第十六話
◎
彼が修練を行う場所は、僕の寝かされる場所とよく似ていた。
石造りの円型堂。壁や柱には見事な彫刻が施され、天井は数十メートルの高さがある。教会かモスクのようだ、と彼は言うが、しかしその広大な空間には説教台はもちろん椅子のひとつもない。ただがらんとした冷たい石畳の床が広がるばかりだ。
僕の寝かされる神殿(はじめに抱いた印象からそう呼称している)の正式名称は西方霊堂という。そして彼の使う堂は中央霊堂。この世界のどこに位置するかで安直に名付けられているらしいこの霊堂は、主に霊能力の修練や技術開発に使われる施設だった。建物全体が霊含有率の高い特殊な石材で構成され、またそれを効率的に運用するための回路(見事な彫刻はただの装飾ではなく霊力の流れを潤滑にするためのものらしい)が張り巡らされている。頑丈かつ霊力がふんだんに満ちた空間で、僕は日々気楽な寝たきり生活を謳歌し、彼は日々過酷な修練に取り組んでいるというわけだ。
『ほんま、気味の悪い場所やで』
堂内の環境を僕に説明した後で、彼はぼやいた。
『だだっぴろいのに音がまるで響かん。なんぼ照明つけても天井高すぎるせいかちっとも明るくならん。地下なのに夜の砂漠に放り出されたみたいな気分になるわ』
彼の使う中央霊堂は、僕の寝かされる西方霊堂と異なり、地上ではなく地下に建てられていた。僕のところにある、陽光も月光もあますことなくとりいれる天窓が、彼の地下霊堂にはない。そのため昼夜問わず照明の欠かせない、薄暗く居心地の悪い場所だという。
『なぜわざわざ手間をかけて地下に作ったんだろうね?』
『なんか人にいえん実験とかしてたんちゃう?ここのすぐ上、城やし』
『城?』
『ここはあんたのとこから馬で一日くらい行ったとこにある首都や。そんで首都の中心には行政機関である朝廷があって、ここはさらに、朝廷の中でも一番奥にある、皇帝とか皇子とかが寝起きする寝殿の真下やねん』
『寝殿の地下に霊堂があるのか』
『この霊堂は皇族とごく一部の技師だけが使う特別な場所らしくてな、滅多に人が出入りせん。だから皇帝であるはずのオレが基礎訓練で躓いとっても見咎められることはないんやけど、オレが脅迫されていまの立場強制されてるように、ここの皇族はいろいろきな臭いからな。こういう見えないところで、世界のためやとかいうてえげつない実験やってる気がしてならんわ』
『えげつない実験って、例えば?』
『それこそオレらにしたような召喚術や。知っとるよな?オレやあんたの前にも何人も被験者がおったけど、そいつらは全員失敗して死んだこと』
『ああ。僕という半成功例に至るまで、たしかに多くの人が亡くなったと聞いた』
召喚術は非常に複雑で難解な術式を用いる。また身体的負荷の考慮から、若く優秀な技師から順に犠牲になったという。
夫の死について語る彼女の静かな声を、僕は思い出した。表情に変化は出さなかったが、口調にはこわばりが表れていた。凍った泉の上を歩いているように、ひとつひとつの言葉が慎重に選択され、ひそやかに語られた。彼女はまだ自身の夫を愛しているのだと、そのとき僕は痛感させられた。正直にいって落胆した。その時点で彼女は多くの時間を僕と過ごしていたが、彼女の心はまだ亡き夫にだけ向けられていると気づいたからだ。
あるいは亡くなったはずの夫が、いつまでも僕として生き続けているから、彼女は忘れることができないのかもしれない。しかしそれは僕にはどうしようもないことだった。僕はこの身体で生きるしかなく、僕をこの身体に召喚するよう指揮したのは、他でもない彼女自身だ。僕を夫とはちがう男として見てほしい。僕を僕として受け入れてほしい。彼女と過ごした日々の中で、僕はそればかりを願っていた。もし僕が召喚されたのが彼女の夫の身体でなかったら、彼女の未練はもっと軽くなっていたはずだろう。だからといって、僕は別の身体に召喚されたかったとは思わなかった。