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第十三話

 かくして、僕らの間にあった誤解はとかれた。

 百五十年というとてつもない世代差。おまけに彼は()()()()以前の人間だ。観念動力を知らないことも、役者という職業も、関西弁も、すべて得心が行く。彼が僕をおかしな思想家だと一切信用しなかったのも、僕が不審だからでも彼が用心深いからでもない、ただ単に彼が()()()の人間だったからというだけのことだったのだ。


『考えてみればそうだ。なぜこんな単純なことに気づけなかったのだろう。ここは数千から数万年後の未来の地球だ。そして僕らはこの時代の人々が持つ謎の超技術によって過去からこの肉体に再現された人間だ。再現された人間の過去が同一地点である必然性はない』


 すっかり思い込んでいた、と僕は頭を抱える。


『なぜその可能性を考慮しなかったんだろう。いやでもだってそうだろう?この世界の人々が必要としている救世主は技師であるはずだ。僕のように観念動力の扱いに長けた人間であったはずだ。それなのになぜ革命以前の旧世界の人間を再現したんだ?念力を扱えない人間では、時間跳躍術などとても――――』


 自問の答えはすぐに出る。僕は頭から手を放し、勢いよくたたき合わせる。


『――――そうだ!そうだった!君は僕のよう()()されたわけじゃない!自分でこの世界に降り立ったんだ!人工的にではなく偶発的に君再現(てんせい)した存在だった!この世界に都合に合わなくて当然だ!』


 得心のいった僕は汗ばんだ両手を強く握りしめた。


『ようやく納得した。まったくなんてことだ。百五十年もの差に気づかないなんて!それも観念革命というとてつもない角度の転換点を挟んでいるのに!』


 むしろ転換点を挟んでいることを考えれば話は通じていた方なのかもしれない。

 農業、宗教、産業、これまで人類は様々な革命を経てきたが、どれもそれなりに長い時間をかけて行われた革命だった。しかし観念革命は別だ。たったの数年で社会構造を大きく変え、まったく新しい思想形態を生み出した。それまで人類が経験した革命を乗り物の乗り換えに例えるとしたら、農業革命で馬に、宗教革命で馬車に、産業革命で自動車に、人類は乗り換えを行った。そして観念革命では、自分で空を飛ぶ術を得た。馬よりも車よりも、自身の身体で早く移動する手段を発見したのだ。

 観念動力が発見されてから、私たち人間の常識は覆った。

 それまでの人間社会は外的燃料に依存していた。石炭、石油、天然ガス、原子力、太陽光に風力。社会基盤を維持していたのは、そういった人間の外にあるエネルギーだった。外的エネルギーは非常に不安定でかつ制御が困難で、受けた恩恵の分だけ代償を伴った。

 古来より行われていた焼き畑農業では、開拓の手間を省き、より手軽に豊かな土壌を手に入れるため、森に火を放つ。しかしその火はたいていの()()()()()。畑よりよほど多くの恩恵をもたらす山林を焦土に変え、地道な狩りを続ければ尽きることのなかった鳥獣、貴重なタンパク源を一度にすべて手に入れ、ほとんど口をつけることなく腐らせてしまう。それどころか人の住む集落を焼き落とすことさえある。

 時代が進み、より強大なエネルギーが扱われるようになる度、悲惨な事故が相次いだ。二度の世界大戦では事故どころか意図的にそれらが用いられた。その後に続くテロの時代でも、経済と情報の戦争時代でも、人びとは虚栄という恩恵のために、多大な犠牲を払い続けてきた。資源の枯渇、環境破壊、気候変動。外的エネルギーを用いた繁栄は、人類という種の寿命を燃やすことで得た刹那的なものだった。

 観念革命直前、外的エネルギー依存のテクノロジー社会末期を生きていた人びとのほとんどは厭世的な快楽主義者であったという。地球環境はもはや取り返しがつかないところまで悪化していた。ハリケーン、地震、自然火災が後を絶たず、生態系が崩れ、一部の動植物が異常に増殖し、多くの動植物が絶滅した。爆発的な感染力を持つ新種のウイルスが毎年のように現れ、世界的な死因の割合を塗り替え続けた。障害児の出生率が増え、平均寿命は低下の一途だった。不老を限りなく実現した超高度医療はごく一部の富裕層(特異階級(プログレ)の前身だ)しか受けられず、多くの人はウイルスか、環境由来の先天的疾患により命を落とした。

