7話 春休み②
俺たちは絵本のプレゼント、そして元々の目的だった辞書や勉強道具を買って本屋を出た。ひなちゃんはいざ渡してみるまでずっと、どこかそわそわした様子でいたが、プレゼントをどうぞと渡してみると嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれた。
こんなに喜んでもらえると、プレゼントを贈った俺の方が嬉しい気持ちになる。ひなちゃんの頭を撫でつつ、妹にもなんか買ってやるかなんて思った。
「天沢くんありがとね!プレゼントのこともそうだけど、他にもいろいろとね!ひながこんなに嬉しそうなの、ほんとに久々なんだー。普段はお母さんも忙しいから、いつも私とばっかりで。天沢くんと一緒でほんとに楽しそうなんだよ?私より好きなんじゃない?って思うくらいね」
ひなちゃんはいま買った絵本を抱きしめながら俺の右手と手を繋いでいる。妹の楽しそうな姿が嬉しいのと同時に、少し寂しさを感じるのかもな。もし仮に幼い頃の紬が俺より大地と手を繋いでたりなんかしたら、俺なら絶対許さないだろうし。
「そりゃ大好きなお姉ちゃんと一緒ですからね。だから安心して俺と遊んでくれてるんですよ」
「ええと……それはどういう?」
「だって白坂さんはずっと一緒に居てくれるって分かってるんですよ。でも俺は家に帰るし、会える時間も限られてますから。それにひなちゃんがお姉ちゃん大好きっ子なのは、もう痛いくらい伝わってきますもん。ちょー可愛いでしょ?」
「そうだねえ……ちょー可愛いね!」
「それに、俺初めてひなちゃんに会った時お姉ちゃんはどんな人?って聞いたんです。俺としては身長とか髪型とかを聞きたかったんですけど……。ひなちゃんはお姉ちゃんがどんなに可愛いかとか綺麗で優しいかばっかり教えてくれて。」
あの日のひなちゃんは可愛かったけど、あんときは少し困ったなあ……。まさかあの時の迷子の子と仲良くなるなんて。
「それを聞いてたら、ああ、素敵なひとなんだなってわかりましたから。まぁ会ってみたら想像よりもっと素敵なお姉ちゃんでしたけどね!」
「……天沢くんさあ、モテるでしょ?聞き上手だし。なんかちょっとずるいなあ……!」
俺は少しちゃけたつもりが、急な話題の転換に思わずぽかんとしてしまう。この人モテすぎてモテるの基準がおかしくなってるのかな。
「……からかってます?どう考えてもモテないでしょ、自分で言うのもあれですけど、そもそもこの髪型ですよ?あと俺高校に友達ほとんどいないですからね、自慢じゃないですけど」
「からかってないんてないけどなあ……。だけど……正直髪を伸ばしてる理由は気になってたんだよね。あ、もちろん嫌なら言わなくていいんだよ!」
慌てたように手をぶんぶんと振っている。気になるのは当然だろうし、むしろ聞いてこなかったことの方が驚きだ。こういう細かな気遣いが、話すのが苦手となった俺でも、彼女と話すのが嫌ではない理由だろう。
「別に大した理由じゃないですし大丈夫ですよ。ただ……単純に人の視線がダメな時があって。こうやって前髪で視界を覆ってると落ち着くんです。どうしても顔を見られるのが苦手で」
彼女はそうなんだねえ、苦手なことはあるよね、とだけ話した後、ごくごく自然に話題を変えてくれた。聞かれても嫌じゃないところは聞いてくれて、嫌なところには踏み入れないその距離感が心地良かった。
「お姉ちゃん……おなかへった……」
ひなちゃんの鶴の一声で俺たちはフードコートに来ている。いろいろな飲食店の入ったエリアは大人も子どもも不思議と惹きつけられてしまう。ただし、この選択肢の多さはかえってアダとなるときがあるのだ。
特に子どもにとって夢のようなこの場所は。
「ひなちゃん何食べたい?」
「うどん!!あとねあとね、ハンバーガー!ドーナツ!」
王道どころを選ぶいいセンスだ。それにこの歳でここまで絞れていることもすごい。俺がこの歳の頃は全然選び切れずに駄々をこねていたらしいからな。結局いつもは二種類くらいを買ってもらい、食べきれず父親に食べてもらった記憶がほのかに思い出される。
「白坂さんは何食べますか?俺は丼系か、それこそハンバーガーもいいなって感じですけど」
「んーでもひなが一人前食べきれないかもだからなあ」
「あー小さい子は食べる量読めないっすもんね。食べ切れなかったら俺食べますよ?あ、それか量気になるならみんなでシェアってことにします?」
「なんて魅力的な……丼系って言うとなに食べたい感じです?私としてはね……ローストビーフ丼が気になるのだけど……!」
「いいですね!じゃあローストビーフに、バーガー、それからひなちゃんの好きなうどんを頼んで、デザートにドーナツにしましょう。決まりですね!」
「でも食べ切れる?ひな多分普通の一人前食べたがるから、結構な量になっちゃうけど……」
「大丈夫です!俺も男ですよ?意外と食べるんですよ。バーガーはモバイルできそうなんで、俺がひなちゃんとうどん買いに行きますよ、そっちはお願いしてもいいですか?」
「かしこまりました!じゃあごめんだけど、ひなのことちょっとだけお願いね!」
仮にも妹を預けるにしては、振り返ることもなくずいぶんとあっさりと別行動となった。信頼されているのだろうとは思うが……少し不用心な気もするな。
それぞれオーダーも終わり、商品の受け取りも済ませ改めて席に座る。基本的には俺はハンバーガーのセットを、ひなちゃんはうどん、白坂さんはローストビーフ丼を食べる。そこから少しずつシェアをしようというシステムだ。ひなちゃんはさっそく食べたがっていたのでとりあえずハンバーガーをひと口。
「おいしい!お兄ちゃんもうどん、たべる?」
「じゃあひなちゃんが食べ切れなかったらもらおうかな。まずは気にしないで好きに食べなよ、ほらお姉ちゃんのローストビーフも食べてみたら?」
「うん!あとね、ポテトもたべていーい?」
「はは、もちろんいいよ。どうぞ遠慮なく、もちろん白坂さんもどうぞ」
そう言って差し出せば、ひなちゃんは遠慮なく、白坂さんは少し遠慮ぎみに食べ始めた。
三人でシェアをしつつ食べたが、やはりひなちゃんは自分の想像より食べられないらしくギブアップだ。
「お兄ちゃん……おなかいっぱいになっちゃった……ごめんなさい……」
「ううん、いいんだよ、全然大丈夫だから。むしろちょっと食べたいなって思ってたくらいだからね。でもそのようすだとドーナツは厳しいかな?」
「うう……たべたかったのに……!」
「ひな、もし帰りに食べたかったらテイクアウトしよっか。それにいつでも買いに来れるんだしさ」
「お兄ちゃんは……?いっしよ?」
「ひなちゃんが一緒に食べたいって思ってくれたら、俺はいつでも来るよ。だから、また来ようか」
何度かほんとに?と念を押して聞かれたが、必ず行くよと約束すると安心したようにゆるゆるの笑顔を見せてくれた。
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