僕の死んだ齢よりも若い男の身体に召喚されるのは罪悪感にとても耐えられなかっただろう。当人が選択して手放した身体であろうと、結果的に本来別の人間が生きるはずだった時間を奪っていることになってしまえば、僕はいまほどのんびりと、楽観的にことを構えていられなかっただろう。それこそ本当に救世主となるべく足掻かなければならなかったかもしれない。その点、この身体は気兼ねがなくてよかった。五一歳の老人。僕の世界でいえば平均寿命を超えた、いつ死んでもおかしくない男の身体であれば、なにも気負うことはない。もちろんこの男だってそれなりの覚悟をもって召喚術に挑んだはずだ。この世界の平均寿命がどのくらいかはわからないが、老人たちの様子をみるに僕の時代より長いことは間違いない。それでも人間五十年も生きられれば十分だろう。僕は人生をまっとうした男の、ほんの一握りの時間をもらった。そう思えばこそ、こうしてのんびりと寝たきり生活を謳歌できるというものだ。
彼女の未練や、この男を慕っていたという若い技師たちには申し訳ないが、結局僕はこのまたとない好条件の身体から離れる気は一切なく、またこの身体に入ったことを悪びれもしなかった。
我ながら自己中心的な心持ちだった。よくこれで彼女に嫌われなかったものだ。
いや?どうだろう。表にこそださなかっただけで、彼女は実は、僕のことを嫌っていたのかもしれない。そう考えると悲しくなったが、しかしその方が自然な気がした。
彼女は僕に不自然なほど親切だった。
彼女だけではない。隠居した皇族である僕の世話役の老人たちもみな、どうしてあそこまで僕に親切にしてくれるのだろう?いまさらながら、どうしてただ死を待つばかりの男を生かし、丁寧に世話をしてやる必要があるのだろう?
僕にはまだなにか利用価値があるのかもしれない。そうでなければ説明がつかない。未曽有の大災害を数年後に控え、切羽詰まった状況におかれたこの世界で、たった一人の死にかけに巨大な施設をあてがい、懇切丁寧に介護をする理由が、ただの罪悪感で片付くはずがない。
『おっさん?』
思考に耽っていた僕を、彼が呼び戻す。
『なんや急に黙りこんで』
『ああ……いや、すまない。すこし考え事をしていた』
『寝すぎなんちゃう?ちょっとは身体動かしたらどうや』
『動かしたくても動かせないからね』
『ほんまにちょっとも動かんのか?』
『上半身の感覚はあるよ。肘から先はゆっくりとであれば動かせるし、首や顔の筋肉も問題なく動く』
『下半身はまったくだめなんか』
『胸から下は全くの無感覚だね』
そしてその無感覚領域は日ごとに拡大している。苦痛はないが、身体がすこしずつ溶けだしているようで、気分の良い感覚ではない。
僕は少しずつ、着実に、二度目の死へと向かっている。
止める方法をひとつ、思いつかないでもないが、しかし実行は不可能だ。僕はたとえ瞬きのものだとしても、この二度目の人生に満足している。もちろん、できれば何不自由ない四肢を持ってもっと多くの時間を生きることができればどんなにいいだろうとは思うが、それを叶えるために、他の誰かを犠牲にする気は毛頭ない。
僕はこのままでいいのだ。このまま自然の成り行きにまかせて、大往生を迎えるのだ。
『どうにかならんのか』
ぶっきらぼうに彼は言った。
ならないよ、どうにも。僕はそう思ったが、口には出さなかった。僕は彼に言うつもりはなかった。死がさほど遠くないことも、ひとつだけある助かる方法も。
『不自由はしていないよ』
僕はそれとなく話を逸らす。
『これ以上なく親切な介護人がついているからね』
『……あのジジババか。あんま信用せんほうがええで』
『少なくとも僕に危害を加える気はないようにみえるけどね?毎日の清拭から、マッサージ、体位変換、排せつの手伝いだって嫌な顔ひとつせずにやってくれる。食事もおいしいし、寝床は清潔だし、暇な時の話相手だってしてくれる』