日本人の平均寿命はたしか2060年代の九十歳が最高だった。それがたった七十年かそこいらで半分近くまで落ち込むのだから、継厭世的になるのも無理はない。快楽主義に走るのも当然だ。当時を生きていて、どうして人類に未来があると思えよう。(ちなみに僕の時代でも、平均寿命は五十歳までしか回復しておらず、十歳までの死亡率も一割を切っていない。環境由来による先天的疾患はなくなったが、疾患持ちだった祖先の影響がまだ残っているのだ)

 しかし観念の()()により、人類は首の皮一枚繋がれる。

 すべての問題が解決したわけではない。ほとんどのものは回復されず絶えてしまった。

 それでも道は拓けたのだ。

 人類は再び歩み始めた。観念動力という新たな資源、枯渇することのない内的エネルギーを頼りに。


 僕は観念革命から百年後の世界を生きていたが、歴史を広く見れば、おそらく成長期にあたるところであっただろう。僕が技師になる以前の百年では、主に()()()()が行われていた。これまで外的エネルギーに頼っていた技術、産業を、すべて内的エネルギー、つまり念動力由来のものに置き換える事業が盛んだったのだ。それが落ち着くと、今度は発明が行われるようになった。既存の外的エネルギーでは作りえない、まったく新しい製品が作られるようになった。ドラえもんのひみつ道具ほど突飛なものではないが、少なくとも2050年生まれの彼にとっては魔法のような代物ばかりだろう。


『僕はドラえもんだったんだよ!』


 これ以上的確な表現はないと思い、僕はそう口にした。(先ほどアニメの話をしている中で、ドラえもんも話題に出たのだ)(ちなみに彼が子供のころ一番欲しかったひみつ道具はコエカタマリンだそうだ。彼は小さいころ誰よりも声が大きかったので、それがあれば誰にもケンカに負けないと思ったらしい)(ちなみに僕はもしもボックスが欲しかった。理由は思い出すまでもない)


『……仮にあんたの話が全部ほんまやったとしても、それであんたがドラえもんってことにはならんやろ』


 彼はそう指摘したが、いつもの勢いはなく、明らかに混乱している様子だった。


『ドラえもん自称するんやったらもっとおれを助けて――――いや、ちがうな。そうじゃないわ。は?おっさん、ほんまなんか?ほんまにあんた2200年生まれなんか?』


『神に誓うよ』


 彼は一拍置いてから叫んだ。


『なんでもっとはやく言わんねん!』


 同じことを思っていたよ、と僕は笑った。


『まったくなんてことだろうね。そういえば僕らはまだきちんとした自己紹介をしていなかった。生きていた時代は異なれど、僕らはこの世界にたった二人の転生者だ。互いに関する基本的な個人情報は最初に開示しておくべきだったのに。うっかりしていたよ』


 言ってから、しかし自己紹介の暇も持たせなかったのは彼の方ではないかと思い至る。

 彼ははじめから僕に好感を抱いていなかった、僕は頭のおかしいやつだと決めてかかって、ろくに話を聞いてくれなかった。

 けれどここで彼を責めても仕方がないので、僕は年上らしくその件は水に流すことにする。彼は僕より古い時代の人間だが、生きた時間の長さを考えれば、やはり僕の方が年上なわけで、こういうときに引くのは大人である僕でなければならない。


『さて、君、すれ違いの原因がわかったからには、僕をもう狂人扱いするのはよしてくれよ。たとえ理解できなくても、僕の話をきちんと受け止めてくれ』


 彼は一拍間を置いてから、わかった、と言った。


『突然2200年の人間やって言われても意味わからんけど、でもあんたの言いうことは、たしかに一理あるからな。同じ日本からきたけど、同じ時代の人間とは限らん。立証もできんから、互いの話を信じるしかない』


