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8話 春休み③

フードコートでの食事を終えて、筆記用具やらいろいろとひなちゃんの入学に備えて必要なものを買いに行った。途中、白坂さんに憧れてかシャーペンを欲しがったひなちゃんを説得するという困難はあったものの、何事もなく買い物を終えることができた。



「ごめんねえ……!ひなはしゃぎすぎちゃったみたいで……」


「ここまで信頼されると嬉しいもんですよ。というか

むしろ俺が背負っちゃってていいんですか?」


「あ、重かった?ごめんね流れでそのまま抱っこさせちゃってた」


「いや全然軽いんで、それは問題ないんですけど。大事な妹さんなわけですし」


「ふふ、今さらそんなこと言う?もうひなほんとに天沢くんのこと大好きみたい。がっちり抱きついちゃって……もし良かったらそのままにしてあげてくれると嬉しいな」


「まぁ……たしかにそうですね。じゃあ大事に抱えさせてもらいます」


そのあと俺たちは他愛もない話なんかをしながら歩いた。彼女たちの家までの道のりをただのんびりと穏やかに。



ーー


「ねえ、そういえば天沢くんってクラス、何組なの?部活とかは?」


他愛もない話のなかで、話題のひとつとして私はなんとなく天沢くんに聞いた。こんなに仲良くしてもらい、お世話になっているのに、私は彼のことをあまり知らない。振り返れば知り合ったこと自体、ごくごく最近のことだったし、それ以前は彼の顔も名前も知らなかった。


「4組です。部活は……高校に入ってからはなんにもやってないですね。中学の頃は……バスケ、やってましたけど」


あんまり上手くはなかったですけどね、と苦笑いしている姿は、落ち着いた雰囲気の彼にしては少し幼く見えた。


「へー!背高いもんね、似合いそう」


「だと良かったんですけど……中学の頃はめちゃくちゃ背低かったんですよ、俺。バスケ辞めてからの方が伸びちゃって、遅いよって感じです」


いつもよりかたい笑顔。一瞬、長めの前髪のすき間から見えた表情を、寂しそうな目を見てすぐに分かった。ああ、これは彼にとっての地雷なんだなと。


私は彼のことをほとんど知らない。知っているのは優しい性格をしていて、落ち着いた雰囲気のとても信頼できる人だということくらい。それだけ知っていれば十分だけど。


でもきっと彼の優しさは、その分傷ついた経験があるからなんだろうなと察せてしまう。


顔を見られるのが苦手。誰にでもコンプレックスや嫌なことはあるけれど、彼にもなにか辛い経験があってそれで苦手になってしまったんだろうということは聞かなくとも分かる。



最初は少し怖い人なのかなと思った。目元まで覆う長い髪と、高くすらっとした身長は、正直男性にあまりいい印象のない私にとっては苦手な分類だ。だから同じ高校の制服を着た彼がひなと一緒にいたあの時、とっさに冷たく帰ってしまった。家に帰ってから、迷子になったひなの面倒を見てくれたと聞いて、申し訳ない気持ちにもなったが、無事だったことへの安堵の方が大きかった。


それでもお兄ちゃんに会いたいと何度もせがまれるので、いっそ会えなければ諦めもつくだろうと思い連れて行った。お礼を言えていないことは罪悪感もあったので、もし会えたとしてもお礼を告げて楽になれると思った。


もう一度会ったとき、ひなの懐き方にも驚いた。まだ幼く、多少人見知りをする子だったひなのようすは初めて見るものだったかもしれない。それに彼はほんとうに優しく穏やかにひなを見つめていた。私に対して、好かれようとも思わないその態度に好感を持った。


最初は私のことを知らないと思ったが、知っていてもその態度だったことに驚かされた。少なくとも高校に入ってから、異性としてではなく、ひとりの人間として男性に接してもらえたことは初めてだった気がした。


ひなが遊びたがったこともあり、彼の誘いを受けて公園で過ごした。趣味が同じだったりと、思いのほか話が合うこともあり居心地がいいなと感じた。


それから連絡先を交換し、ひなと遊んでもらうという特殊な関係になったものの、彼はなにも求めず、ただただほんとにひなの相手をすることを楽しんでくれたように思えた。今日だって、少し寂しさすら感じるほどにひなのことを一番に考えてくれていたのだから。


「ねえ天沢くん……次のクラス、一緒になれるといいね」


「え?……そうですね!俺も白坂さんと一緒だったら楽しいだろうなって思います」


天沢くんは少しだけ困ったような顔をして、そのあといつも通りの柔らかい笑顔を向けてくれた。


ああ、ほんとうに優しい人だなと思う。嘘は少し下手だけど。


きっと彼は注目されるとか、そういうのが嫌なんだろう。きっと昔にそうさせるなにかがあったから。


自分でも私が有名になってしまったと分かっている。そんな私が学校で話しかけでもしたら、それは彼の穏やかな日々を壊してしまうだろう。


贅沢な悩みだけど、モテたくなんてなかったなあ。いっぱいの知らない男性よりも、目の前の男の子のことをもう少し知りたい。これはまだ恋とかそういうものではないけれど。


「学校……始まっても仲良くしてくれる?ひなと……私とも」


「ええ、それはもちろんですよ。むしろ俺の方がいいんですか?って感じですから」


同じ笑顔だけど、今度は嘘じゃないなと思う。その返事が嬉しかった。だってそれは彼にとってもこの時間が、心地の良いものになっているということだと思うから。


「でもね天沢くん……私はね、一緒のクラスがいいなってほんとに思ってるよ。天沢くん的には……迷惑かもしれないけど」


「ごめんなさい……ほんとに迷惑とかじゃなくて。ほら、俺あんま友達いなくて!人付き合いとかもすっかりダメになったし……ダサいとこ見られんのちょっと恥ずかしいなって……!」


「えー?ふふ、なんか……可愛いね!天沢くんもそういうこと思うんだ、ちょっと意外かも」


「からかわないでください……!……いま同じクラスになりたくないなって本気で思いましたよ!」


「またまたぁ!ひなも起きてたら、お兄ちゃん可愛いね!って言ってるよー絶対!」


「あんたそんなキャラじゃないでしょ……!もう……調子狂うなあ……!」



少し拗ねたような口調でそっぽを向いてしまう。


彼がなぜか自分に自信がなくて良かったかもしれない。きっとみんなに知られたらあっという間に人気になってしまうだろう。だからずるいけれど、今はまだこのまま私だけ知っていれたらいいのになんて。



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