『ただの寝たきりのおっさんにそこまでするのが逆に怪しいやろ』
つい先ほど僕が考えたことをそのまま言われ、思わず苦笑する。
『策略故の親切だとしても、寝たきりのまま捨て置かれるよりずっといい。いずれにしても僕に選択肢はないからね。せいぜい好きなように利用されるさ』
彼は苛立ちをあらわに舌を打った。
『オレは御免や。連中のいいようにされるなんて』
『それじゃあ、はやいところ彼らを脅し返すだけの力をつけよう』
時刻は日没からしばらく。日の名残りもすっかり消え失せ、天窓からのぞく空は藍色一色に代わっている。日中の責務を果たした彼は、今日も修練のため、地下の霊堂に入っている。広大な霊堂には、彼をのぞいて付き添いの側近が二人いるだけだ。(どちらも皇族で、彼女の兄と姉にあたる人物だという)思念通話を完全に習得した彼は、その二人に気取られることなく僕と通話をしている。
『木の枠に曇り硝子が張られた、ランプみたいな照明器具や』
彼は修練に使っているという術具の説明をした。
『硝子の中には蠟燭も電球もない。からっぽや。でも不思議なもんで、これに手をかざして霊力をこめると明かりがつく。オレもたまーにぴかぴか光ることあるけど、ちっとも安定はせん。ダメな時は一晩やっても一回もつかん。側近の二人は撫でるみたいに手かざしただけで眩しいくらい光らせられるんやけどな』
『硝子そのものに発光作用があるんだ』
ほとんどの硝子性物質は霊力に対して発光反応を示す。また込められた霊力を保持しようとする性質も併せ持つため、そのエネルギー効率はこれまであったどんな照明器具よりも高いものであった。よって僕の時代では照明器具は電力由来から霊力由来のものに置き換えられていたし、この時代でも、蠟燭や松明など火力由来のものと霊力由来のものとで割合は半々といったところだった。
『イメージとしては布に水を沁み込ませるようなものだ。水は気化するだろう?それと同じで、込められた霊力は自然に硝子から抜けていく。その際に光を放つんだ』
『理屈はええねん。問題はなんでオレがコレを光らせられんのかっちゅうことや』
彼の焦りは理解できる。硝子はあらゆる物質の中で最も注霊が容易とされている。故に僕の時代でもこの時代でも、硝子への注霊は基礎中の基礎と考えられている。
小さな子供でもこなすことのできる注霊で、彼は二か月ものあいだ躓いている。考えられる一番の理由は、彼に霊力操作の才能がまったくないことだが、しかし思念通話をなんなくこなす彼に才能がないなんてことはありえない。
とすれば、他に考えられる理由は――――
『とりあえず一度、試してみてくれないか』
『わかった』
彼はしばらくの沈黙ののち、ダメや、とため息交じりにいった。
『うんともすんともせん』
『まったく光らない?』
『一瞬光って消えた』
『どうだろう、君自身の感触としては、霊力を流せていると思うかい?この通話と似た感触だと思うけれど』
『正直さっぱりや。そもそもこの通話とは別もんちゃう?通話はアンタの霊力っちゅう筋があるからできるけど、硝子には筋もクソも無いやん』
『その筋に乗せて霊力を発する方が、本来は難しいのだけれどね。――――糸に水を伝わせるより、グラスに水を注ぐ方が簡単だろう?』
僕は自分の訓練時代を思い出しながら言った。
『君は水差しを持っている。水のたっぷり入った水差しだ。ただそれをグラスに注げばいい』
『簡単に言ってくれるわ』
彼はしばらく沈黙したが、やがて投げ出すように、ダメや、と言った。
『イメージしてみたけどさっぱりや』
『そうか……』
あるいは思念通話を容易く会得した彼ならば、玄人向けの指導の方が合っているのかもしれない。
そう考えた僕は、例えを三本目の腕に変えた。
『三本目の腕?』