『君は僕を信じてくれるのかい?』


『一旦な』


 この返答に僕は思わず胸が熱くなった。

 彼を助けたいのに、寝る前の話相手くらいにしかなれなかったもどかしい日々。けれどあの時間は決して無駄ではなかったのだ。あのくだらない、すれ違い続きのおしゃべりは、僕らの間にあった溝をいくらか埋めてくれたらしい。

 なにしろ僕らは初対面が最悪だった。僕はこの第二の生を謳歌していたが、彼は絶望していた。僕らはまったく相反する心持ちで、しかし互いを唯一の同胞としなければならなかった。溝ができて当然だ。僕たちは同じであって同じでなかった。はじめから異なる存在であれば、思想の相違もあるだろう。けれど僕らは同じであったまったく別の考えを持っていた。境遇が同じ分、いっそう互いの理解に苦しんでしまっていたのだ。

 実は同じ境遇どころか百五十年という時代の隔たりがあったとわかったいまでは、なるほどたしかに、よほど相手の考えを理解できる。

 相手を異なる生き物だと認識しなければ、相手の思想が異なることを受け入れるのは難しい。

 僕らはその関門を越えた。あとは時間をかけて、互いの違いを理解していくだけだ。


『それではあらためて、僕は秋田(アキタ)。西暦2200年の7月31日生まれ。両親ともに日本人。兄弟はいない。十八歳までは中央区で、それ以降は特区桃源島にいた。桃源島は東京湾に浮かぶ人工島で、2209年に工房(ファクトリー)のために作られたものだ。工業島と考えてくれればいいかな。僕は十八歳で工房に入ってから四三歳で病気を患うまでずっとそこで働いていた。病気を患ってからはどこかの病院にいれられた。規模からして桃源島か沿岸部か、とにかくどこか特区の中にあるものだったと思うよ。僕はそこで二年間も寝たきりの、ほとんど植物状態で過ごしたんだけど、えらく高価な医療機器に囲まれていたからね。ああ、寝たきりといっても意識はあったんだ。視力と、いくらかの聴力も。それ以外の感覚は死んでいたから、苦痛を感じることもなかったけど、あれは酷く寂しくて虚しい時間だったな。早く死にたいとずっと思っていたよ。そして2245年のおそらく9月に僕は死んだ。享年四五歳。看取ってくれる人はいなかったし、僕のために泣いてくれた人もたぶんいなかっただろう』


 もしかしたらイヌブセさんは僕のために泣いてくれたかもしれない。僕はふとそう思う。特異階級の僕の雇用主は、僕を友だといってくれた。彼であれば、僕のために涙の一粒くらい流してくれたかもしれない。しかし僕はイヌブセさんが、いつも遠くを見ていたあの人が涙している様子をうまく想像できなかった。やはりイヌブセさんは泣かないかもしれない。けれど悲しんではくれたはずだ。


『我ながら幸福とはとてもいえない人生だった。たくさん挫折をして、諦めて、しまいには立ちはだかるすべてから逃げだした結果の、情けない生涯だった。けれどそこで培った技術はここで大いに役に立つ。君を助ける力になれる。それだけで僕の一度目の人生には意味があったことになる。――――僕がずっと君にアドバイスを申し出ていたのは、そのためなんだ』


 彼は観念動力を知らない。当然その開発局である工房も、そこに属する技師のことも。だからずっと僕の話を退けてきたのだ。世間知らずの中年男のたわごとだと。

 けれどそれは、今日で終わりだ。


『僕は君よりずっと未来を生きていた。君の知らない技術とその扱い方を知っている。具体的にいうと、この世界で使われている霊という力。僕らはそれを観念動力と呼んでいた。これは2135年に発見された新たなエネルギーで、僕はその専門技師だった。獲得方法から運用方法まで一通りのことはわかる。君に与えられた当面の課題は霊力の基本操作だろう?この世界にも優秀な教師はいるかもしれないが、みたところこの世界の人々と僕らとでは扱える霊力の質が異なるようだ。事実君はごく基礎的な霊力操作に苦労しているようだし、このままではそれを習得するのにとても時間がかかってしまうだろう。だから――――』


