9話 回想を終えて帰路へつく
「いやあ今年のクラスは騒がしくなりそうだなあ、なあ遥くんよ」
長いようで短かった春休みの回想を終えれば、目の前で喋るのは大地だ。
HRと軽いガイダンスを終え放校となり、クラスメイトは大きく、部活に顔を出すやつや遊びに行くやつで分かれた。俺はひとりでとっとと帰ろうと思ったのだが……大地からどこかへ行こうと捕まってしまった。大地が用事を済ますのを待っている間に、先ほどの告白を見てしまったというわけである。
その後、戻ってきた大地と、こうしてバーガー屋で優雅に飯を飲みながら談笑タイムときている。他に友達もいるのだから彼らと帰ると思っていたが、お節介焼きな大地は俺の相手をしてくれるつもりらしい。
「まぁそうだな。俺も自己紹介であそこまで盛り上がるのを見たのは初めてかもだし。それにお前の声がでかいから騒がしくなるのは間違いないな」
「ひっでえなおい。それにしても白坂さんは今年もすごい人気だったな。お前もさすがに顔と名前くらい知ってるだろ?俺らの代のアイドルみたいなもんだからな」
「いや……アイドル様のことはそんなに知らねえけど。俺去年別なクラスだし、まぁ人気なのは納得のビジュアルだったな」
「ええ……お前ほんとに興味ないのかよ。入学当初なんてめちゃくちゃ告白ラッシュで話題だったのに。先輩でも狙ってるやつ多いんだぜ?まぁみんなあえなく撃沈だけどな」
聞けば入学当初はほとんど毎日告白されるような状況だったらしい。ただその中の誰も受けてもらえるやつはおらず、むざむざと退散していく姿が当たり前となれば、難攻不落の城に挑むようなやつは大きく減った。
いまではたまに本気で想いを伝えるやつもいるものの、たいていは記念受験的な思い出作り感覚で告白するのがほとんどなんだとか。
まぁ……そりゃ辟易するわな。それもしっかりとひとりひとり断ってるとしたら、考えるだけでも嫌になる時間のかかり具合だろう。
「思い出作り……ねえ。まぁそれでいちいち呼び出されたり、断ったりしなきゃいけないのも大変だな。ある意味では贅沢な悩みなんて言われちゃいそうだけどさ」
「性格いいから男子からも女子からも人気だけど……一部の女子からはたしかに煙たがられてるな、モテすぎて。今じゃ男子も憧れで留まってるからマシだけど、自分の好きな男が白坂さんのガチ恋勢だったら不満に思うのも納得よ」
「ふーん、そういやお前話してたっけか。お前も白坂さんいいなーとかって思ったりすんのか?」
俺がそう言うと、大地は少しだけ考えたような素振りを見せたあとビシッと俺に指を突き立てた。
「ヤキモチ、だな……!お前ほんと俺のこと好きだよなあ、なんだかんだ俺のこと見ててよお!でも安心していいぜ、彼女ができてもお前の相手はしてやるからな!」
「はーん、まぁ別にどうでもいいけどな、お前が誰のこと好きでも。マジで興味ねえ」
「スルーかよ……しかもお前から聞いたくせに。ま、白坂さんが可愛いのはガチだけどな。俺としてはなんつうか……お前に似てるように思ってな、なんでか知らねえけど。あと俺は去年同じクラスだったからな、挨拶程度はするさ、それだけの縁よ」
「は?なに、俺がそんなに可愛いって話か?わりいけどお前の気持ちには応えらんねえよ……俺女の子の方が好きだからさ」
「ちげぇよ……!お前はほんとに顔に自信あんだかコンプレックスなんだか分からねえよ……。ま、過去のことでいつまでも思い悩むよりはマシだけどよ、自信もっていいぜ顔だけは整ってるからな!無駄に!」
「知ってる。俺は自分の顔が嫌いなだけで、整ってることは嫌でも自覚してるからな。……自分でもなに言ってるかよくわかんねえけど」
「もったいねえよなあ……俺ならその面ひけらかしてモテモテ生活送るけどな。……っと、つまんねえ話は置いておいてさこの後どうするよ、カラオケでも行くか?」
じろじろと舐め回すように俺の顔を見回したあと、駅前のカラオケチェーン店を親指で指しながら聞く。こいつなりに余計なことを言ったなと気でも遣ってくれたのだろう。
いろいろあってひねくれたことを自覚している俺と、いまでも友人でいてくれる大地はほんとうにいいやつなんだろうなと実感する。
「それはひじょーに魅力的なお誘いなんだけどね、もう日も暮れてきたろ?帰って妹に飯作ってやんなきゃだから。今日はちょっと早く終わったからスーパーもいい時間だし。また別日に誘ってくれよ、どうせ俺部活もやってないから時間あるし」
高校でもバスケ部に所属し、うちの高校は全体的にゆるいとはいえ部活に勤しむ大地は俺より忙しい。対して俺はスーパーに行くか、映画でも見に行くか、大地と遊ぶかくらいの選択肢しかない自由人だ。
「なあハル……無理にとは言わないけどよ、またバスケやる気になったら言えよ?うちはゆるいし、遊びに来るだけでもいいんだから。……立ち直るなら今年だぜ?お前もぼちぼち自信を取り戻していけるといいな」
大地はバンバンと俺の背中を叩きながら、少しだけ声を抑え、ほんの少しだけ真剣な声でそう呟く。冗談めいた言葉なのに、珍しく真剣な顔で言うもんだから俺も茶化せず、「……考えとくよ前向きにな」とだけ応えた。
大地と別れ、俺はイヤホンを耳にぶっ刺してスーパーに向かう。クラス替えは成功と言ってもいい結果だったが、それでも少しブルーになる。
イヤホンから流れる音楽が通知の音でほんの少し途切れた。白坂結衣、今日だけで何度も見たその名前が、俺のスマホの画面に浮かんでいる。
『同じクラスだったね!これからもよろしくお願いします それから空いてる日があれば必ず教えてね?ちなみに私たちは土日行けます!』
『はい それじゃあ日曜に。いつものとこに会いに行きますね』
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