『そう。――――放出された霊力は君から離れる。それはもはや君の霊力ではない。空気中に漂う、無所属の霊力のひとつとなってしまう。けれど体外へ放出しても、繋がりさえ断ち切らなければ、それを自らの霊力として使役することができる。それが霊力操作だ。自分の霊力を、糸や鎖のように、霊力を体外へ伸ばしていくこと。霊力を身体の一部と認識すること。一流の技師はみな、霊力を見えざる三本目の手として、他二本の手と同じように動かすことができる』
『でもこの照明にはただ霊力を流しこむだけでええんやろ?スイッチがあるわけやないし、細かい操作は必要ないんやろ?』
『ああ、必要ない。霊力を注入されれば硝子は光る。けれど君はどうもその注入の感覚をつかめないようだから、一足飛びに具体的な操作のイメージを持ってはどうかと思ってね。霊力操作を覚えてしまえば、この課題どころか後に用意されているだろう課題も難なくこなせるだろうし』
『簡単に言ってくれるけどなあ……』
『ものは試しだよ。集中して、イメージするんだ――――君の右手、肘のあたりから、その三本目の手は枝分かれする。目には見えないが、他二本の手よりずっと感覚は鋭い。空気中の塵に触れたことがわかるくらいにね。その手は、はじめは右手に沿うように伸びるが、徐々に離れていく。長く細く、君の思うままに』
『なんかちょっとキモいな』
『集中するんだ。――――伸ばした腕で角灯に触れてみてごらん。表面をなでることもできるが、君の透明な腕は角灯をすり抜けることもできる。拳をまるめて、硝子の中にぴったりおさめるんだ。それからその拳を切り離す。手首から先が、ころりと落ちるイメージだね。痛みはもちろんないよ。君はただそこに拳一つ分の霊力を置いてくればいい』
『今度はグロいな……』
『集中』
『わかっとる。――――三本目の手、な……』
彼がそうつぶやくと、子機から伝わる音が変化する。彼の声は途絶え、代わりにさざめきが響く。葉擦れのような、さざ波のような、聞こえはするが聞き取れない音の連なり。僕は瞬時に、それが彼の制御されない無秩序な思考であることを悟る。
『君――――』
慌てて僕は彼に呼びかけたが、彼はまったく反応を示さない。こうなれば僕が子機を外すしかないか、と耳に手をやったが、思いとどまり、僕は待つことにした。
気づいたのだ。彼は制御を失い、思考を垂れ流しているわけではない。あえて制御を放棄し、霊力操作に集中しているのだということに。
僕は驚嘆した。なんという集中力だろう。彼はいま一切の思考を霊力操作のみに向けている。無秩序の状態でもある程度の形を成すはずの思考がすべて瓦解し、最小限のエネルギーで保たれている。集中力もさることながらまた切り替えもすさまじく早かった。それまであった僕との会話の内容さえ一切考えていない。
まるで兵士だ、と僕は思った。僕はある実験で軍所属の兵士数百人の思念を調査したことがあるが、いまの彼の思念の状態は実戦経験の豊富な特殊部隊の兵士のそれに近い。厳しい訓練と日々の研鑽、そしてなによりそれだけの集中力が必要とされる極限状態を経験することによってのみ得られる過集中。
彼によほどの素質があるのか、あるいは役者とは戦場で命をかける兵士と同程度の精神力がなければ務まらない職業なのか。いずれにせよ僕は感服するばかりだった。
やはり彼は、僕なんかよりよほど技師としての才能がある。
なぜならば技師もまた、歴戦の兵士同等の強靭な精神力がなければ務まらないからだ。
『――――うわっ』
集中に入って30秒ほどして、彼が声をあげた。
『うまくいったかい?』
『いや感覚はつかめたかんじするけど……』
『光らなかった?』
『光ったけど、すぐに割れたわ』
『割れた?』
『おお……いてて、あかん、破片刺さったわ……』
なんとか霊力の注入には成功したらしいが、勢い余って角灯を割ってしまったという。
『それは……力むあまり握り潰してしまったということかい?』