『――――あんたに教えを乞う方が近道、そう言いたいんか?』


 わずかに強張った声で、彼は言った。

 僕はもちろん、と力強く返した。


『正直誰かに技術的指導をした経験はほとんどないから、終えるのがうまいとはいえないかもしれない。けれど少なくともこの世界の人に比べればマシなはずだ。君の()()的感覚は、同じ転生者である僕にしかわからないんだから』


()()な』


 彼は大きく息を吐きながら言った。


『混乱するから統一せえ。あんたにとっちゃ念力でも、オレとこの世界の人間にとっちゃ霊力なんや。混ざるとごちゃごちゃわからんようになるやろ』


 気を付けよう、と僕は言った。

 子供に物の計測方法について教えるとき、インチとセンチを混合する教師はいない。それくらいのことは、僕にも想像がついた。


『さっきも言うたけど、ひとまずはあんたを信じることにする』


 彼はそう前置きした。


『かといって全部を鵜呑みにはせん。あんたの推測が全部外れてる可能性もあるからな。ここは未来やなくて異世界で、あんたもオレも別の世界からきた異界人って可能性もゼロじゃないやろ』


『慎重なのは君の美点だ』


 我ながら気の利いた相槌だと思ったが、彼は舌打ちを返した。


『一言余計や。黙って聞け』


 おとなしく僕は閉口する。


『だからあんたのアドバイスをきいて、うまくいったら、全部本当のことやって信じたる。課題がうまくいってなかったのは図星やしな。けどなんも変わらんかったら、そんときは――――』


 彼の言葉は続かなかった。

 僕のアドバイスが役に立たなかったときどうするのか、おそらく彼も思いつけなかったのだろう。

 まあええわ、と彼は仕切り直し、自己紹介をはじめた。


『オレは(しば)千尋(ちひろ)。2053年4月8日、大阪岸和田出身。二五歳。とーちゃんかーちゃんじーちゃんばーちゃんみんな大阪出身の純大阪人。ゴールデン・プロダクション所属、身長178センチ、体重五八キロ。血液型はB。趣味は競馬。特技は乗馬。好きな食べ物は唐揚げ。尊敬する役者は菅原健。これから演じてみたい役は「光落ちする敵幹部」』


『なるほど』


 実にわかりやすい自己紹介だと思った。ユニークでいかにも彼らしい。

 しかし彼はそんな正直な僕の反応に不服を示した。


『つっこまんかい。いまのは事務所の公式プロフまんま言っただけやで』


『嘘だったのか?』


『いや嘘ではないけど……』


 彼は軽く咳ばらいをした。


『まあ、もうええわ。おっさんのソレはジェネレーションギャップのせいなんやろ。いちいちつっこんでたらキリないわ。一世紀未来の奴と同じ調子で喋れるわけないんやから』


『そんな寂しいことはいわないでくれよ』


 誤解がとけたのは僥倖だが、距離を取られるのは本意ではない。


『きも』


 彼は心底嫌そうに吐き捨てると、それで、と本筋に戻った。


『あんたは歴史とかで過去を習ってるから、オレの生きてた時代のことは大体知っとるやろ。なら改めて詳しく説明する必要はないな』


『歴史はあまり熱心に勉強しなかったから、個人的には是非教えてもらいたいけど』


 彼は僕の要望を黙殺し、せやけど、と続けた。


『オレは未来を知らん。あんたの生きてた時代がどんなもんで、いまのこの世界とどう関係してるのか、まったくわからん。あんたの言うことを信じるなら、あんたの時代にあった技術がここでも使われとるんやろ?なんでや?オレの時代には霊力なんてフィクションの世界にしかなかったで。いったいオレが死んだ後の百五十年で、世界になにがあったんや?』


 もっともな疑問だった。僕らの間にある多くの認識、価値観の相違の発生点、()()()()について説明するため、僕は勢い込んで口を開く。


『それはね――――』


『いや言わんでいいわ』


 鼻っ面をたたかれた気分だ。僕は口をぱくぱくとさせ、行き場をなくした言葉たちを音もなく吐き出していく。


『ゆうたやろ。まだあんたの話を全部鵜呑みにするわけやないって』


 たしかに彼は言った。僕は閉口し、頭の中で思念を組み立てなおす。


『アドバイスが有効だったら、ということだね』


『そういうことや。全部あんたの戯言やったら、話聞いた時間無駄になるやん。まずはさっき言ってたアドバイスを聞かせてもらうわ。そんでそれで課題がうまくこなせるようになったら、改めて聞かせてもらうことにするわ。あんたの時代の話を』


