飛び出す。門をこじ開けようとした敵兵の背後を斬り伏せ、内側から火薬玉が投げ込まれる。
──爆音と炎。
奇襲に来た側が、逆に奇襲を受けた。
「伏兵!?」「なぜここが!?」「くそっ、罠だッ!!」
混乱する敵兵を、第一陣が門前で押さえつける。狭い通路に閉じ込められた敵は、数の優位を活かせず、逆に袋のネズミとなった。
第三陣が門を外から封鎖。脱出路を絶たれた奇襲部隊は、絶望の中で全滅した。
戦いが終わったとき、夜はまだ明けていなかった。
ジードは小さく息を吐き、空を見上げた。
「……賭けに勝った、か」
傍らの副官が息を呑んで尋ねる。
「まさか、本当に来るなんて……ジード殿、これは読んでたんですか?」
「いや、読んだわけじゃねぇ。サイコロが“そう言った”んだよ」
そう言って笑うジードの背に、いつの間にか集まっていた兵士たちが、無言の敬意を込めて目を向けていた。