『アホか。いまのオレの身体知っとるやろ。こんな細腕でひとかかえもある硝子の塊砕けるわけないやろ』
僕は彼女の腕の太さは知らない。
彼女はいつも皇帝らしい重厚な衣を身にまとっていたから、そのたっぷりとした袖の中にある腕を見たことはない。僕が知っている彼女の柔肌は、その美しいかんばせと袖から伸びた両の手だけだ。顔と同じく、彼女は両の手も美しかった。白く滑らかで、よく手入れされていたが、同時に使いこまれてもいた。実務的、というべきか、爪は短く切りそろえられていて、長く節ばった指にはそれぞれ固い部分があった。ペンだこや、おそらく乗馬でできたマメなんかで、彼女の手は固く覆われていた。
彼女の手に触れた回数は数えるほどだったが、僕はその固く冷たく、やや乾燥気味な彼女の手の感触をよく覚えていた。(手が痺れると言ってさすってもらったり、身体の向きを変えたいと言って介助を頼んだり、僕はなにかと言い訳を作って彼女に触れようとした。浅ましいことは自覚しているが、そうでもしないとガードの硬い彼女の手に僕がふれることは一生なかっただろう。浅ましくも切実な欲求だったのだ)
彼の言う通り、力のある手とはいえない。女性的で繊細、硝子の塊を打ち砕くような握力があるとはとても思えなかった。
『それじゃあまさか、君は霊力だけで硝子を打ち砕いたとでも?』
『そんなんオレに聞かれても――――ああ、なんでもない。かすり傷や』
そこで急に彼の声色が代わった。
どうやらあちらで誰かと会話しているらしい。(僕には子機を通して彼の声だけが聞こえてきた)思念通話のときとはちがう固く冷ややかな声色で、彼は相手に無傷を主張している。
『この程度で治療なんて必要ないわ。唾つけときゃなおる――――ああ、しつこいな。外では使ってへんやろ。――――わかったわかった。これで満足だろう?お望み通り、いつどこでだろうと皇帝らしい言葉遣いをしてやる。だから救急箱ではなく代わりの角灯を持ってこい――――』
彼は大きなため息と舌打ちを吐き出した。
『神経質なやつらめ。絶対将来ハゲるで、アイツら』
『君の兄姉がなにか?』
彼はまた舌を打って、兄姉ちゃうわ、と言った。
『ただの口うるさい看守や。妹の身体オレにとられたんが悔しいんか憎いんか、ほんまありえんくらい当たりキツくて口うるさくてかなわん。いまもオレがちょっと故郷の言葉話しただけで、目の色変えて説教や。どこで誰が聞いてるかもわからん。いついかなるときでも皇帝として振舞えって、そんなん知らんがな。大昔の奴隷やってもうちょい自由あったやろ。人前ではそれらしく振舞ってるんやからそれで満足せえってな。ほんま、あいつらだけはいつか絶対ぎゃふんと言わしたる』
朝の身支度から日中の公務、夜の修練に至るまで、二人は彼の傍から片時も離れないという。僕のところにいる世話役の老人たちと同じで、彼の補佐役兼世話役兼監視役なのだ。しかし一定の距離を保たれており、かつ必要時以外は声をかけてこない老人たちとちがって、二人の補佐官は起床から就寝まで彼にべったりらしい。おまけにすこしでも粗相があれば叱責を与えられる。それはたしかに、想像するだけでうんざりする状況だ。
『やはり君は一刻も早く霊力操作を習得しなければな』
『おお。あいつらに目にもの見せてやんで』
『ただ見返すだけではない。霊力操作を覚えた君に、僕は短時間なりとも本当の自由を与えることができる』
『どういう意味や?』
『そのときがくるまでお楽しみに』
彼がアレを扱えるだけの技術を身に着けられるかはまだ定かではない。それに僕自身、いまの身体でアレを作れるかいまひとつ自信がない。それでもつい彼に期待をさせたくて、僕は先走ったことを口にしてしまう。
『思わせぶりなやっちゃな』
彼は呆れたように言ったが、そこにしっかりと滲んだ期待の色を、僕は聞き逃さなかった。