『わかったよ』


 僕は鼻をこすり、天井を見上げる。紺色が薄くなっている。夜明が近い。たしかに今から歴史の話をしても、彼の睡眠時間を削るだけだ。それに僕の目的は彼に歴史の講釈をたれることではない。彼を手助けすることだ。実際的に。現実的に。


『それじゃあさっそくレッスンにとりかかろう。まずはこの思念子機(イヤリング)の正しい使い方を身に着けてもらいたい』


『そういやこれあんたが作ったんやっけ』


 彼の声が途切れる。子機を外したらしい。おそらく、改めてこれがどんな代物か見分しているのだろう。

 僕の推測はあたり、しばらくして返ってきた彼の声は、いかにもお手上げといった様子だった。


『ただのリングにしか見えん』


『材料は羊の骨だけだからね』


『なんで通話できとるんや?』


『これは同じ子羊の骨から作られたものだ。観念――――失礼、()()は人間以外の動植物も有しているが、体内に蓄えられる霊力にはそれぞれ独自の配列がある。僕には僕の、君には君の。子羊Aには子羊Aの、子羊Bには子羊Bのそれぞれのパターンだ。遺伝子と同じで、同じものはひとつとして存在しない。そしてなぜか子羊に限り、体内を流れる霊力はとても結びつきが強い。子羊が死に、骨となっても霊力は外に流れ出すことなく残留を続ける。この結びつきを壊さないよう、慎重に加工して作られたのがこの思念子機だ。僕らが耳にするこのリングは実は子羊の霊力によって結びついている。目に見えない、触れることも切ることもできない霊力の糸によって繋がっている。僕らは互いの霊力を、この糸を這わせて送り合うことで、いまこうして会話しているんだよ』


『糸電話みたいなもんってことか』


 糸電話がなにか僕にはわからなかったが、彼は納得したようだ。


『でもオレ別に霊力なんか使ってへんで。ふつうに喋ってるだけやし』


『霊力の糸というのは比喩ではなく本当に糸の役割も果たすんだ。君が無意識に放出している霊力のカバーもあって、君の声は僕のもとまで届いている』


『じゃああんたは声を出さずにいま喋っとんのか?』


 その通り、と僕は声に出さずに伝える。


『そしてこれは僕の生きていた時代におけるもっとも基礎的な霊力操作方法だった。技師を目指す若者がまず最初に取り組む課題だ』


 ここで彼は待ったをかける。


『あんた、課題をはやくクリアするためのアドバイスをくれるんじゃなかったん?』


『アドバイスをするために、まず僕は君の現状を知らなければならない。疲れ果てた夜の君から話を聞くだけじゃ的確なアドバイスはできないからね。君が実際に課題に取り組んでいる様子を()()()、その場で指示を出すのが最も効率的だ。そのためにまず、君が日中、周囲の誰にも悟られず僕と通話できるように、思念子機の使い方をマスターしなければならない』


『詐欺やん!』


『何事も手順は大切だ』


『ただでさえ毎日課題で疲れとんのやぞ!?ここにきてまたやること増やさなあかんのか!?』


『明日の睡眠時間を増やすためだ』


『いやこれやるなら明日の睡眠時間は100パーセント削れるやろ!』


 騙しやがったな、クソ未来人、百五十歳も年下のくせに生意気やぞ、などと彼はしばらく罵詈雑言をまき散らしていたが、やがて語彙が尽き、短い沈黙を挟んだあと、つぶやいた。


『まあ来週の睡眠時間は増やせるかもしれんか』


 彼はそれだけ言うと思念子機を外してしまった。

 天井から覗く空はすっかり明るくなっている。今日のところは徹夜になってしまった。明日もきっと数時間しか眠れないだろう。けれどきっと来週には、彼は人並みの睡眠時間を獲得できるようになるはずだ。

 希望を胸に僕は眠りについた。

 彼には悪いが、それから僕は誰に邪魔されることもなく、たっぷり十二時間眠った。

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